第36話 エルフ




異世界(チギュウ)



 セブンヒーローズの皆と別れたあと、気分転換を兼ねてリアンと一緒にグリコロ大森林へ移動する。


 そろそろ移動も飽きてきたところだが、、、


 そう思っていると視界の奥に、森の切れ目を見つけた。とうとう永遠と広がっていた緑が無くなったのだ。


 あそこから先は魔族の住む西の大陸。


「やったぞ!おい、エイミー!?」


『お疲れ様でございます。』


「あぁ。一体どんなところだろうな?楽しみだぜ。」

「ウキーーー!!」


 魔王が悪い奴ならそれで良し!良い奴ならそれも良し!このワクワク感こそ生きている証拠!どっちにしても異世界冒険だ。





 ピロリン!


『情報によると、このまま西に進むとドワーフの国が、南方面に進むとエルフの国があるようです。』


「おぉ!」


 さすがです、エイミーパイセン。さてさてそれならどちらに先に行こうかな。


『エルフの国の方が宜しいかと。』


「え?なんで?」


『ドワーフは古くから厳しい鎖国政策を取っているようです。』


 ふーん、鎖国ね。種族的に閉鎖的な気質なのかしら。それなら迷うまでもなくエルフでいいじゃないか。


「よし、じゃあ南に行くぞ!」


「ウキャキャキャ!」




 ブイーン!





 しばらく飛んだ所で、車輪の跡を見つけたので徒歩に切り替える。


 エルフの生活圏に入ったということだろう。


 特に変わった様子は見られないが、、、


 んー?何かを感じるような?


「あ。」


 どこからともなく矢が飛んできた。軌道からして俺の頭を狙っているようだ。


 パシ!


 直撃する瞬間に頭をクイっとずらし、左手で矢の胴体部分をなんなく掴む。


 時速200キロぐらいあっただろうか。よく見れば、先端部分には毒も付いている。狙われたのが俺でなければ死んでいたかもしれない。挨拶にしては少々物騒だ。



 

「何者!?・・・ってもしかして人間!?」


 木陰から数人の人影が近付いてくる。身長170センチ程度の女達だ。


 全員、宇田アイリ並みのスタイルに彫刻のような顔面をしている。


 これがエルフか。



「う、動くなよ!貴様は本当に人間なのか!?」


 武器を構えたまま女エルフが尋ねてくる。どうやら相当珍しいらしい。


 俺の姿を見てかなり動揺している。



「まさか!?海路が復活したのか!?」


「ん?いや俺は森を抜けてきたが。海路がどうかは知らない。」


「も、森!?そんな馬鹿な!グリゴロ大森林を突破できるわけ無いだろ!?」


 綺麗な顔の女が大量のツバを撒き散らしながら反論をする。


 少しは落ち着けと言いたい。


「そんなこと言われてもな。事実だし。」


「・・・な、何をしに来たのだ!?」


「何って・・・冒険?という名の観光?だよ。ちょうどいいからエルフの国まで連れてってくれよ。」


「な、何を馬鹿な!こんな大変な時に、、、いやそうでなくとも人間を入国させる事などあり得ない!ここで殺してくれる!!」


 え?ちょいとお姉さん、ツバを飛ばしながら物騒なこと言わないで下さいよ。


「たぁー!」


 ダメだこりゃ、斬りかかってきやがった。しかも5対1。


 

 テイ、テイ、テイ、テイ、テイ


「「キャ、ウ、アゥ、ああん、イャ!」」


 多少強いみたいだが、俺からしたら大したことはなかった。


 5人ともワンパンで無力化すると〈粘糸1〉を使用して縛り上げる。


 弓や剣などの武器は取りあえず没収だ。


「くっ化け物め!私達をどうするつもりだ。奴隷にしていたぶるつもりか!」


「・・・いや、普通そんなひどい事しねーだろ。」


「「!?・・・何故しないのだ!?」」


 

