第38話 大田拓海は敵?
「これを見るといい。」
御堂のじーさんの部屋に集まった俺達は、いきなり何枚かの紙を見せられた。
おそらく警察の内部資料だろう。そんな事を思いながらパラパラと目を通す。
「あ!?」
「「うわ!」」
後半の10枚は
「気付いたかの?それは少年のパンダマスク姿をベースに、考えられる顔立ちを10パターン程書き出したものだ。」
ふむ、、、目と、、、鼻と口の一部しか露出していなかったはずだが、この9パターンめの似顔絵は俺に結構似ている。まさかあれだけの情報からここまで寄せてくるとは、、、どうやら警察にも優秀な人材はいるらしい。
「これらは今日の夜にでも公開されるだろう。その他にも防犯カメラ映像の解析もしておる。さて今度はどうするかの少年?」
じーさんがまるで将棋の勝負をするかのように不敵な視線を向けてくる。俺が国家権力を相手にどう立ち回るつもりなのか興味があるのだろう。
「警察が隠蔽を認めず、俺達を捕まえようとするなら潰します。」
「ほぉ?そんな事が出来ると?」
「えぇ、まぁ。それを今から証明してみせますよ。少し場所を移しませんか?美月さんから聞いたのですがここには道場があるのでしょう?」
「む?・・・よかろう。ついて来なさい。」
不思議そうな顔をしたじーさんだが、少し考える素振りを見せてからすぐに席を立った。お手並み拝見と、そんな雰囲気だ。
さて、それではちょっくらビックリしてもらいましょうかね。
あぁ、そうだ、じーさんの猟銃も持ってきてもらわないとな。
♢
手始めに・・・そうだな。
「美月さん、用意してもらって悪いんですけど、この鉄パイプで思いっきり俺の事を殴ってもらっても良いですか?」
「い、良いんですか?」
「はい。」
この際、みんなに付与したスキルがどれだけ有用な物であるか俺自身が証明してみせよう。
決して美人に酷い事をされたいとか、そういう気持ちがあるわけではないぞ。俺にそんな趣味は無いからな。ほ、本当だぞ?
「行きます!」
美月さんが、華奢な二の腕をプルンプルンさせながら鉄パイプをぶん回す。
嫁にしたいアナウンサーの
ドゴッ!
「な!?」
〈物理耐性Max〉のおかげで全く痛くはないが、鈍い音が響く。
ドカ!
ボコ!
お、お姉さん顔が怖いっす。朝の爽やかな笑顔はどこに行ったんですか?お嬢様の気品が無くなってますよ?
ドコン!
ていうか頼んでもないのに連続でやってくれるんですね。とても嬉しぃ、、、、
ゲフンゲフン!
間違えた。
「もう大丈夫っす。」
これ以上続けるとお互いに何かの扉を開いてしまいそうなので、振り下ろされた鉄パイプを左手で受け止め、スプーン曲げのようにU字型に折り曲げる。
これで昨日の試合がトリックや、まぐれでは無いと分かってもらえただろう。
チラリと源三に目を向けると、100メートルを走った時よりも驚いてくれたようだ。ビックリし過ぎて心臓が口から飛び出している。
「じゃあ次、じーさん、その猟銃で俺を撃ってくれ。」
「!?・・・何を言っているのだ!?死ぬぞ?」
「大丈夫だよ、そんなの100発撃ち込まれても意味無いから。」
「・・・
「おぅ。」
じーさんがゆっくりと銃口を俺に向ける。その手は
「最後にもう一度だけ確認するぞ?本当に撃ってもいいんだな?」
「あぁ。」
「・・・分かった。」
観念したように源三がライフルの引き金を引く、その瞬間、あたり一帯にけたたましい銃声が
カチャ、ズドーン!
きた!
エクストラスキル〈ラプラスの悪魔〉を持つ俺にとっては、風船をキャッチするレベルの難易度だ。難なく成功させると地面にポイっと捨てる。
もちろん俺は無傷だ。
「!?・・・こりゃたまげたわい!少年はもはや人間では無いな。宇宙人なのか?」
はっはっは、ある意味正解だけど、、、
「いや、ただ少し特別な力が使えるってだけだ。」
「・・・そうか、ハッキリ言って理解不能だが・・・ふむ、特別な力か。」
顎に手を当てて喉を鳴らすじーさん。
「あぁ、ていうか俺だけじゃないぞ。みんなにも力を与えたからな。弾丸を
「なに!?美月と風花もか!?」
源三が
「「はい、お祖父様、私達も自分の身は自分で守れるようにとお情けを頂きました。弾丸がどうかは分かりませんが、こんな風に空を飛ぶ事はできます。」」
そう言って姉妹がふわりと空中に浮かぶ。これは〈飛行1〉だな。まぁ純粋な地球人にはこれだけでも衝撃だろう。
かわいい孫娘を勝手に魔改造してしまって申し訳ない。(爆笑)
「70年以上生きてきてこんな未知との遭遇があるとは・・・まるで魔法ではないか・・・・はっ!もしや宇田アイリの件もお主が何かしたのか!?」
ふっふっふ、
「あぁ、俺が回復させた。」
「ぐ・・・・もはや何でもありだな。少年がいれば医者など不要ではないか。」
う~ん、それはどうだろうな。俺には
「まぁとにかく、俺の秘密を知ったんだからこれからもよろしく頼むよじーさん。」
もちろんパトロンとしてね。
よし、、、
「じゃあ、落ち着いたところで、今後の方針を話そうか。とりあえず警察に対してはもう少し様子見でいこう。だが俺達を捕まえようとしてきたら・・・その時は容赦しない。みんなこれでいいか?」
