第51話
「よかったね、由香里ちゃん。二人とも、そして二匹とも元気そうだったよね」
「うん。だけど、私達は全て元に戻ったのに、他の人達に起きた現実は、変わっていない部分があったんだね」
「あ、それは紗弥加さんが言ってたんだけど、やっぱり人間を媒介とした欠片の力のエネルギーでは、時間も含めて全てを無かった事にするのは難しいらしいんだ。
だから、僕達が犬になっていた時の出来事と部分的に似ている事象を起こすことで、運命の辻褄を調整しているんだってさ」
「そうだったんだ。……だけど、良かった。チャッピーが戻ってくれてて。
――あっ、それより、明生くん。本当にありがとうね。こんな所まで一緒に来てくれて……」
「ううん。そんな事は全然いいんだよ。それより……」
「ん? 何? 明生くん」
「い、いや、そのさ……。ゆ、由香里ちゃんは、もしかして、好きな人とかいるのかな……?」
と、明生くんが、もごもごと小さな声で聞いてきた。
「え? す、好きな人って……どうして急にそんなこと。――でも……そうだね……い、いることは、いるかも……」
と、私も弱々しく答えた。
「え……? そ、そうか、そうだよね。や、やっぱり。……それって実は……あ、敦くん……なのかな?」
「――え?! ち、違うよ! 何言ってるの、明生くん?!
そ、それは確かに、敦くんの事は心配だったけど……でも、それは、全然そういうのじゃないし!」
「あ! そ、そうだったんだ……ご、ごめん……!
僕はてっきり、由香里ちゃんが敦くんのことを、す、好きだったんだと思って……」
「――そ、そう言う明生くんこそ……斉藤さんのこと、好きだったんじゃない?」
「え?! ち、違うよ! ど、どうしてそうなるの?」
「だ、だって……前に学校で斉藤さんを見かけた時、明生くん、斉藤さんを見ながら、綺麗な娘だな~って言ってたから……」
「あっ……! そ、それは……その、なんていうか……い、言ったかも知れないけど、別に好きとかそういうんじゃなくて、
あ、そうそう! 例えば、テレビに映るアイドルが綺麗とか、そういう感じだったから……」
「ふ、ふうん。……じゃあ、明生くんには、斉藤さんがアイドルみたいに見えるってことなんだ……」
と、私は明生くんの目を見ながら言った。
「い、いや……! そ、そういうことでもなくて。……ああ、もう! 僕は気になって仕方ないんだよ……!」
「――あ……気になるんだね。……やっぱり明生くん、斉藤さんのことが好きなんだ……」
「ち、違う……そ、そうじゃなくて! 僕が気になっているのは、由香里ちゃんが好きなのは誰かということで
――い、いや……ち、違うな。……だ、誰を好きかどうかはこの際置いといて、僕が言いたいのは……その、ええと……」
「クスッ……」
「え?」
「クスクス……」
「あ……ゆ、由香里ちゃん……。僕、何か変なこと言ってたかな……?」
「い、言ってるよ……。だ、だって明生くん、す、凄く必死なんだもん……クスクス……」
「あ、あはは……そ、そっか! そ、そうだよね! あ、あははは!」
「――私はね……好きだよ……明生くんのことが」
「ああ……そっかあ……って?! ――え、ええっーー?!」
「初めて港で会った時も、センターからも助け出してくれた時も、どんな大変な時でも明生くんはいつも私を励ましてくれてた。
いつだって、私の支えになってくれてた……」
「――ゆ、由香里ちゃん……」
「だ、だから私、……明生くんに感謝してもしきれないよ……私、明生くんのこと、本当に……本当に……」
「――ま、待って! そ、それなら! 僕だって同じだよ!! 僕も由香里ちゃんがいたから頑張れたんだ!
由香里ちゃんと一緒にいるだけで、どんな時だって僕は元気になれる!
僕は由香里ちゃんが側にいると思うだけで、普段だったら出せないような勇気が出るんだ!
だ、だから、だから僕は、そんな由香里ちゃんのことが……」
「あ、明生くん……」
「由香里ちゃん……」
そう言うと私達は、お互いにどちらともなく近づいていった。
夕日が逆光になって、遠目からは二人の姿が黒いシルエットのように見えている。
その二つのシルエットが、次第に近付いて一つになっていき……そして。
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