第18話

「それで貴女達、これからどうする気?」

と、紗弥加さんが聞いてきた。


「あの……半年前に紗弥加さんと会った時、

この近辺には、私達みたいな動物にされた人が何人もいるって言ってましたよね?

その人達を探してみるのはどうですか?」


「僕も由香里ちゃんに賛成です。仲間は多いほうが心強いと思いますから」


「そうね。確かにいることはいるんだけどね……」

その提案に、紗弥加さんは歯切れの悪い返事を返した。それに私が、

「……何か問題が?」と、聞くと、


「ほとんどは、仲間にする以前の問題なのよね」

と、紗弥加さんは答えた。


「……以前の問題ですか……?」


「動物に転送されたエネルギーの性質は二種類に分かれるの。

一つは、動物の肉体エネルギーと人間の精神エネルギーが、混ざり合わずに共存する性質。

もう一つは、動物の肉体エネルギーと人間の精神エネルギーが融合して一つになってしまう性質。

そしてほとんどの場合、後者になってしまうのよ。

要するに、肉体と精神のエネルギーが混ざり合って、身も心も動物化してしまうの」


「え?! じ、じゃあ、私達もいずれは、心まで動物に……?!」


「いえ、貴女達は前者だから、そうはならないわ」


「――よ、良かった……」

私はホッと胸を撫で下ろした。すると、

「あ、じゃあそれなら、精神が融合していない人だけを探して、仲間にしたらどうでしょうか?」

明生くんが提案した。


「ええ。でも中にはそれを望まない人達もいるわ。

精神を転送される人間には傾向があって、人間社会に対してどこか距離を置きたい気持ちを抱えている人が多いのよ。

要するに、他者に関心がなくて投げやりな人が多いということ」


「それも、前に明生くんの言っていた仮説と重なっているわ……」


「――とは言え、それは動物に転送される直前の一時的な精神状態も含まれているから、

貴女達みたいに動物になってから気持ちが変わる人もいるけれどね。

まぁ、動物に転送される性格の傾向としてそういう人が多いということなのよ。

――後は例外として、ちょっと問題のある奴が一匹いるだけ……」


「……問題……?」


「――いえ……なんでもないわ。とにかく、これから大事なのは”空の意思の欠片”を持っている人間に接触することね。

向こう側も、こちらを探している気配を感じる」


「欠片を持っている人が、僕達を探しているんですか?」


「正確には、イレギュラーであるキリンさんを探しているみたいね。

さっき私が”地の意思”の力を使ってキリンさんのエネルギーを安定させたことで、

欠片を持っている相手も何かを感じたのかもしれないわ」


「それって、あたしが逃げてきた研究所にいたオヤジのことぉ~?」

「そういえば美夏、前にそんなこと言っていたね」

「なんかぁ、あたしが捕まってた研究所に沢山いたオヤジの中にぃ、一人だけチョー目付きの悪いオヤジがいてさぁ、

”これは余波の影響だ”とか言って、怖い顔でニヤけて、すぐに部屋出ていっちゃったのぉ。

そしたら残った他のオヤジ達があたしを解剖するとか言い始めたからぁ、あたしマジでビビっちゃってぇ、メッチャ必死で逃げたみたいな感じぃ?」


「美香ちゃんをそんな目に合わせたのが、そのオヤジさんなのですのねぇ~。許せませんわぁ~」

美咲さんが、緊張感があるのか無いのか分からない口調で怒り始める。


「欠片の持ち主と接触したら、人間を動物にしないように説得をするんですか?」

と、明生くんが尋ねた。


「いえ、恐らく説得は無理ね。”空の意思の欠片”は、その人間を利用しているに過ぎないし、

使われている本人もこれを止めようとは思っていない。だからこそ欠片に魅入られて、こんな現象を引き起こす媒介として作用しているのだから。

――でも、止める方法はあると思うわ。私は、空の意志と対を成す”地の意思”に仕えてきた巫女の家系の人間。

一般の人間よりも森羅万象の力と同調しやすい体質なの。その私を媒介にして持ち主から欠片の力を奪い取れば、動物化した人間も元に戻せるかもしれないわ」


「……そんなことをして、紗弥加さんに危険は無いのですか?」


「さあね。やってみないと分からないわ。だけど、そこのキリンさんに負け犬呼ばわりされるよりはマシだからね」

紗弥加さんは、冗談なのか本気なのか分からない言い方で答えた。


「それで、キリンさんは研究所の場所は覚えているの?」


「う~ん。山の中から必死で逃げてきたから場所はよく覚えてないかも~?」

「美夏ちゃんと僕らが初めて会ったのは、由香里ちゃんがいた麻薬探知犬訓練センターの近くだったから、あの辺りの山の中なんじゃないのかな?」


「そうだね。あそこは山に囲まれているし、その辺りにある研究施設を探したら場所が分かるかも知れないよね」

明生くんの言葉に、私は頷いた。

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