第49話

「お、大食いギャル……聞いてないんですけど……」

それからの美夏は、それこそ街のお店の食べ物を全て食べ尽くしてしまうかのような、

先刻の戦いで紀元博士が作ったブラックホールの吸引力もかくやと言わんばかりの怒涛の勢いで食べまくった。


「あ、あああ……」

最後のお寿司を食べた時点で(と言っても、もちろん普通のお寿司屋さんではなく回転寿司だったのだが)

 気が付けば私のお財布の中身は殆ど尽きかけていた。


「あ~美味しかったぁ、ユカリンご馳走様ぁー!!」

そんな私のお財布の中身とは裏腹に、美夏のお腹は満腹になったようで、私を見て嬉しそうにお礼を言った。


 お店の外へ出ると、空はいつの間にか青とオレンジの中間のような色に変わっていて、

犬だった時の緊張していた時間と比べると、人間に戻って皆で平和に過ごす時間の流れの速さを感じずにはいられなかった。


「ふふ。結局、今日は美夏の大食いパフォーマンスの鑑賞会で終わっちゃったわね」

と、紗弥加さんが私の横で小さく笑う。


「これからは、またいつでも会えますわぁ~~」

と、美咲さんが私と紗弥加さんの顔を交互に見ながら言った。


「そうですよね、美咲さん。またきっと、皆で」


 それから、私達は駅までの帰り道、ウインドーショッピングをしたりしながらブラブラと歩いた。


 ――そして駅に着くと、


「それじゃあ、アタシはバイクだから。ここでな」

そう言って朱実さんは、皆に背を向けて歩きだした。


「あっ、朱実さん! あの……ありがとう! 山で戦った時に皆を助けてくれて!」

と、私は朱実さんの後ろ姿に向かってお礼を言った。

 私の声に、朱実さんは振り返ることなく右手を上げて答えると、駅の向こうの駐車場へ消えた。


 すると、今度は紗弥加さんが、

「私も行くわね」

と言って歩き出した。


「紗弥加さん。私……犬になった時、最初に紗弥加さんと出会えて本当に良かった。もし紗弥加さんと会えなかったら、

きっと皆、人間に戻ることなんて出来なかったと思う!」


「それはこっちのセリフよ。私も貴女達に教えられたわ。シャーマンである以前に、人として大切な事をね」

そう言って手を振ると、紗弥加さんも駅の向こうへと消えていった。


「わたくし達も、そろそろ行きますわねぇ~~」

「ユカリン、アッキー、またねぇ~~!」


「美咲さん、美夏……」


「もうっ、ユカリンたらぁ~! そんな顔しないでってばぁ~、あたしも寂しくなっちゃうしぃ~~!」

「そうですわぁ~、由香里さん、また会えますわよぉ~~」


 私達はそう言って、三人で抱き合った。

 そして、また必ず再開する約束をして別れた――。


「――皆、行っちゃったね……」

「そうだね……明生くん」

私はそう言いながら、明生くんと目が合って思わず耳が赤くなってしまった。


 別れ際に美夏が、

「ねぇ、ユカリン、あんまりグズグズしてたら、アッキーって意外とイケメンだから、誰かに持って行かれちゃうかもよぉ?」

と、こっそり私の耳元で囁いて行ったからだ。


「どうしたの、由香里ちゃん?」

そんな私の様子を不思議そうに見ながら、明生くんが尋ねてきた。


「あっ! う、ううん! な、なんでもないよ! えっと、ゆ、夕日が綺麗って思ったから……」

私は焦って、誤魔化すように言った。


「そうだね……本当に綺麗な夕日だね。でも、こんな夕日が見られるのも、きっと僕達が地球に生まれたからなんだよね」


「うん……」


「僕、思ったんだけどさ、美夏ちゃんが言ってた全員が楽しく笑って暮らせる世界って、いつかあの赤ちゃんの博士が大きくなった時に、

地球と人間が共存して、人も自然も動物も皆一緒に仲良く暮らせるようになる、そんな世界のことなんじゃないのかな……」

と、明生くんが夕日を見ながら言った。


「うん、そうだね。きっとそうだよ。その為に私達も頑張らないとだよね!」


「うん! 一緒に頑張ろうね! 由香里ちゃん!」

そう言って私達は、顔を見合わせながら笑った。


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