 おいおいおい、なんだその反応は?俺を悪魔とでも思ってんのかよ。俺は世界最強のパスポートを持つ善良な日本人だぞ。


「みんな、騙されちゃ駄目よ!人間なんてゴブリンと同じ事しか考えてないんだから!」



 うーむ、どうしようか?悪名高あくみょうだかいゴブリンさん達と同じだってよ。要するに性欲まみれのゴキブリってことだよな?初対面なのに結構酷いね。


 って、お?噂をすれば何とやら、しげみからゴブさん登場じゃないっすか。ホントどこにでもいるな。


「「グギャギャギャ!!」」


 うへ、らえられたエルフを見て興奮してやがる。


「や、やめろ!こっちに来るな!」


「ギャギャギャギャ!」


 鼻の穴を大きく膨らませるゴブさん。男の俺からしても生理的に無理だ。


「助けてやろうか?」


 胸糞悪いもん見せられても嫌だしね。もしそうなったら、流石に気分悪いし。


「ふ、ふん!誰が貴様なんかに助けをうか!あっちへ行ってろ!」


「・・・そうか。」


 せっかく手を差しのべてやったのに強情ごうじょうな奴らだな。それなら仕方ない。


 身動きの取れないエルフを放置して先に進む。


 背後から悲鳴と笑い声が聞こえてくるが、まぁ俺には関係のない話だ。


 そう、関係の無い話だ。こっちは1回助けてやろうとしたんだからな。


「や、やめろぉ~~~~!」


「グギャギャギャギャ!」



 ・・・



 ・・・


 ドコン!


「ギャャーーーーー!!あ、足が、、、」


 女のうめくような声が聞こえてくる。ほれみろ言わんこっちゃない。素直になれば良かったのに。




 ・・・




 ・・・




 はぁ、ったく、仕方ねーな。


 クルリと向きを変え、先程の場所まで引き返す。


「〈ホーリーレイ〉」


 圧縮した高密度のレーザーをゴブリンに向けてぶっ放す。


 やはりこれは使い勝手が良い。


「おーい、お前ら大丈夫か?・・・あ〜あ。」


「ぐっ。」


 どうやら4人に大した怪我は無いようだが、1人だけ足の骨が折れている。曲がってはいけない方向に曲がっているのだ。


 相手を逃げられなくしてから襲う、流石ゴブリンさん、外道げどうっす。


「ちょっとジッとしてろよ。」


「な、何をする!?」


「いいから黙って見とけ。」


 〈ハイヒール〉っと。


「「!?」」


 よし、完璧に治ったな。

 


 他の4人は、うーん、まぁ軽く回復魔法をかけといてやるか。せっかく助けてやったのにまた襲われても駄目だから粘糸も解いて、、、、まったく世話のかかる奴らだぜ。


「はいよ、これ、お前らの武器。返してやるけど、その代わり襲ってくんなよ?」


 回収した武器をポイっと放り投げる。


 これで変に逆恨みされることも無いだろう。


「「!?」」


「じゃーな。」



『宜しいのですか?』


『あぁ。別に魔王に会えるのも時間の問題だろ。ま、時には遠回りするのもまた一興っていうやつだよ、エイミー君。』


『ウキャキャー!』


『了解致しました。』


『おぅ、じゃあ行くか。』


 〈飛行1〉を使い空に浮かぶ。




 すると背後からエルフに声を掛けられた。


「お待ちください!さっきの光魔法、それに私達にかけていただいた回復魔法、貴方は何者なのですか!?まさか病気を治せたりしますか?」


「ん?うん、まぁ。」


 回復魔法は一応レベルMaxだし。


「「!?」」


 俺の返答にエルフ達が驚いたように顔を見合わせる。レベルMaxはそんなに凄いことなのだろうか?


「恥をしのんでお願い申し上げます!どうか私達を助けてください!」


 そう言うとガバッと土下座をかましてくる。口調も一変し、先程までの態度とは大違いだ。


 何か込み入った事情がありそうだが、、、


「えー君たち俺の事殺そうとしてきたよね。しかもゴブリンと同じとか言ってたし。」


 いくらなんでもそんなに急に手の平クルクルされてもねー。日本のネット民でも、もう少し節度があるよ。



 ジト目。



 からの



 ジト目



「・・・う・・・よ、よし、分かったわ。裸になればいいのね?みんな服を脱いで土下座するのよ!国を救いましょう。」


「「は、はい!」」


 パサっ


 俺のジト目を勘違いしたエルフ共が何故か装備品を外し服を脱ぎ始める。


 どうしたらそういう思考になるのだろうか?


「やめろバカ共!」


 ピロリン!


『新たなスキル〈透視1〉を獲得いたしました。』


 ブフッ!


