第36話
「そうだ。私は石の力が最も強く発動する条件を探していた。そして、
この石が人の脳内において神経伝達をする際の微弱な電気信号に強く反応する性質を持っていることが分かった。
だから私は自らの脳付近の皮膚に石の一部を移植したのだ。――だが……その試みは失敗だった。
なぜなら、脳付近では石の力の影響が余りにも大きすぎて、力を使うどころか自らの意思を保つことさえ容易ではなくなってしまったからだ」
「――の、脳って……」
私は博士の話に気分が悪くなりかけた。
「しかし、そのおかげで一つ分かったことがあった。それは、石が人の血液にも強い反応を見せるということだ。
それを踏まえた上で私は体のあらゆる箇所に移植を試みた。
そして血液を循環させる臓器、すなわち心臓付近において、石は最も強い反応を見せる事が分かったのだ。
心臓には神経線維の密集箇所があり、その部分は脳から独立した形で自らの運動を制御している。
そして、そこに少量の記憶情報を蓄えることも可能であることが近年の研究で分かっている。
要するに心臓は、石が反応する微弱な電気信号と血液、この二つの条件を最も強く満たしている箇所だったのだ」
「だ、だからさっき、胸を……」
私は、先ほどまで胸を抑えて苦しんでいた博士の姿を思い出しながら呻いた。
「最初は、まるで全身の血が逆流するかのような激しい苦痛を覚えた。だが石の力が馴染むにつれて次第に苦痛は消え、
そこから、これまで味わったことのないような心地良さを感じた。
しかも記憶を蓄える心臓の性質故か、たった今、この石の意識に宿っている情報も認識することが出来た」
「なんてことを……森羅万象の象徴”空の意思の欠片”を、そんな形で利用しようとするなんて……」
と、それを聞いた紗弥加さんが苦しそうに呻く。
「白犬よ。どうやら貴様らは、シャーマンと呼ばれている存在のようだな。
貴様らシャーマンは、石の制御方法を血の盟約と呼んでいるらしいが、それは正に私の研究結果にも符合した実に合理的な石との関係の結び方だと言える。
だが問題は、貴様らは自らを”石の媒介者”と位置づけたことで、石の指向性に逆らうことに対して過剰な罪悪感を覚えるようになってしまったということだ。
自らの意識に余計な枷をはめることで、私のように石を自らの手でコントロールし、支配せんとする者との神経伝達の強さとに差を生じさせる結果となった。
しかも、貴様の場合は意識を動物と交換される際それを敢えて拒まずに、一度石の力の影響を受け入れてしまった。
人間の姿のままであれば、より強い力を発揮出来たのかも知れないが、現状では半分以上、石の影響下にあると言っても過言ではない。
その分だけ、発動出来る力には限界があるだろう」
「ご、誤解している。……欠片は貴方の言うような、そんなシステマティックな物ではない。
力をそのような形で行使しようとすることは、あなた自身の意識を……いえ、魂を刻することに繋がっていくわよ……」
「――魂だと? くだらん戯言だ。負け惜しみにしても、もう少しマシな話をしてほしいものだな」
博士はそう言うと、欠片を掴んでいる手に力を込めた。すると、欠片を取り巻く二つの光の強さの均衡が崩れ、
赤い光の輝きが、白い光を一瞬にして飲み込んでしまった。その次の瞬間、
紗弥加さんの目の前で赤い光が弾けるように爆発し、その体が後方へ吹き飛ばされてしまった。
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