第11話
結局私達は、何時間も学校の敷地をうろうろしたり、美夏が喉が乾いたと言うのでこっそり校舎の水飲み場で水を飲んだりと、
特にこれと言った目的の無い時間を過ごす事になった。
もし犬にならなければ、私もまだ学校へ通っていて受験勉強なんかをしていたのかと思うと、
改めて自分が犬になっているという現実に対して、どうしても割り切れないような、受け止めきれない感情が蘇ってきた。
「由香里ちゃん。僕たちは一人じゃないよ」
そんな私の心情を察したかのように、明生くんが声をかけてくれた。
「うん。そうだね、明生くん。私達同じだもんね。……何も考えていないようだけど、きっと美夏だって心の中では辛い気持ちのはずだし」
と、私が美夏へ目を向けると、
「ああ~~、メッチャいい匂い~~給食って感じぃ~~。チョー食べたぃしぃ~~」
と、言いながら、美夏が給食室のある方へフラフラと歩いて行く姿が見えた。
「ち、ちょっと美夏! ダメでしょ! 待ちなさい!」
私が美夏に覆いかぶさるようにして止めると、
「いやだぁ~~! ユカリン離してぇ~~! 給食食べるしぃ~~!」
美夏はバタバタと暴れだして、必死の抵抗をし始めた。
「あ、あんたさっきから、草いっぱい食べてるじゃないのよ!」
「うえぇぇ~~ん! 草おいしいけど、もう飽きたしぃ~~!! ご飯も食べたいしぃ~~!!」
そうやって私達が、激しくもみ合っていた時だった。
「――あのぉ~~」
と、ふいに後ろから、誰かに声をかけられて、一瞬、私と明生くんに緊張が走った。
――そして恐る恐る後ろを振り返ると、しかし、私達の目に映ったのは、人間ではなかった。
それは、丸くてしなやかな体と細長い尻尾を持った、黒色の動物の姿だったのだ。
「ネ、ネ……コ……?」
明生くんが呻くように言った。
「――あ、あの。あなたは、もしかして……」
見た瞬間、ただの動物じゃないことは分かったが、私は一応聞いてみた。
「はぁ~ぃ、ネコでございますわぁ~」
ズルッ……緊張感の欠片も無い返事に、私と明生くんは揃ってコケそうになった……。
って、あれ……? 何かこんな事が前にもあったような……。すると、
「あぁ! マジでぇ?! チョー信じらんないって感じぃ! マジお久だし!!」
そのネコを見た美夏が、突然嬉しそうに叫んだ。
「あ~やっぱりそうですわぁ~、声でそうじゃないかと思ったのよ、美夏ちゃ~ん」
「うん! あたしもって感じぃ! 美咲おねぇちゃ~ん!」
「え?! ちょっと美夏、み、美咲おねぇちゃんって……ま、まさかこの人……」
「ていうかぁ、おねぇちゃんも動物になっちゃったって感じぃ~? マジでチョーウケるし!」
私の動揺を他所に、美夏は楽しそうに笑っている。
「美夏ちゃんこそぉ、その姿はキリンさんかしらぁ? とっても可愛らしいですわねぇ~~。うふふふ」
美咲お姉ちゃんと呼ばれたネコも、美夏と同じように肩を揺らしながら笑っている。
「な、なんなのよ……」
私は思いっきり脱力した。
――それは、まるで緊張感のない姉妹の再開であった。
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