第19話
「でも、どうやって山中にある研究所の正確な場所を探しましょう~? インターネットも、地図もないですしぃ~」
「街に出てみるのはどう? そしたら、本屋で地図をくすねるとか出来ると思うけど」
と、明生くんが提案した。
「あの……明生くん。私を訓練センターから助けてくれた時から、ちょっとだけ思ってたんだけど、あなたってもしかして……」
「え、なに? 由香里ちゃん」
「ど、泥棒……?」
「――ち、ちょっと! 違うよ由香里ちゃん! 人聞きの悪いこと言わないでよー!」
「だ、だって、訓練センターの車に忍び込んだり、ゲージの鍵を簡単に見つけたりしてたから……」
「そ、それはさ……昔セキュリティ関係の会社でバイトしてたことがあったから、ビル内部とか監視カメラとかの構造にちょっと詳しいだけで……。
それに、スパイ映画とか怪盗物も好きだし……子供の頃はルパン三世みたいになりたかったんだ。……あっ、いや、でも、だからって、
万引きとか泥棒みたいなことはしたことないんだよ!」
明生くんが必死になって弁明する。
「は、はは。そ、そうだったんだ。……良かった。私、明生くんが泥棒だったらどうしようかと思ってたから」
なんだか余計に怪しくなって来たけど、私が一応納得をするフリをすると、
「ひ、ひどいよ由香里ちゃん……」
と、明生くんが悲しそうに言った。
「あは。ごめんね、明生くん」
「あらら。お二人の世界の話は終わりましたかぁ~?」
「ユカリンとアッキーは、すぐ二人の世界になるしぃ~。マジでラブラブって感じぃ~」
「ち、ちょっと! 美咲さんも美夏も何言ってるのよー! そんなんじゃないからー!」
「貴女達……そろそろ本題に戻りたいんだけど。……とりあえず街で情報収集するってことでいいかしら?」
私達のやり取りを見ていた紗弥加さんが、ため息混じりに言った。
「あっ……は、はい! それでいいと思います!」
「ぼ、僕も……」
――街へ向かう途中、歩きながら私は尋ねた。
「そういえば紗弥加さん、お家を空けちゃって大丈夫だったんですか?」
「扉を閉めたら、自動でロックが掛かるようになっているから平気よ」
「……あ……そうではなくって、急にいなくなったら飼い主が心配しないかなって思ったので……」
言いながら、私は学校で見た私の飼い主だった敦くんの、寂しそうな顔を思い浮かべた。
「ああ、そうね。雪乃は悲しむかもしれないわね」
「雪乃さん?」
「私の飼い主の女の子の名前よ。そう言えば、貴女も雪乃の同級生の飼い犬だったわね。もしかして飼い主の心配してる顔でも見たの?」
「……はい。……でも、仕方ないんですよね」
「欠片の持ち主から力を奪うことが出来れば、現象の辻褄を合わせることも出来るかも知れない。
私達が犬にされた間の出来事も、始めから無かったことにすることが可能かも知れないわね」
「あ……前に、明生くんが言ってたこと同じ……」
「――ふうん。見掛けに寄らず、パグ犬さんは鋭いのね」
「あ、いや……意識を犬に移すことが出来るくらいなら、何があっても不思議じゃないかなと思いまして……」
明生くんは照れくさそうに言った。
「まあ、そういうことだから、レトリバーさんも余り深刻にならないことね」
「は、はい。……っていうか私、レトリバーだったんですね。
……てっきり小型犬かと。――言われてみれば、なんだか最近体が大きくなってきたような……」
「早く人間に戻らないと、ユカリン一匹だけ大型犬になっちゃうって感じぃ~?」
「うふふ。由香里さんが大きくなったら増々フワフワして、気持ち良くなりそうですわねぇ~」
「み、美夏ちゃん。……美咲さんまで……」
明生くんが、あたふたしながら私を見た。
「いいのよ、明生くん。今は許してあげる。皆で協力しなくっちゃね」
「わ~い、ユカリン優しいって感じぃ~」
「但し、人間に戻るまでよ。……戻ったら覚悟しておきなさい。美夏と美咲さん……」
と、私は二人を睨みながら言った。
「わっ。ゆ、ユカリン。チョー目付怖いしぃ」
「わ、わたくしもですかぁ? 由香里さん~~?」
私の目力に姉妹揃って戦慄している内に、一行はいつの間にか街へと辿り着いていた。
――そこは、大きくはないけれど、洋服のブランドショップや雑貨店、
飲食店等が立ち並んでいる、ちょっとお洒落な感じの街だった。
「わーい、お腹減ったし、マック行きたいって感じぃ~」
「うん……」
こういう光景を見ると、どうしても人間だった時の事を思い出してしまう。
友達と一緒にいる時も、どこか充実感がなく違和感を感じていた私だけど、
それでも街を歩きながらお店を見て回ったり、美味しい物を食べたりすることが嫌いじゃなかったんだと、今更ながら思った。
「人間に戻れたら、皆でまた遊びに来たいですわねぇ~」
と、美咲さんが言った。
「うん。僕達全員で、また絶対に来よう!」
明生くんも続くと、
「その為にも、早めに情報収集しないとね。パグ犬さんが言ったように、本当に本屋で地図を万引きするのかしら?」
と、紗弥加さんが言った。
「さ、紗弥加さん……万引きって言われてしまうと、ちょっと。……間違ってはいないですけど……。
じ、じゃあ、ええと。とりあえず全員で動くと目立つので、皆はこの辺に隠れてもらっていていいですか?
どこに本屋があるのか、ちょっと僕が偵察してきますので……」
「明生くん大丈夫? 気をつけてね……」
「ありがとう、由香里ちゃん。大丈夫だよ。じゃ、行ってくるね!」
そう言うと明生くんは、私達を残して街の奥へと走り出してしまった。
私達は、言われた通りに店の建物の隙間に隠れながら、明生くんの様子を伺うことにした。
「心配だなあ……」
「まぁ、ここはパグ犬さんに任せましょう。本人もやる気満々みたいだしね」
「アッキー、ハンバーガーも持ってきてくれないかなぁ?」
「それなら、わたくしもシェイクが飲みたいですわぁ~」
「もう二人とも! 明生くんだって、好きでやるわけじゃないんだからね……多分……」
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