第44話
「何も変わっていない……」
家にあったカレンダーや新聞を見てみると今日は日曜日だった。ということは、学校はお休みだ……。
「……って、だ、だめだ! 何をしているのよ、私は!! は、早く皆と会わないと!! け、けど、ええと……」
考えてみたら私達は動物だったので、携帯電話も持っていなかった。
だからお互いの電話番号どころか、メアドすら知らない……。
「ど、どうしたらいいの……」
と、途方に暮れた瞬間、私はある事を思い出した。
「あ! そ、そうだ!!」
そう。私は大事なことを忘れていた。
美夏と初めて会った時、明生くんの提案でお互いの実家へ状況を確認しに行った事があり、
その時、明生くん自身はすでに自分で確認済だったから、私と、そして美夏の家へ行ったことがあったのだった。
「い、行かなきゃ!! 美夏の家に!! それに考えてみたら、そこには美咲さんだっているかも知れないし!!」
言いながら、急いで身支度を整えて出かけようとしたその時、突然ピンポーンと、玄関のチャイムが鳴った。
「由香里ー、お客さんよー!」
インターホンに出たお母さんが、二階へ向かって私を呼んだ。
「もう! 誰だろう、こんな時に……」
私が急いで玄関まで行くと、
「どうも、おじゃまします!」
と、言って、縦にブルーのストライプの入っているクレリックシャツを着た、
ちょっとイケメン風のスラリと背の高い若い男の人が玄関先に立っていた。
「誰なのよ、由香里? ちょっとカッコイイ子じゃない? あんたも意外と隅に置けないわね。うふふ」
と、お母さんが小声で私に耳打ちをした。
けれど私は、こんな人に一度も会った記憶が無かった。
「あらあら、さあさあ。こんなせまいところで申し訳ないけれど、どうぞ上がって下さいね。
ほらほら、由香里もボーッとしていないで、早くお部屋まで連れていってあげて」
と言って、ジュースでも出そうと思ったのか、お母さんは、急いで台所の方へと向かってしまった。
取り残された私は戸惑いながら、
「あ……あの、失礼ですけど、どちら様ですか? 私、あなたと会ったことありませんよね……? 多分、人違いじゃないかと思うんですけど……」
と、言った。
するとその人は「え……?」と、一瞬呆けたような顔をして、
「――ああー! そ、そうか!! いや、ごめんごめん!! そりゃそうだ! 当たり前だよねホント! あはははは!!」
と、突然笑い出した。
な、なんなのこの人……?
怪しすぎる。……私はなんだか怖くなってきて、まるで不審者を見るような、不穏な眼差しでその男の人を睨んだ。
すると、そんな私の目付きに気がついた男の人は、焦ったように狼狽しながら
「あっ! ち、違うよ、由香里ちゃん!ぼ、僕だよ僕!! 明生だよ!!」と、言った。
「……あきお……? ……って――え?! あ、明生?! あなた、明生くんなの?!」
私は驚きすぎて、心臓が止まるかと思った。
「――それじゃ、ゆっくりしていってね」
お母さんが二人分のジュースをテーブルに置いて、ニヤニヤしながら私の部屋を出ていった。
「優しそうな、お母さんだね」と、明生くんが言う。
「う、うん……」
「…………」
「…………」
けど、そこから私は何を話していいのか分からずに、二人とも無言になってしまった。
明生くんがどんな顔なのか、少しは想像してみたこともあったけど、
やはり、これまでずっと見ていて見慣れている明生くんの顔は、あのパグ犬の顔なのだった。
なのに、それが突然人間の姿になって家まで訪ねて来た上に、ちょっとイケメンな男の人だったのだから、正直に言って、とても緊張してしまう。
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