第52話

 ――ガサ、ガサガサッ


「あ痛っ! ちょ、マジ押さないでって感じぃ。今せっかくいいところなんだからぁ」


「つーか、テメエが邪魔しててよく見えねーんだよ。もっと横にずれろっての!」


「あらあら~、お二人とも、もっと仲良く見ましょうねぇ~。クライマックスシーンは、静かに鑑賞するものですわよぉ~~」


「というか、貴女達。そんな大きな声出したら気付かれるわよ」


「――ていうか、もう気付いてるんですけどっ!!!!」


「うわぁーーーー!!!!」

私の声に、土手の横の草むらから様子を伺っていた出歯亀達が、ズルズルと下へ落ちていった。


「あ、あんたら~! 揃いも揃って何やってんのよーー!!」


「わ、わたくしは別に、お、お二人の逢い引きのお邪魔をしようとか、そ、そんなつもりは一切ございませんでしたのよぉ~~」


「おう! そーだぜ! アタシはテメエら二人のなんつーか、情事が成功するように見守ろうと思っていただけなんだからな!」


「情事って……朱実アンタ、意味分かってて使ってるのかしら?」


「えっとぉ、要するにぃ~、二人がじれったいからぁ~、皆、待ちきれなかったみたいな感じぃ~~?」

全員が、好き勝手に言いたいことを言っている。


「あ、あんたら……揃いも揃って、言いたい放題……もう、いい加減にしろぉーー!!」


「わわー! ユ、ユカリンが怒ったー!!」


「待ちなさい! 美夏ー!!」


「あ……あの、僕の告白は……??」


 二つから六つに増えた黒いシルエットは、滅茶苦茶に重なりあいながら、完全に夕日が沈むまでいつまでも戯れ続けていた。



最終章 未来


「――それじゃ、お母さん、学校行って来るねー!」


「あ、出てきたっ!」


「ホントだっ! 由香里、おはよう!」


「二人とも、おはよう! ――あっ、ちょっと待って。……メールが来ちゃった……」


「えっ。こんな朝早くに誰から? ――っていうか! 由香里?! 何その待ち受け?!

一緒に写ってる男の人誰よ!! 結構イケメンなんですけど?!」


「え?! イ、イケメン?? 由香里、いつの間に?! あたしの先越すとか、許せないんだけど!!」


「それに一緒に抱いてるこのパグ犬は?? 由香里の家って犬飼ってたっけ?」


「うふふ。それはね。――内緒っー!!」


「――ちょっ……! 何その、内緒っー!! って! なんかムカつく~! 教えなさいよ、由香里~!!」


 ――家の前で友達とふざけ合いながら、私はふと空を見上げた。

 じっと見つめていると、なんだかそこに溶けてしまいそうな気持ちになる。

 まるで、地球と私がお互いの境界線を失ってしまったかのように――。


 半年前に、私が感じていた世界との違和感は、もうどこにも見当たらない。


 再び目の前へ視線を戻すと、どこまでも続く通学路が見えている。

 この道の先に、これから始まる私達の世界が待っているんだ。


 ――私は深く息を吸い込んで、ゆっくりと一歩を踏み出した。


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私達の境界線 maro @several

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