第46話

 ――目的の駅までは、各駅停車で六駅程あった。


「走ると大変だったけど、電車なら楽だね」

と、窓から流れている景色を見ながら明生くんが言った。


 それなりに近所だったのに、人間の時にはほとんど行ったことがない駅だった。


「だからあの時、なんだか新鮮に見えたんだ……」

と、私も景色を見ながら呟いた。


 程なく目的の駅へ着いた私達は、駅を降りると街へ出た。


「この街だ……」


 私は犬だった時に、皆でここへ来た時のことを思い返していた。

 もう一度この街で美夏に、そして皆に会いたい……。


「ね、ねえ、明生くん。この世界は本当に元通りになったのかな? 皆は本当に大丈夫なのかな?? 

――私心配だよ。……さ、探そう! 今から皆を探そうよ、明生くん!!」

と、私は明生くんの顔を見ながら言った。すると、


「あのね、由香里ちゃん。……実は僕、皆のことで、まだ由香里ちゃんに言ってないことがあるんだ」

と、明生くんは深刻な顔で言った。


「え……?」

「実は……皆は……」

「あ、明生くん? み、皆はどうしたの?」

「…………」

「ち、ちょっと、明生くん? ど、どうして黙ってるの??」

「…………」

「み、美夏は? 美咲さんは? 紗弥加さんは? 朱実さんは? 皆はどうしたの?? ねえ! 明生くん!!」

「由香里ちゃん、それは……」

はっきりとしない明生くんの言葉に、私は血の気が引くような気持ちになった。

そして、明生くんにもう一度聞こうとしたその時、


「わーい!!」

不意に後ろから声がして、誰かが私の背中に抱きついてきた。


「わっ?!…… な、ななっ?!」


「よかった! よかったよー!」

どうやら声の主は若い女の子らしかった。

 そして、私の戸惑いにお構いなしに一人でハシャいでいる。


 で、でも……こ、この声は……?!


「あらあら美夏ちゃん~~ダメですわよぉ~~。いきなり抱きついたら、由香里さんがびっくりしてしまいますわぁ~」


「――レトリバー……いえ、由香里は今日戻ったばかりなのよ。まだ貴女の顔も知らないんだから」


「ケッ! あん時はアタシも力を貸してやったんだから、無事に戻ってくんのは当然だろーが。騒いでんじゃねーよ」

と、背中に抱きついている女の子の背後からも、次々と聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あっ、そっかぁ! ごめん、ごめん!」

すると抱きついていた女の子が、背中から私の前へと回りこんだ。


「おかえりぃ! ユカリンー!!」

そう言って、私の目の前に現れたのは、大きく盛った明るいベージュの髪に、

白いパーカーとピンクのミニスカートを履いている小柄な女の子だった。


「――あ、ああ、あなた……み、美夏?!」


「そうだよ、ユカリン! あたし美夏だよぉー!」

と言って、女の子は再び抱きついてきた。すると、後ろから残りの三人も歩いて来て、


「おかえりなさいですぅ~由香里さん~~」

「おかえり、由香里」

「チッ、遅せーんだよテメエは」

と、次々私に声をかけた。


「あ、ああ……」

そんな、驚きすぎて言葉を発することが出来ない私を見ながら、


「ごめん、由香里ちゃん。実は言ってないことがあるって、このことだったんだ。

皆、由香里ちゃんよりも先に元の世界へ戻って来てたんだよ」

と、明生くんが言った。

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