第41話
"コラ、沙弥加"
――う……。
"いつまで寝てやがんだよ、テメェは"
――うう……。
"なんの為にアタシが囮になってやってまで、テメェの力を温存させたと思ってやがんだコラ"
――ううう……。
"コラ起きろや"
――うううう……。
"オイ、起きろっつってんだろーが、このアマ!!"
――う、うううう……。
"テメェ……"
――……。
"いいから! とっとと起きやがれ!! 神代紗弥加ァーーーー!!"
「――は、離して明生くん!! い、いやぁ!! 美夏ぁーーーー!!」
明生くんに抑えられ、為す術がないまま私は叫び声を上げ続けた。
「うはははは!! バカが!! 他人の心配等をしている余裕があるとでも思っていたのか!! さっさとそのまま飲み込まれろ!!
その体は元々この世界には存在するはずのなかった偶然の産物!! イレギュラーなのだからな!!」
博士の高らかな嘲笑が響き渡った。しかし、その瞬間、
「神聖なる地の精よ!! 我が血の盟約により修羅と化した昏き闇の潮流を、その遍く御力の一砂を持ちて清め給え!」
突如放たれた声と同時に、今にも飲み込まれようとしていた美夏の体が重力の流れと反発するかのように、グルグル回転しながら斜め後方へと吹き飛ばされた。
「――ア、アイタタッ……!!」
激しく地面に投げ出された美夏が呻き声を上げる。
「い、今の?! さ、紗弥加さん?!」
私が声をした方へ目を向けると、先程まで気を失っていた紗弥加さんが起き上がり、
咲さんを庇うように前方へ立ちながら、博士のいる方向へと片足を伸ばしていた。
「さ、紗弥加さん?! だ、大丈夫なんですか?!」
と、明生くんが足を踏ん張りながら紗弥加さんに声を掛ける。
「……朱実のヤツに叩き起こされたわ。まさか、私がアイツに叱られるとはね。朱実も欠片の中で戦っているのよ……」
「サ、サヤカッチ、良かった! で、でも、ちょっと痛かったしぃー!」
と、美夏が痛がりつつも嬉しそうに言った。
「ふふ。ごめんなさいね。着地の環境まで整える時間は無かったのよ」
紗弥加さんが目覚めたことでなんとか危機を脱したものの、
しかし、未だ博士の黒い塊の重力の力は衰えず、その場の全員を引きずり込もうとしている。
「おのれ……また貴様か!! い、いい加減にしろ! この死に損ないが!!
どこまでも目障りなゴミ共め!! 今度こそ、終わりだ!! これで終わりにしてやる!!」
博士がそう言うと、これまで一つのみだった黒い塊が、研究所内のあらゆる場所に発生し、辺り一面を無茶苦茶に吸い込み始めた。
その影響で建物全体が激しく揺れて、全てがバラバラに崩されていく。
「うわ?!」
部屋が四方八方からボロボロと崩れ、あらゆる方向へ吸い込まれていき、私達は再び、博士の作る重力の力に引きずられそうになった。
だがその寸前、体制を立て直した美夏が、再び極彩色の光を発して、皆が吸い込まれそうになるところを、ギリギリのところで食い止める。
「う、ぐ、ぐぐぐぐ……!!」
「そ、そうか! そういうことだったのね! キリンさん、貴女のイレギュラーは偶然じゃない! これも、空の欠片の意思なのよ……!」
と、不意に紗弥加さんが叫んだ。
「え? さ、紗弥加さん、 そ、それは、一体どういう?!」
突風が吹き荒れ建物が崩れ行く中、私は大声で尋ねた。
「――恐らく、私達人間の気持ちを、欠片が見定めようとしているのよ!
今ここで線を引くようにして、私達の意思と思いが行き着く先を確かめようとしている!!」
「そ、それは、僕達が自然と……ち、地球と共存していけるかどうか、それを判断しようとしているということですか?!」
と、明生くんも尋ねる。
「恐らくは、欠片自身も迷っているのよ! 地球と人間との、その意志の間にある違和感に戸惑っている!
人間の気持ちを測りかねている! だからキリンさんは、その象徴なんなんだわ!!」
「――い、違和感……? そ、そうか。そうだったのね。……私が動物にされる以前から、ずっと感じていた気持ち。
こ、これが、その答えなんだ。……きっと欠片の気持ちが、私にも影響していて……それで……で、でも! だけど今は! 今の私は!!」
紗弥加さんの言葉を聞いて、私は自分が人間だった時に感じていた違和感の正体に気が付いた。
そして、その先にあった自分の本当の気持ちにも……。
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