 なんちゅうスキル覚えてんだよ!俺は断じてエルフの服の下はどうなっているのかな?ふむふむ、なんて考えてないぞ!


 これじゃあ本当にゴブリンと大差無いじゃないか、まったく!




【種族】ハイヒューマン

【名前】黒宮 レイ 

【性別】男

【魔石】中 レベル21(12/21)



スキル〈真・剣術Max〉〈神聖魔法Max〉〈格闘術1〉〈真・火魔法Max〉〈真・水魔法Max〉〈真・風魔法Max〉〈真・土魔法Max〉〈真・雷魔法Max〉〈闇魔法1〉〈空間魔法1〉〈重力魔法1〉〈気配察知1〉〈気配遮断1〉〈夜目1〉〈遠視1〉〈透視1〉new!〈真・身体強化Max〉〈真・詠唱省略Max〉〈魔力操作1〉〈解体1〉〈解錠1〉〈チギュウ共通語〉〈擬態1〉〈威圧1〉〈飛行1〉〈ブレス1〉〈投擲1〉〈粘糸1〉〈超音波1〉〈裁縫1〉



常時発動スキル〈麻痺耐性Max〉〈毒耐性Max〉〈睡眠耐性Max〉〈熱耐性Max〉〈火耐性Max〉〈氷耐性Max〉〈水耐性Max〉〈雷耐性Max〉〈絶食耐性Max〉〈絶水耐性〉〈絶塩耐性〉〈真空耐性Max〉〈物理耐性Max〉〈圧縮耐性Max〉〈臭気耐性Max〉〈仮死耐性Max〉〈石化耐性〉〈血液耐性1〉〈不快耐性1〉〈殺気耐性2〉〈疲労耐性1〉〈真・思考加速Max〉〈真・見切りMax〉


エクストラスキル〈飛翔斬〉〈無詠唱〉〈蘇生〉〈瞬歩〉〈並列思考〉〈インフェルノ〉〈ブリザード〉〈ツリーハウス〉


オリジナルスキル〈サポートシステム〉〈異世界転移(地球)(チギュウ)〉〈竜魂(中)〉〈ラプラスの悪魔〉〈ダンジョン管理〉〈御恩と奉公〉



称号 《生き残りし者》《唯一無二の存在》《剣術を極めし者》《詠唱を極めし者》《ドラゴンとして転生するはずだった者》《聖なる魔法を極めし者》《身体強化を極めし者》《思考加速を極めし者》《叡智と因果律に愛されし者》《ダンジョンの主を倒した者》《ダンジョンの主》《悪霊(デーモン)の親》《付与を極めし者》《火魔法を極めし者》《水魔法を極めし者》《風魔法を極めし物》《進化した者》《土魔法を極めし者》《雷魔法を極めし者》《王としての芽生え》








「で、話ってのはなんだ?」


 なんだかんだあってお互いに落ち着いた俺達は、エルフの国に向かいながら話をする。


「はい、それが、私達の国は現在、病魔に襲われているのです。」


「それがどうしたって言うんだ?治せる奴ぐらいいるだろ?」


「いません。」


「・・・は?」


 意味がよく分からない。どういう事だ?医療崩壊でも起きたのか?


「え?そもそも回復魔法を使える人なんてほとんどいないじゃないですか?え?」


「お、おう、そうなのか。」


 常識でしょう?みたいに言われても知らんがな。俺は異世界人なんだから。


「じゃあお前らは怪我をしたらどうしてんだ?」


「オババ様に診てもらうかポーションで我慢するか、あとは『癒やしの泉』で、、、え?人間はみんな高度な魔法が使えるのですか?」


「イヤ、俺、異世界人だからこの世界の常識なんて知らん。」


「「はい!?」」


 もう、面倒くさいから言っちゃったよ。いいよね?この世界のクズ人間と一緒にされても嫌だし。


「異世界人?」


「そ。」


 まぁいきなり言われても半信半疑だろうけど、最初はそれでいい。話を戻そう。


「で、なんだっけ?」


「・・・は、はい、えーと、えと、そうです、人口の1割以上が病に倒れ、1か月前にはとうとう魔王様も発病し、寝たきりに、、、」


「え?魔王が寝たきり?」


 マジかよ。魔王のくせに何やってんだよ。魔王なら魔王たれよ。



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