第21話
――道を引き返しながら、僕は皆が隠れているはずの建物の影へと向かっていた。
(酷い目に遭ったな。……だけど、地図より便利な収穫があったからいいか。皆ー! 戻ったよ! ――ってアレ?)
“アイフォーン”を咥えながら建物の角を曲がると、そこにいるはずの皆が忽然と消えてしまっていた。
「な、なんで……」
咥えていた“アイフォーン”が、口からボトッと落ちる音が、建物の隙間に反響して虚しく響いた。
「あっ――そ、そうか! きっと僕がさらわれた方向へ探しに行ったんだ!! 戻らなきゃ!!」
そう言って、引き返そうとした瞬間に、僕の足が止まった。
――ガル……ガルル……。
獣の唸り声と共に、気が付けば背後を、いや……見回すと、僕は無数の犬達に四方一体を覆うように囲まれていた。
「――の、野良犬の集団……?!」
――ガルルル……ガルルルル……。
逃げ場はどこにもない。僕を取り囲む野良犬達の輪が、次第に狭くなっていく。
「ち、ちょっと……待って……」
犬に人間の言葉は通じないことは分かっていても、声を出さずにはいられなかった。そして次の瞬間、
――ガオオオオオオオォーンンンン!!
先頭の犬が吠えると同時に、全ての野良犬達が、一斉に僕の方へ跳びかかって来た。
「わ、わああ!! も、もうダメだー!! ぼ、僕はこんなとこで……人間に戻る前にこんな……
ご、ごめん皆……ごめん由香里ちゃん!! 最後に“アイフォーン“だけでも渡したかった……!!」
そう死を覚悟して、僕が目をつぶった時、
「――オラァ! 待てやテメエら!! そいつは餌じゃねえ!!」
野良犬達の背後から、強烈な怒声が響き渡った。
それを聞いて、あれほど猛っていた野良犬達の集団が一瞬で静まり返ってしまった。
「――い、今の声は……?!」
「そいつは、襲うな。動いた奴から焼き入れっからな!」
そして、声の主らしき者が後ろから近づいてくると、野良犬達は一斉に道を空けて、地面に這いつくばる様な姿勢になった。
「オイ! テメェ今、言葉話したよなあ? 人間かぁ?」
現れたのは真っ黒な犬だった。恐らく犬種はドーベルマンだ。
「あ……」
僕はあまりの出来事に、すぐには言葉が出すことが出来ない。
「――オイ、聞いてんだよ! テメエ人間から犬になっちまった奴なんだろ? 神代紗弥加の知り合いか?」
「……え?! さ、紗弥加さんを、しし、知ってるんですか……?!」
僕は恐怖で口が回らないまま、やっとの思いで言葉を発した。
「ケッ! やっぱりそうか! あのアマ、急に消えたと思ったら、こんな奴とツルんでやがったか!
アタシが誘った時には、見向きもしなかったくせによ……」
僕は、全く事態を飲み込めずに硬直したまま、ただドーベルマンを見つめることしか出来なかった――。
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