第37話
――皆が研究所で戦っていたその頃、麻薬探知犬訓練センターへ向かっていた僕と榊山さんは、センター敷地内にある倉庫へと辿り着いていた。
「恐らくここに、動物と意識を交換された人間の体が保管してあると思われます。
普段ならば、警備の人間がこの辺りを監視しているはずなのですが、今はどういう訳か見当たりません。
恐らくこのセンターの人間は紀元博士の石の力によって、全員が意識を管理されていると思われますのでそれが姿を消しているということは、
現状そこまで力が及んでいないということかも知れません……」
「あっ! で、では皆すでに、紀元博士をやっつけてしまったということなのでしょうか?!」
「いえ。そうとは限りません。なぜなら、警備等の細かい部分に力を行使する余裕がないということは、
博士自身がそれに構っていられない程の大きな力を発揮して戦っている可能性があるからです。
その場合は逆に、皆さんかなり危険な状態にあるのではないかと思われます……」
「そ、それはまずいですね。……さ、榊山さん、急ぎましょう!!」
倉庫の鍵は、先程の発電所と同じく旧式の南京錠だった。榊山さんに肩車をしてもらいながら、僕は小枝を使ったピッキングで鍵を開ける。
すると、内部には大量の大きな檻が敷き詰められるように置かれ、その中に動物と意識を交換された人々の体が、まるで満員電車のように押し込められていた。
「――な、なんてことを……」
僕達はすぐさま檻の前まで走っていき、掛けられていた鍵を全て開ける。
だがそれを見ても、檻に入れられている人間達は声すら発することも無く、反応らしい反応を全く見せなかった。
「もしかすると……石の力で自発的な意識を停められてしまっているのかも知れませんね……」
と、榊山さんが言う。
「い、一体どうしたら……」
そうやって僕達が途方に暮れかけた時、
――今から、その人間達の体の中にある動物の精神を、本能に従って衝動的に逃げたくなるよう欠片の力で誘導するわ……。
そうしたら、鍵を開けて一斉に逃しなさい……。
と、突然頭の中へ響くように声が聞こえた。
「――っわ、うわわっ?!」
それに驚いた榊山さんが、派手に後ろへひっくり返る。
「あっ! ――さ、紗弥加さんですね?!」
と、僕が言うと同時に、
「ワン!! ワンワン!!」
「ウキャッ! ウキャキャッ!」
「ウホッ! ウホホッ! ウホッ!」
「ギャン! ギャンギャン!」
檻にいた人間達が、突如激しい鳴き声を発して一斉に喚き出した。
見かけは人間でありながら、まるで動物のように騒ぐ姿に、倉庫内が異様な空気に包まれる。
僕が
「――さ、紗弥加さん大丈夫です! 鍵はすでに全部外しましたから! そ、それより、そちらは大丈夫ですか?!」
と、聞くと、
――そう。ならよかった……。こ、こっちは、部分的に侵食したものの、結果として博士から欠片を奪うことは叶わなかった……。
あ、あなた達はそのまま逃げなさい。……戻って来てはダメ……。
と言って、そのままテレパシーは途切れてしまった。
「え?! ち、ちょっと、さ、紗弥加さん?! い、一体何が?! 皆は?! 由香里ちゃんは?!」
僕がそう叫んだ次の瞬間、動物の精神を宿した人間達が檻の扉を開けて一斉に逃げ始めた。
「――ハァ、ハァハァ……」
博士の赤い光の力で吹き飛ばされた紗弥加さんが
苦しそうに息をしている。
「さ、紗弥加さん!」
私はすぐに駆け寄って紗弥加さんに声を掛けたが、答える力は無いようで、息をするのもやっとの状態だった。
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