第15話

「じゃあ、何から話そうかしら」

白犬は、私達の向かい側のソファー座ってそう言った。


「あの……美夏ちゃんを助けてくれて、本当にありがとうございます……」

と、美咲さんがまず頭を下げた。


「いいのよ。貴女の妹を助けたいという意思が強かったから、短時間で彼女は回復したのね」

「あの……その意思というのが、さっき話していた”空の意思の欠片”という物と、関係あるんですか?」

と、明生くんが聞いた。


「そうね。私がさっきキリンさんのエネルギーの状態を安定させるのに使ったのは、空ではなくて”地の意思”の力だけどね。

貴方達の身に起こっている、人間が動物に意識を転送されてしまうこの現象は、顕在化した”空の意思の欠片”の力に間違いないわ。

誰かが、欠片の力を使って引き起こしている現象ね」


「あの、すみません……私さっきから、話の意味が全然分からないのですが、意思の欠片って、一体何なのですか??」

急に始まった突飛な話について行けず、私は正直に尋ねた。


「意思の欠片とは、簡単に言えば、地球を取り巻く森羅万象のエネルギーのことよ。

普段は空気のように目に見えなくて、私のような特殊な力を持っている者しか認識できない。

でも数百年、もしくは数千年に一度、その力が顕在化して何らかの形態を伴って現れることがあるの。

それを私達のようなシャーマンは、便宜上”意思の欠片”と呼んでいるのよ」


「森羅万象ということは……その力を手にしたら文字通り、この世界のあらゆる物事を自由にコントロール出来るということですか??」

と、明生くんが、戦慄の混じった震える声で聞いた。


「そうね。森羅万象のエネルギーには、あらゆる事象を顕在化する力があるわ。

ただ、それを扱う人間の意思や意識は不完全。人間が不完全な存在である以上、顕在化する欠片の力も、ある程度は限定された物になってしまうの」


「え、ええと、要するに、私達が動物の姿になってしまっているのは、

その意思の欠片を使っている人の望んでいることが、現実化してしまったということですか……?」

私も声の震えを抑えられないまま聞いた。


「そういうことね。でも、使っているというのは適切ではないかも知れない。

その人間が欠片の力を使っているつもりだとしても、実際には使われている可能性が高いわね。

この現象は飽くまでも、人間を媒介とした”空の意思”自身が引き起こしている現象だと、私は思うわ」


「そ、それじゃあ、前に明生くんが言っていたことが本当に……」

私はガタガタと震えて始めていた。


「森羅万象の力が、人間の利己主義を是正……いや、浄化しようとしているということなのか」

明生くんも青ざめている。


「私達から見れば理不尽で不自然極まりない状況でも、空の意思からしたら自然な流れということかもね」


「い、一体どうしたら……」

私は、掠れてほとんど声にならない呟きをこぼした。


「そのうち慣れる。慣れるしかないのよ。半年前、貴女に言ったことがあったわよね。

これは運命よ。地球の一部であることを忘れて、傲慢になってしまった私達人類の受けるべき、罰なのかも知れないわね」


「そ、それでは僕達は、もう黙ってこの状況を受け入れて、

人類全てが動物になってしまうまで、大人しくしているしかないということなんですか……?!」

明生くんが思わず叫んだ。


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