第22話

 ――同じ時、私達は明生くんを追って道を引き返し、再び、先程まで隠れていた建物の裏側まで戻って来た。


「――あ、あれって、野良犬……?!」

道を覗くと何匹もの犬が、何かを取り囲むようにしてたむろしている。

「なんか、いっぱいいるって感じぃ~?」

「皆さんで集まって、何をされているのでしょう~?」

「あっ?! ま、まさか……?! 明生くんは、あ、あの野良犬達に囲まれているんじゃ……?!

さ、紗弥加さん、ど、どうしましょうか……って、ええっ?!」

私が助けを求めると、紗弥加さんは野良犬達の方へつかつかと歩き始めていた。


「アイツとは関わりたくなかったんだけど、仕方ないわね」


「さ、紗弥加さん! 危ないですよ……!」

私は紗弥加さんを制止しようとしたが、

「大丈夫よ。皆は少し離れていて」

そう言うと紗弥加さんは、野良犬達にどんどん近づいていった。

 そして、おもむろに集団へ向かって話しかけた。


「貴方達、そこを空けなさい」

すると、そんな紗弥加さんに気が付いた犬達が次々と威嚇の唸り声を上げ始めた。


「ガルル……ガルルルル……」

「面倒くさいわね。……朱実!! この犬達をどけなさい!!」

と、今度は紗弥加さんは、野良犬の集団のさらに奥へと向かって声を上げた。すると、


「――あぁ?! その声は……テメエか……!!」

紗弥加さんの声に反応して、野良犬の集団の奥からドスの効いた声が返ってきた。


 すると犬達は、まるで殿様かお姫様が通る際、家臣が土下座をして道を空ける時のように、

二手に別れて伏せのポーズを取り始め、そしてその奥からゆっくりと声の主が現れた。


「オイ紗弥加!! アタシに断りなく、なに勝手に屋敷から消えてんだコラ!!

それで何してやがるかと思えば、こんなチビ犬共とつるみやがって! ふざけてんのかテメエ!!」

恫喝の声を上げつつ姿を現したのは、真っ黒なドーベルマンだった。


「なんでアンタに断る必要があるのよ。いいから、そこをどきなさい。パグ犬さんを返してもらうわよ」

「なんだとコラァ!! テメエ、アタシの誘いをシカトしておいて、

まさか、こいつらとツルんで欠片の持ち主を探してるんじゃねーだろうなあ!!」

「だったら、どうだって言うの? アンタには関係ないことよ」

「あぁ?! ナメた口きいてんじゃねーぞ! そうやってテメエ一人で、欠片を手に入れる気なんだろうがコラ!

いいか、欠片の力を手に入れるのはテメエじゃねえ! このアタシ、神代朱実なんだよ!!」

「あのねぇ、忘れたのかしら? こっちは宗家でアンタは分家。いくら意思の欠片の力を動かす術式を知っていても、

分家のアンタの血だけでは、欠片の力を充分に発動させることは出来ないのよ」

「なんだと、このアマがぁ……!!」

紗弥加さんにそう言われると、ドーベルマンは激しく歯ぎしりを始めた。


「そ、そこにいるのは、紗弥加さんなんですか?! ダ、ダメです! 逃げて!!」

すると突然、ドーベルマンの後ろから明生くんの声がした。


「明生くん?! そ、そこにいるの?!」

私も思わず、明生くんへ向かって叫んだ。


「ゆ、由香里ちゃん?! ま、まさか、皆そこに?! だ、ダメだ! 逃げてーー!!」

「逃げられる訳ないじゃない!! 今助けるから!!」

私は衝動的に、野良犬達の輪の中へ向かって走り出した。


「あ、危ない! 来ちゃダメだ、由香里ちゃん!」

私は明生くんの制止を聞かずにドーベルマンの横を通り、明生くんのいる場所まで一気に走り抜けた。


「だ、大丈夫?? 明生くん?!」

「――ち、ちょっと、由香里ちゃん、危ないって言ったのに……本当無茶するんだからなぁ……ははは……」

明生くんは力が抜けて、でも、どこかホッとした様子で私に笑いかけた。


「だって私……必死だったから。……でも、良かった。明生くんが無事で……って……あ、あれ……?

な、なんか足が……い、今頃、足が震えてきちゃった……バカみたい……」

私は明生くんの横で震えが止まらずに、ふらついてしまった。すると、

「由香里ちゃん……ありがとう」

そんな私を、明生くんが優しく抱きとめて微笑んだ。

「あ、明生くん……?!」

思わず赤面してしまい離れようとした私を、明生くんはさらに強く抱きしめた。

「もう少し、このままで……」

「あ、明生くん……」

私達は抱きしめ合ったまま、お互いの体温で無事を確認した……。


「って、オイ……テメエら、いつまでそのメロドラマを続けるつもりだよ?」


「――えっ?」

「――えっ?」

不意に後ろから声を掛けられ、私達は同時に振り向いた。

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