第45話
「あ、あの……由香里ちゃん」
「は、はいーー?!」
突然話しかけられて、私は変な声を出してしまった。
「――あ、あはは。そんなに緊張しなくていいよ。……いつもみたいに話してくれればいいのに。中身はパグ犬の時と一緒なんだからさ」
「う、うん。そ、そうだよね。じゃあ、ええと――あっ! そ、そうだ! 明生くん、私の家の場所よく分かったよね!!」
「あ、それは前に一度、三人で行ったことがあったからね! ほら、覚えていない? 由香里ちゃんと僕と美夏ちゃんでさ!」
「あ、ああ、そう、そうだったね! っていうか――そ、そうだったー!! 私もそれで、これから美夏の家まで行こうと思ってたのよ!
急に明生くんが来たから忘れちゃってた!」
「あ、そうだったんだ? なーんだ! あははは!」
「う、うん……。あははは」
私も明生くんを見ながらぎこちなく笑った。
「やっぱり、明生くんなんだね。……なんだか、良かった……」
「だから、そうだって言ってるのに~。でもホント、由香里ちゃんは僕が想像してた通りだった~」
「え? そ、そうなの? それってどんな想像?」
「あ……そ、それは、えっと……な、なんていうか、ぼ、僕の思った通りで、か、可愛らしいと言うか、その……」
と、明生くんは、なんだかモゴモゴと口ごもるように答えた。
「え? 何? よ、よく聞き取れなくって。ごめんね。もう一回言ってもらってもいい?」
「あ、いや! え、ええと、それは……あ! あーっ! ――そ、そんなことよりさ!由香里ちゃん、皆の事とか気になってない??」
と、明生くんに言われて私ははっとした。
「え?! な、なってる!! なってるよ!! 皆は無事なの?! あ、明生くんは、何か知ってる??」
「う、うん! 実はね、今日はそのことで由香里ちゃんに会いに来たんだよ」
「え?! そ、それってどういうこと?!」
と、私は驚いて明生くんに尋ねた。
「ところで由香里ちゃん。今日これから時間はある?」
と、明生くんが聞いてきた。
「う、うん。今日は休日だし、学校もないから大丈夫だけど。ていうか、今朝、人間の姿に戻ったばっかりだから、曜日感覚は全然ないんだけどね……」
「あ、そうだよね! なんか戻ったばかりで急がせちゃってごめん。因みに僕は、一週間くらい前に戻ってきたんだよ」
「え? そ、そうなの?! それじゃ、皆の中にも、まだ戻れてない人がいたりするのかな??」と、不安になって私が聞くと、
「いや、それは大丈夫!」
明生くんは妙に自信たっぷりに答えた。
「え? ど、どうして分かるの?」
「あ! い、いや、そ、それはなんとなく……ね。も、もしかして僕にも、紗弥加さんみたいな何か不思議な力があるのかも、なんてさ!」
あ、怪しい……。
私が疑いの眼差しを向けると、
「ま、まあまあ……じゃあさ、僕これからちょっと行きたいところがあるんだけど、良かったら由香里ちゃんも付き合ってくれないかな?」
「うん。いいけど……でも、どこへ?」
「んーそれはまぁ、来たら分かるって感じかな……」
と、明生くんは何故か誤魔化すように言った。
「あら、もうお帰り?」
私達が玄関まで行くと、お母さんが、ちょっと残念そうに言った。
「ジュースごちそうさまでした。美味しかったです!」
と、明生くんが笑顔でお礼を言うと、
「いえいえ、なんのお構いもでききなくてごめんなさいね。また遊びに来て下さいね~」
と、お母さんもニコニコと答えた。
「おじゃましました」
明生くんは丁寧にお辞儀をすると、そのまま玄関を出ていき、
「お母さん、私もちょっと、一緒に出かけてくるね」
と、私も玄関を出ようとすると、
「由香里っ、ファイトよ!!」
と、お母さんが、小さくガッツポーズを取った。
「も、もう。お母さんたらっ……」
私は恥ずかしくなって、明生くんに見られないように、慌ててドアを閉めた。
「どうしたの、由香里ちゃん?」
「あ、ううん、な、何でもないよ!!」
「そっか、それじゃ行こうか!」
――それから私達は、家から十五程歩き続けて町の最寄駅までやって来た。
「え、ええと……も、もしかして、明生くんの行きたかった所ってここ……?」
「あ、違う違う。ここからは電車に乗るんだよ。犬だったら走って行くしかないけど、僕達はもう人間だからね」
と、言いながら明生くんは、改札で切符を二枚買うと、残りの一枚を私に手渡した。
私は、その渡された切符の行先を見て驚いた。
「こ、ここって……明生くん、これ……?」
言いながら、明生くんの顔を見ると、
「ほら由香里ちゃん! もう電車が来ちゃったよ!」
と、明生くんは、私を見ながら楽しそうに言った。
私達は急いで改札を抜け、すでにドアが開き始めていた電車に飛び乗った。
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