第43話

「な?! き、貴様! な、何をした?!」


 ――ケッ! あんまりこの朱実さまをナメてんじゃねえぞテメエ!! どんだけ欠片と一体になってたと思ってやがんだコラァ!!

オラ!! そろそろやっちまえ、キリン!!


「美夏!! 私達の思いを感じて!!」

私が美夏に向かって叫ぶ。


「美夏ちゃん!!」

明生くんが、


「美夏ちゃぁ~~ん!!」

美咲さんが、


「強い意志と思い! それが欠片の力を動かかす! 強く願いなさい美夏!! 貴女の思いを!!」

そして紗弥加さんが、


「皆ぁ!! あたしは!! あたしはぁーーーー!!!!」

美夏が叫ぶと同時に、極彩色の光が部屋を始め、建物全体を覆い尽くすようにして激しく輝いた。


 そして次の瞬間、博士の胸に移植されていた欠片が溶けるように消滅し、同時に手元の欠片も粉々に砕けて飛散した。そして、


「そ、そん……な…………ばか……な」


 研究所を始め、黒い塊も、博士も、そして私達も、その全てが、極彩色の光の放つ圧倒的な輝きに包まれていった――。


第十章 回帰


 ――ジリ……ジリリリリリ……!!


「んん、う、ううん……」

耳元のうるさい音に、私は目を擦りながら目を覚ました。


「ここは……」

見覚えのある白いシーツにベッド。

 窓に掛かっているピンクのカーテンの隙間からは、薄い光が漏れていて、白い壁紙の室内を、柔らかく照らしている。


「……って、ええっ?! こ、これ、どういうこと?! ここって、私の……?!」

驚いて、飛び上がるようにベッドから起きた私は、部屋のカーテンを思いっきり引いて窓を開けた。


 強い光が差して、眩しさに目を細めながら外を見ると、そこには、懐かしくも見慣れた光景が広がっていた。

「う、嘘でしょ……?」


 二階の窓から見えた景色は、延々と続く住宅街の屋根だった。

 真下を見ると、玄関前の細い道で顔見知りのご近所さんが、犬と散歩している姿も見える。


 私は急いで部屋から飛び出して、そこから走りだした。

 階段を駆け下り、一階の洗面所へ向かい、


 ――そして鏡を見た。


「――い、犬じゃない……ち、チャッピーじゃない! も、戻ってる! 戻ってるよ! 私の顔が!!」


 鏡に映ったのは、肩越しくらいの長さのボブカットに二重のまぶたの目、そして少し気にしていたちょっと低めの鼻。

 半年ぶりに見る、犬ではない本当の私の顔だった。


「ちょっと由香里~? 朝っぱらから何騒いでるの?」

不意に後ろから、懐かしい声で話しかけられて、私はびっくりして振り向いた。


「お、お母……さん……?」


「当たり前でしょ。何寝ぼけてるの?」


 お母さん! 半年ぶりのお母さんだ!!


 正確には、犬になってから一度だけ姿を確認しに行ったことがあったけど、その時は欠片の力のせいで皆私のことを忘れていて、

家族全員、まるで何事もなかったかのように過ごしていたのだった。


「お、お母さん!! だ、大丈夫? わ、私のこと分かる? ほ、本当に分かる??」


「ち、ちょっと由香里、あんた何言ってるのよ。娘の顔を忘れる訳ないじゃない。あんたこそ大丈夫なの?

もしかして、どこか具合でも悪いんじゃ……??」

そう言ってお母さんは、本気で心配そうな顔をしながら私を見た。


「えっ? あっ! う、ううん!! げ、元気だよ!! め、めちゃめちゃ元気!!

ごめん。なんか寝ぼけて変な夢見ちゃって! えへへ!!」


「そ、そう……? ならいいんだけど……。本当に大丈夫? もし具合が悪いなら、お医者さんに行かないとダメよ……」


「だ、大丈夫、大丈夫! 本当に! ほらほら!」


 私は焦りつつ両腕で力こぶを作って、屈伸しながら大げさに元気をアピールした。


「もう、変な娘ね……。じゃあ、もうすぐ朝ごはん出来るから、早く顔洗って着替えちゃいなさい」


「は、はぁーい!」

お母さんは訝しりながらも、一応納得した様子で、台所の方へと歩いていった。


 日常だ……完全に日常に戻っている……。


 私はお母さんに言われるままにパジャマから私服へ着替えて、朝ご飯を食べ終えると、また自分の部屋へ戻ってきた。

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