第12話
犬二匹とネコ一匹、そしてキリン一頭の集団となった私達は、斉藤さんが下校する時間まで待ち続けていた。
「もう六時半だね……」
明生くんが疲れた声で言った。
「そういえば、敦くんと斉藤さん……お互いに部活やってるって話していたような……」
と、私が言いかけた時、遠くから二人の男の子が歩いてきた。
「あ! あれだよ! あれ、敦くんだよ!」
言いながら、私は二人の会話に聞き耳を立てた。
「お前、何だか今日は元気が無かったな。何かあったの?」
敦くんの友達らしき、スポーツ刈りの男の子が心配そうに聞いている。
「ああ。うん……まぁね」
と、敦くんが力なく答えた。
「なんだよ。はっきりしねえな。言ってみろよ」
「実は、チャッピーがどこかへ行っちゃったんだ……」
「あ、お前が飼っている犬のことか?」
「うん。……チャッピーは、麻薬探知犬の訓練センターにいたんだけど、今度久しぶりに会えることになっていたんだ。
でもこの前、センターから電話があって、逃げ出して行方不明になったって言われて……」
「だから元気が無かったんだな。……あ、でもよ。犬って帰巣本能があるっていうから、
訓練された犬ならまた帰って来るんじゃね?」
「うん。だといいんだけど……」
私は、それ以上聞くのが悪い気になってきて敦くん達から目を逸らした。
「私が犬になった事で、悲しませてしまう人もいるんだね……」
「由香里ちゃんは、あの子の飼い犬だったんだもんね。
僕は野良犬だから居なくなっても誰も悲しまないけど、飼い主がいたらそうなるよね……」
「なんだか、悪いな……」
「由香里ちゃん。前にも行ったけど、この現象は何か常識では測れない不思議な力が働いていることは間違いないんだ。
今は皆、僕達のことを忘れてしまっているけれど、そこには何か辻褄を合わせようとするような意思がある気がするんだ」
「……辻褄?」
「うん。この現象には何か目的があって、今はその前段階のような……。
決定的なことが起きる予兆というか。……だから、白い犬に会ってそれが分かれば、僕らが人間に戻れるヒントがあるかも知れない。
何かの意思が辻褄を合わせているのなら、僕達が人間に戻った後の辻褄も合わせられるはずだよ」
「……犬が逃げなかった事になる……とか?」
私は、すがるような目で明生くんを見た。
「そう。だから僕達に出来ることは、この状況から少しづつでも前へ進むことしか無いと思うんだ。
その先にしか、答えは見つからないからね!」
と、明生くんは、最後はちょっと無理矢理に明るい声を出した。
そうか……明生くんは、私を励ましてくれているんだ……。
「ありがとう、明生くん。……そうだよね。頑張らないとだね。一緒に!」
そう。犬になってしまった直後とは違う。今の私には仲間がいるのだから。
ふと涙が溢れそうになって、でもそれを堪えながら私も明るい声で言った。すると、
「あらあらぁ、何だか、お二人だけで盛り上がってますわねぇ~。私達のことを忘れてませんことぉ~?」
美夏のお姉さんの美咲さんが、呑気な口調で言った。
「ていうかぁ、ユカリンとアッキー、ラブラブ過ぎだしぃ。あたしも混ぜてほしいみたいなぁ?」
美夏も、また変なことを言う。
「もう! ラブラブってなによぉ! 私達、全員で頑張ろうって意味よ!」
私はなんだか可笑しくなって、笑いながら言った。
皆で頑張れば、きっとこの状況を乗り越えられる。
人間だった時は、他人との間に常に違和感を感じていた私が、いつの間にかそんなことを考えるようになっていた。
「あ、由香里ちゃん。あれって、斉藤さんだよね?」
明生くんが、下駄箱のある昇降口の方へ前足を向けながら言った。
「ホントだ! 斉藤さんだ!」
遠目からでも分かる長くて綺麗な黒髪の容姿は、斉藤さんに間違いない。
「斎藤さんって、ラクロス部なんだ……いいな……」
彼女はラクロスラケットを持ちながら、丁度昇降口から出てくる所だった。
「よし行こう!」
明生くんの言葉を合図に、私達は斉藤さんの後をつけることにした。
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