第8話

「あの、二人とも……と言うか二匹とも。ちょっと思ったことがあるんだけど、いいかな?」

突然、明生くんがそう切り出した。


「二人ともでいいわよ。……で、何? 明生くん?」

「あくまでも仮定の話なんだけど、この人間が動物になってしまう現象。実はこれは人類全体に関わるような、とても恐ろしい事態なんじゃないかな?」

「え?」

明生くんが急に真面目なことを話しだしたので、私は目が点になった。



 ――そうして明生くんが、話を終えた。


「……という風に思ったんだけど……」


 それを聞いた私は、何を言っていいのか分からない。すると、


「えっと、これから二人のことぉ~ユカリンとアッキーって呼ぶねぇ~。

あたし西脇美夏っていうんだけどぉ、ミカポンって呼んでねぇ~」

そんな空気はお構い無しに、キリンが突然に自己紹介を始めた。

 明生くんが深刻な話をしたばかりだというのに。このキリンは……。


「あんたねぇ、明生くんの話聞いてなかった訳?」

「聞いたけどぉ、なんか難しすぎてぇ、よく分かんないって感じぃ~? ていうかぁ~、チョー腹減ったみたいな~?」


「はぁ~……」

私は大きな溜息をついた。


 明生くんの考えでは、人類の利己主義がこの状況を作り出しているのではないかということなのだ。

 環境汚染、自然破壊、民族紛争。自分さえ良ければ構わないという思い。


 そして私達三人に共通することは、それらと同じように、どこかで自分の心だけを見ていたという事。

 私は日々の生活で、常に周りの環境に違和感を感じて、他人と距離を取っていた。

 実は明生くんも、大学に入学してから周りの人間に馴染めず、一人で過ごしがちだったらしい。

 このキリン……美夏は聞かなくても、唯我独尊であったことは一目瞭然だ。


 そして、そんな気持ちで生きている人間は私達だけじゃなく、そこかしこにいるに違いないのだ。

 私は――最初に出会ったあの犬の言葉を思い出していた。


『この近辺にはそういうのが何人……いえ、何匹もいるわよ』


 この言葉の本当の意味を、今理解出来た気がした。



 ――その後一先ず私達は、それぞれの実家へ戻って状況を確認した。


「やっぱり皆、明生くんと同じように、元から存在していなかったことになってる……」

「ていうかぁ~、何で皆忘れちゃってるわけぇ~? 信じられないし、ありえないって感じぃ~?」

キリンの美夏の姿は余りにも目立ち過ぎる為、ゴミ捨て場から拾った毛皮を背中にかけて誤魔化している。


「これから、どうしよう……」

私は明生くんを見て呟いた。


「う~ん……」

明生くんも考え込んでしまっている。


 そこで私は、今思いついたことを言ってみた。

「あ、あのね。私最初に会話した白い犬を、もう一度探してみたいって思ったんだけど……」

「それは由香里ちゃんが以前に話したっていう?」

「うん。明生くんも言っていたように、あの人は私達の知らないことを知っている気がする……」

「何々? 誰それぇ~? あたしの知ってる人ぉ~?」

「よし! じゃあ、とりあえず手がかりは他に無さそうだし、その犬を探してみようか!」


 ――私達は川原で出会った白い犬を探すことにした。

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