第42話

「はははは!! 先程の威勢はどうしたキリン!! どうやら私の深層意識が、貴様の生体の性質を認識し始めたようだな!!

そうなってしまえば、貴様は脅威でも何でもないわ!!」 


 始めはなんとか受け止めていたものの、あらゆる方向から引きずり込もうする複数の黒い塊の重力を、

美夏の周囲の光は徐々に打ち消すことが出来なくなって来ていた。


「う、うぐぐぐ……」

そしてついにその重力が、美夏を取り巻く極彩色の光を四方八方から次々と吸い込み始めると、


「ふ、……ふぇ、ふぇぇ、……ふぇぇぇぇぇぇぇん……」

それに耐え切れなくなった美夏が、泣きべそをかき始めてしまった。すると、


「こら美夏ー!! あきらめちゃダメよ!! 頑張ってーー!!」

それを見た私が、美夏へ向かって叫んだ。


「ゆ、由香里ちゃん……?!」

横で突然大声を出した私を、明生くんが驚いたように見た。


「うう、ユ、ユカ……リン??」

美夏も苦しそうにこちらを振り向いた。


「美夏!! 約束したでしょ?! 人間に戻ったら、私があの街で美味しい物なんでも食べさせてあげるって!!

私ね。あんたと初めて会った時はホントに何を言ってるのか、何を考えてるのかも分からないし、

人の話は聞かないし、生意気だし、正直、鬱陶しいと思ってた!!」


「――えっ?! ゆ、由香里ちゃん、何も、こ、こんな状況でそんなこと言わなくても……」

と、明生くんが引き気味に言う。


「でもね、美夏!! 私、今は分かってるんだよ!! あんたは本当に優しくて!! 友達思いで!!

そして、とってもいい娘なんだってこと!! 山で狼の姿になった博士と戦った時、言ってくれたよね??

キリンになっちゃったけど、それでも私達と、……皆と一緒にいてチョー楽しいって!!」


「ふ、ふぇぇぇぇん……」


「でもね、それは私もなんだよ美夏!! 動物の姿にされたって、皆と……あんたと一緒にいて凄く楽しかったよ!!

もしも私一人だったら、きっとすぐに挫けて諦めてた!! だからさ……だから今はね、美夏。私は、私は美夏のこと本当に大好きだよ!!

一緒に頑張ろう、美夏!! そして戻ろうよ!! 私達の世界に!!」


「ふぇぇ、ユ、ユカリン~~」


「そ、そうだ! ぼ、僕もだよ!! 僕も皆と、美夏ちゃんと一緒にいたからここまで来れんだ!!

僕達は仲間なんだよ! だから皆で一緒に頑張ろう、美夏ちゃん!!」


「ふぇぇぇ、ア、アッキ~~」


「キリンさん……いえ、美夏!! 覚えてるかしら?? 私と最初に会った時、貴女、私の事を負け犬って言ったのよね!!

だけど今思えば、あのままだったら本当に貴女の言う通りだったわ! だから今私は、貴女に本気で感謝している!!

で、どうするつもりなの?? 私は最後までちゃんとついて来たわよ!! 

それなのに、あの時私にそう言った貴女がここまで来て諦めてしまうのかしら??」


「ふぇぇ、サ、サヤカッチ~~」


「うっ、うう……美夏ちゃ……ん……?」

その時、紗弥加さんの横にいた美咲さんが呻いた。それを見た紗弥加さんが倒れないように支えつつ、ゆっくり美咲さんを起こす。


「お、おねぇちゃん! ふ、ふぇぇぇぇん、美咲おねぇちゃん~~!!」

それに気が付いた美夏が、美咲さんに向かって叫んだ。


「み、美夏ちゃ……ん……だ、大丈夫ですわぁ……わ、わたくしが、皆さんが付いていますからぁ。

……い、一緒ですわよ、美夏ちゃん、お姉ちゃんと美夏ちゃんは、ずっと一緒ですわぁ……」


「ふ、ふぇぇ、お、おねぇちゃん。……わ、分かったぁ。……あ、あたし、一人じゃないしぃ!!

み、美咲おねぇちゃんもユカリンも、アッキーも、サヤカッチも、アケミッチも、皆大好きだしぃ!!

自然もぉー、動物もぉー、空もぉー! 地面もぉー! 地球もぉー! 宇宙もぉー! マジでチョー楽しいしぃー!

チョー大好きなんだよぉーー!!!!」


「な、なんだ?! 貴様、な、何を言っている!」

美夏が大声で叫ぶと同時に美夏の周りを取り巻いていた極彩色の光が今までになく大きく膨れ上がり、

それが幾重にも折り重なって輝きを増しながら、辺り一体の黒い塊を、次々と覆い始めた。


「な……?! なんだこれは?! ふ、ふざ……けるな……こ、こんなもの……容易く……」

そう言って博士が、極彩色の光に負けじとさらに黒い塊を増やそうとして手元の石に力を込めた次の瞬間、


 ――ケッ! キリンにしちゃあ上出来じゃねーか! 仕方ねぇ。認めてやるよ!

と、不意に博士の頭の中に声が響いた。


「な?! だ、誰だ?! ――この声は……ま、まさか貴様、まだ意識が?!」


 ――この、空の意志の力、アタシが全部ぶんどってやろうと思ってたんだがな!

ま、しゃあねえ! そいつはまたの機会にしてやるぜ、ケッケッケッ!


 笑い声と同時に、発生しかけた黒い塊が、次々と消滅し始めた。

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