第48話
「可愛い。……でも、誰の赤ちゃん?」
と、私が聞くと、
「えへへ。実はさぁ、親戚に紀元って苗字の人がいて、この子の名前に”一徳”って付けたみたいな感じぃ~?」
「え、ええー?!」
美夏の言葉に一同が驚きの声を上げた。
紗弥加さんは、携帯の画像に手をかざしながら、
「間違いない……本人ね……」と呟いて、
「美夏。貴女、欠片の力と対峙したあの時、何を思っていたの?」
と、聞いた。
すると美夏は、
「えっとねぇ、あたし達もぉ。博士もぉ~。地球にいる全員がぁ。楽しく笑って暮らせる世界なったらいいなぁ~みたいなぁ~?」
と、答えた。
「み、美夏ちゃん……あ、あなたって娘は、本当に、本当に……うう、ううう~~」
と、美咲さんが目をウルウルさせながら感激する。
「ケッ! 手っ取り早くアタシが支配する世界を願っていれば、もっと面白いことになってたのによ。
ま、しゃーねえな。今回だけは認めてやるよ。――でもな! だからって別に褒めてる訳じゃねーんだぞ!」
「とんだツンデレね。アンタが言っても全然可愛くないわよ」
「あぁん?! なんだ紗弥加、そのツンデレってのはよ! なんだか知らねーが、喧嘩売ってんなら買うぞコラ!」
「ぷぷっ……! あははは!!」
そんな、紗弥加さんと朱実さんのやり取りを見ていた私達は、思わず吹きだした。
「あぁん?! なんだテメエら! 笑うんじゃねぇ! 全員焼き入れっぞコラァー!」
と、朱実さんは怒りながら言ったけど、でも、私にはちょっとだけ楽しそうな顔に見えた。
「あ、そういえば、朱実さんの子分の野良犬さん達はどうなったのかな……?」
と、私が聞くと、
「ああ、アイツらは今、麻薬探知犬訓練センターにいるぜ」
と、朱実さんが言った。
「朱実の仕事は犬のブリーダーなのよ」
と、紗弥加さんが付け加える。
「え!? そ、そうだったんですか……知らなかった……でも、無事だったんですね。良かった」
「当たりめーだろ。アイツらはそんな簡単にくたばるような、ヤワな鍛え方してねーんだよ!
毎年センターから定期的に依頼されて犬どもを送ってんだぜ。アタシの育てた犬は全部が即戦力だからな」
「ところでさぁ~、ユッカリーン? 何か大切なことを忘れてるみたいな感じしないみたいなぁ~??」
と、美夏が突然ニヤッとしながら、私に言った。
「え?」
「え? じゃなくってぇ~、約束したの忘れちゃったのぉ~? ほらほらぁ、人間に戻れたらさぁ、なんでもって言ったじゃん~~?
あたし、チョー楽しみにしてたんだけどなぁ~~?」
「あ……!」
そうだった。……私はすっかり忘れていたのだ。研究所へ忍び込んだ時に、美夏としたあの約束のことを……。
駅に着いた時とはまた違う、血の気の引く音が聞こえたような気がして呆然としている私の肩を、
紗弥加さんがあの時と全く同じようにポンッと軽く叩いた。
「――マジでチョー美味しぃ~~!!」
美夏がクレープを頬張りながら絶叫した。
そして、あっという間に二、三枚枚平らげると、
「次はぁ~~!! ティラミスとぉ~。チーズケーキとぉ~。アイスクリームとぉ~。あんみつとぉ~。たい焼きとぉ~。
パスタとぉ~。グラタンとぉ~。ハンバーグとぉ~。お寿司~!! マジ、チョー楽しい~~!! どんどん行こーー!!」
「――え……ほ、本当にそんなに? じ、冗談だよね?」
私は念の為、家を出る時に貯金箱からほとんどのお金を下ろしていた。でも、本当にこの勢いで美夏が全部食べるとしたら……。
お財布の中を見ながら、私は戦慄する。
「由香里さん~。実は美夏ちゃんは、超大食いギャルとしてテレビ局から出演依頼が来る程の食いしん坊さんなのですわぁ~。
ですから、これくらいはいつも余裕で食べてしまうんですのよぉ~~」
と、美咲さんがまるで自分のことのように自慢気に言いながら、胸を張った。
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