第47話

「貴女だけ戻るのが遅くなった理由は、あの状況下で欠片の力の発動が不安定だったせいもあるけれど、

それ以上に、貴女自身が自分が戻ることよりも皆を戻したいという思いを優先させていたことが原因よ」


「う、うう、ゆ、由香里さん、あなたって……あなたって人は……なんていい人なのぉ~~」


「それでさ、……本当は僕、すぐに話したかったんだけど、皆がどうしてもサプライズにしようって言うもんだから、仕方なく……」


「ケッケッケッ! まぁ、テメエの驚いてる顔は、結構おもしれーけどな」

皆がそれぞれ矢継ぎ早に話していくので、私はほとんどその内容を理解出来なかった。


 だけど、ただ一つだけ分ったことは……。


「よ、よかっ……み、皆、よ、よかっ……」

「ユ、ユカリン? どうしたの??」

「由香里さん、ま、まさか、どこか具合が悪いんですの??」

いつのまにか、私は泣いてしまっていた。止めようとしても、勝手に涙がどんどん流れてしまう。


「ゆ、由香里ちゃん?! ご、ごめん! 僕のせいだよね! 僕が黙っていたから!!」


 私はただ首を横に振るだけで、声を出すことが出来なかった。すると、


「よくがんばったわね、由香里。おかえりなさい」と、紗弥加さんが前へ出てきて、私をゆっくりと抱きしめてくれた。


「ふ、ふぇぇ、ユ、ユカリンー!!」


「ゆ、由香里さん~~!!」


 そこに美夏と美咲さんも混ざってきて、人通りの多い駅前にも関わらず、私達はお互いに抱き合いながら、子供みたいな声を出して泣いた。



 ようやく落ち着いた私達は、駅前の広場にあるベンチに腰掛けた。

 そして、改めて皆の姿を見てみると、美夏は大きく盛った明るいベージュの髪に、

ラメ入りのハートマークが付いた白いパーカーと、フリルの付いた可愛いピンクのミニスカートを履いている。


 紗弥加さんは、長いストレートの黒髪で、淡いベージュの花柄ワンピースの上から白いカーディガンを羽織った格好。

 

 美咲さんは、明るめの髪をツインテールにした、ピンクとホワイトのゴスロリワンピース。


 朱実さんは、ショートカットの金髪で、刺繍の入ったグレーのタンクトップの上から、黒いレザーのジャケットを羽織っていた。


 私はというと、黒髪のボブカットに赤いチェックのシャツにデニムのショートパンツといった、

皆と比べ若干カジュアル過ぎな感じもする格好だったので、ちょっと気後れしてしまっていた。


 そんなこともあって私が少しモジモジとしていると、紗弥加さんがここに至るまでの経緯を説明してくれた。


「あの後、欠片の力で私達は、それぞれが住んでいた場所へ戻っていたの。

私はすぐに、地の精の力であなた達の居場所を探ったのだけど、その時点では由香里だけまだ戻っていなかったのよね」


「僕達は全員、紗弥加さんにテレパシーで呼ばれてすぐに集まったんだけど、

由香里ちゃんだけまだ戻って来てないって言うもんだからめちゃめちゃ驚いたんだよ」


「あの時の明生さんの狼狽する姿は、本当に凄かったですわねぇ~~」


「そうね。説明しようとしたのに、もう一度犬の世界へ戻ろうとか言い出して私の肩を思いっきり揺さぶるから、話す隙が無かったわよ」


「明生くん……」

それを聞いた私が、明生くんを見ると、


「い、いや、あ、あれはその……だ、だってさ、由香里ちゃんがいなかったら、僕らだけ戻って来たって、その……」


「ありがとう、明生くん」

と、私が感激しながら言うと、


「え? い、いや、そんな……あ、あはは」

と、明生くんは照れたように笑った。


「あ、そういえば、榊山さんはどうなったんだろう……?」

と、私が思い出したように言うと、紗弥加さんが手に持っていたバッグから新聞を取り出し、その中の一面を開いて私に渡してくれた。


 そこには――『国際共同利用機関法人・自然科学研究所の所長に、榊山道成(さかきやま・みちなり)氏が就任』という記事が記載されていた。


「榊山さんが所長なら、きっともう紀元博士みたいなことにはならないだろうから、安心だよね」

と、明生くんが言うと、


「うん。良かった……」

と、私も呟いた。すると、


「ねぇねぇ、皆見て見てぇ~~」

と、突然美夏が、携帯の画面を開きながらこちらへと向けた。

 そこには、生まれたての赤ちゃんの画像が映っている。

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