「「うん!」」
「じーさん、そーゆー事だから。」
「う、うむ。もう好きにしなさい。私は今のうちに善良な警察官だけピックアップさせてリストを作っておこう。」
「あぁ、助かるよ。」
すぐにそこまで頭が回るとは、さすが財閥のトップだ。
「じゃあ話はこれぐらいかな。また何かあったら美月さんか風花さん経由で連絡してください。そうすれば盗聴されないんで。」
「うむ、分かった。」
「じゃあ俺達はこれで失礼します。」
・・・あ、忘れてた。最後にアイテムバックだけ全員分作っとかないとな。
♢
僕ちゃんの名前は、
略してオタクと呼ばれることもあるけれど、これが本名だ。
年齢は今年で16歳。偏差値65オーバーを誇る超難関私立、豊川学園高校の1年生だ。
「あぁぁぁん!!雪乃た〜ん、もぅ我慢ならないでござるよ〜〜〜チュチュチュチュ。毎日、毎日僕ちゃんの事を誘惑しちゃって〜〜あぁぁん。」
少年がアホな事を言いながら見ているのは、今年発売されたばかりの写真集。水着や下着姿は掲載されていないにもかかわらず、発売2ヶ月で100万部の記録的大ヒットを叩き出した白石雪乃のバイブル的作品だ。
「ふもぉ〜、ふもぉ~仲良くなりたいでござる。そしたらもっと過激なオフショットをたくさん撮れるのに。あぁ〜この真っ白な太ももに挟まれたい。」
普通の写真なので絶対にパンツなど見えるわけがないのだが、これでもかというほど目を見開いて何度も下から覗き込む。
モテない男の
「靴に小型カメラを仕込んで撮ってしまおうか。」
イヤイヤイヤ、それはファンとして許されざる行為だ。普段から勝手に写真を撮って、他校のコジキ共に売りつけているとはいえ、パンティーだけは絶対に駄目だ。
邪悪な思考を振り払うために顔を左右にブルンブルン振る。
「はぁ、僕ちゃんももっとイケメンに生まれたかったでござるよ。」
同じクラスのアイドル、赤羽仁ならば、誰が相手でも好き放題出来るだろう。
それに黒宮レイ。あいつは芸能人でもないのに最近ナナミン達と一緒にいる事が多い。ちょっと顔がいいからって勘違いしちゃって、まったく、いけ
「あ~~~~羨ましいでござる、あんな奴、ケツ毛ボーボーの呪いにでもかかればいいでござる。ふんだ!」
大量のアイドルグッズが並べられた部屋で、愚痴を言いながらゴロンと横になる。
そして携帯を触る。
「ん〜今日も何もないでござるな。」
世間では何やら、セブンヒーローズとやらが話題になっているが、そんな事に興味は湧かない。
「はぁ〜。テレビでも見るでござるか。」
ピ!
『警察庁と警視庁の合同捜査チームが先程、指名手配中のパンダマンに関して、似顔絵を10パターン公開いたしました。ご覧の顔に見覚えがあるという方は最寄りの警察までご連絡ください。』
「ん?・・・んんん?」
あれ?黒宮氏に似ているではないか!?
ゴクリとツバを飲み込む。
髪型は多少違うが、この9枚目の似顔絵、どっからどーみても黒宮氏だ。
『なお、有力な情報提供者には報奨金が最大500万円支払われるという事です。』
「な、な、な、なんですとーー!?500万!」
それだけあればアイドルグッズがどれだけ買えるんだ!?
えぇい!こうしてはいられない!ダメ元でチャレンジでござる!
♢
合同捜査チーム対策本部
プルルルル、プルルルル♪
「はい、こちらパンダマン対策本部です。はい、、えぇ、、、はい、職場の同僚に似ていると、はい、、、、、、、」
似顔絵を公開してからというもの、ひっきりなしに電話が鳴っていた。だがそのほぼ全てが金目当てかイタズラ電話だとすぐに分かるものばかりだった。
まぁもとより、警察もこれで犯人が見つかるとは思っていない。これは犯人を精神的に追い詰めるためのポーズという側面が強い。
そのはずだった。
「局長!たった今有力な情報が入りました!都内の高校生からです!」
「む?どんな情報だ?」
「はい、それが9枚目の似顔絵がクラスメイトにソックリだと。メールで写真も送ってもらいましたが、確かによく似ています!」
捜査チームの実質トップである警備局長が、パソコンを操作している部下の元へ駆け寄る。
「ふむ、確かによく似ているな。しかも……若い。」
これは
その情報と綺麗に合致する。
「私立豊川学園高校の1年生か。名前は黒宮レイ。ふむ。」
すると近くにいたもう一人の部下が不思議な事を言い出した。
「あれ?豊川学園高校って、こないだめっちゃニュースになってましたよね?確か50メートルを世界記録より早く走ってる超人が現れたとか、なんとか。」
「超人だと?」
「はい、えっと動画がネット上にいっぱいありますよ?・・・あ、ほらコレっす。」
そう言いながら部下がスマホ画面をスッと差し出す。
「・・・なんだコレは!?」
「フェイクじゃないかって意見が大勢でしたけど、、、うーん、よく見ると黒宮って子に似てますね。ていうかそうとしか見えない。こんな走りが出来るなら、昨日の試合も納得っすね。」
・・・まさか犯人を見つけてしまったかもしれない。
「全員、急いでこの少年について洗い出せ!」
「「は!」」
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