第23話

「アッキー、ユカリン。マジで自分達の世界に入りすぎって感じぃ~?」

「わたくしもぉ、今度はちょっとフォローしきれませんわよぉ~~」

いつの間にか美夏と美咲さんも、私達の後ろまで来ていた。


「――言っとくが、別にアタシはテメエらを傷つける気なんかねーんだよ。

なのに、さっきから勝手にビビリまくりやがって……」

「え……? だ、だって、明生くんが野良犬に襲われてて……逃げてって……」

「――あのな……襲われたんじゃなくて、そいつらがパグ犬を襲おうとしてたから、アタシが助けてやったんだよ!

この辺の野良犬どもは、大体アタシの言いなりだからな!」

「え?? それじゃあ、襲われてると思ったのって、私の勘違い……??」

「――だから、そうだっていってるだろが!」

「そ、そうだったんだ……っていうか~、明生く~ん……??」

「え? あ、あはは……。由香里ちゃん、目が怖い……よ?」

「まぁ、アンタの風貌と言葉使いじゃ、勘違いされても仕方ないわね」

「あぁ?! なんだと紗弥加、コラァ! テメエこそ、なんなんだよ、その言葉使いはよ!

アタシとツルんでた頃は、テメエも大差なかっただろうが!」

「昔の話はやめなさい。朱実」

「そ、そう言えば紗弥加さん……前に美夏ちゃんに負け犬って言われた時、言葉使いが……」

と、明生くんが言うと、

「あ? 言葉使いがなんだって?? なんだか知らねえが、やっぱり隠し切れてねえみてえだなあ、昔の本性はよ!!

ケッケッケッケッ!!」

と、朱実さんが楽しそうに笑った。


「黙りなさいって言ってるでしょうが……」


すると、そこで美夏が余計な一言を言い放った。

「えっと、なんだか分かんないけどぉ~、要するに二人は“負け犬仲間”って感じぃ~?」


「あぁん?! なんだとコラァ?!」

「あぁん?! なんだとコラァ?!」

その言葉に、紗弥加さんと朱実さんが同時にメンチを切った。


「――で、その時、紗弥加が言った訳だ。私の仲間に手を出す奴は、誰だろうと許さねえぞ! ってな」

「紗弥加さん、格好良いですわぁ~」

「なんか、漫画かドラマの主人公みたいって感じぃ~?」

「だから……コイツとは会いたくなかったのよ……」


 ――朱実さんを加えた私達は、明生くんが中華料理屋の店員らしき男の人からくすねて来た“アイフォーン”のマップ機能を頼りに、

欠片の持ち主がいると思われる、山奥の研究施設へと向かっていた。


「ほら。一年くらい前に流行った、神崎さくらってアイドルが主役のヤンキードラマがあっただろ?

あれの脚本書いてた奴が知り合いでさ。実はあれ、紗弥加をモデルにしてんだよ」

「え?! ほ、本当ですか?! 僕、神崎さくらちゃんの大ファンなんですよ!!」

「ケッケッケッ! じゃあアタシが人間に戻ったら、サインもらって来てやろーか?

それに、もし欠片の力を手に入れた時は、神崎さくらと結婚させてやってもいいぜ?」

「ええ?! ほ、本当ですか!!」

「ち、ちょっと! 明生くん?!」

明生くんの、あまりの喜びように、私はつい大きな声を出してしまった。

「や、やだなあ、由香里ちゃん、じ、冗談だよ……。お、怒らないで……」


「……そうか! 私、今分かりました! 前に紗弥加さんが問題あるのが一匹いるって言ってましたけど、

それって、朱実さんのことだったんですね!!」

と、私が若干ムッとしながら言うと、


「そうよ。こんなところでコイツと会ってしまうなんて、最悪だわ」

紗弥加さんは、ウンザリしたような表情で答えた。


「ケッ! アタシを差し置いて、テメエらだけで欠片の持ち主を探そうなんざ、百年早えーんだよ!

まぁ、これも欠片がアタシという主人を探そうとしてるからだな。言わば運命ってやつだぜ! よし! じゃあテメエら着いて来い!」

と、言いながら、朱実さんは満足気に先頭を歩き出した。


「で、でも、由香里ちゃん。朱実さんって思ったよりも悪い人じゃないみたいだよね?」

「ま、まぁね……」

正直不安を感じてはいたが、明生くんに耳打ちされて仕方なく私は頷く。


「じゃあ、今日はもう遅いから、山麓で夜を明かして朝になったら山へ入りましょう」

と、紗弥加さんが皆に提案した。


「そうですわねぇ。わたくしも賛成ですわぁ~」

「今日はアッキーのせいでメッチャ走ったしぃ。あたしもチョー休みたぃみたいな感じぃ~?」

「チッ! テメエら情けねえなあ~。まあ、いいか」

「あ、あの……私、今思い出したんですけど麻薬探知犬訓練センターの近くに、ログハウスがあった気がするんです。

そこで休むってどうですか? 人が使ってるのは、あまり見たこと無いですし」

「おお、由香里ちゃん、ナイス情報!」

「いいわね。じゃあ、そうしましょうか」


一先ず私達は、訓練センター近くのログハウスで休むことにした。


 ――ログハウスに着くと明生くんは落ちていた小枝を咥えて素早く扉の鍵を開けた。


「スパイ映画好きって言ってたけど、なんかリアル……」

と、私が思わず呟くと、


「え? いや、前に鍵屋さんでバイトしてたことがあってさ。……ほ、本当だよ?」

相変わらずしどろもどろになりながら、明生くんは言い訳をした。


「ま、中へ入りましょう」

そんな明生くんの態度は気にせずに、紗弥加さんが扉の中へ入って行き、皆も後へ続いた。


 部屋の照明を入れると、柔らかい暖色系の明かりが、室内を照らし始めた。

 外からは小さな小屋にしか見えなかったけど、室内に入ってみると意外に広く感じる。


 リビング中央に大きなテーブルがあって、その横にキッチンスペースもある。

 冷暖房完備にテレビも置いてあり、見上げるとロフトも付いていて、

こんな状況じゃなければ、ゆったりとくつろげそうな部屋だった。


「わぁい。あたしログハウスって初めてみたいなぁ~?」

「美夏ちゃん、わたくしもですわぁ。なんだかワクワクしますわねぇ~」

美夏と美咲さんは、楽しそうに室内を見ながらはしゃいでいる。

 そんな無邪気な姉妹の姿に、私は少しだけ癒された。


「この地図からして、欠片の持ち主がいやがる研究所は結構な山奥みたいだな」

朱実さんが、明生くんの操作するアイフォーンの画面を見ながら言った。


アイフォーンのマップ機能の詳細欄には、研究所と所長の名前。そして顔写真が記載されている。

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