第33話 ボクシング世界チャンピオン


日本


「皆さん、お祖父様から新しい報告書を頂きました。読んでみてください。」


 そう言って御堂姉妹から1枚の紙を渡される。


 こないだ読ませてもらった報告書とは別物のようだ。


 えーと、どれどれ?


 男の顔写真とプロフィールか。


富樫研二とがしけんじ26歳。ボクサー。世界最速で3階級制覇を成し遂げ、現在はミドル級世界チャンピオンとして7度防衛成功。戦績、31戦31勝、28KO。無類の女好きで、半グレ集団のリーダー格。』


 まさかのKO率9割超え。


「コイツがどうかしたの?」


 嫌な予感がするんですけど、、、わざわざこんな資料を作ってるってことは、、、


「どうやら周辺の防犯カメラ映像や、車の破片はへんなどから、アイリちゃんを襲ったのはこの男のグループで間違いないようです。この1年で揉み消された余罪も10件以上ですね。」


「・・・。」


 やっぱりそーゆー話の流れだよね。誰だよ富樫って。


 ていうかそんな簡単に真犯人分かっちゃうって、じーさんどんな情報力してんだよ。警察内部に部下でも潜り込ませてんのか??


 映画の世界かよ。


「コイツ有名人なのか?」


「ボクシング界ではカリスマですね。私も世界戦の前にインタビューに行った事がありますし、バラエティとかにもたまに出ています。」


 へぇーそれは知らなかったな。


「でもなんでこの富樫って男は逮捕されないんだ?」


「それは・・・あまり知られていないのですが、彼の父親が警察庁長官だからです。叔父は警視庁のナンバー2である副総監です。」


「「!?」」


 アンタッチャブル案件という言葉が全員の頭をよぎる。


「つまり俺達は警察権力の中枢に喧嘩を売るわけだ。面白くなってきたな。」


「「・・・。」」


「どうしたんだみんな?」


 うつむいて黙り込むなんて。


「記者会見でもして富樫が犯人ですって言えば解決するだろ?」


「うーん・・・顔出しでそれをすると公式、非公式でどんな報復を受けるか分かりません。」


 あー偽物を逮捕するような奴らだもんな。名誉毀損の訴訟に始まって、半グレ集団でも突撃させてきそうだな。


「何よりトラブルを抱えているというだけで芸能活動に影響が出る可能性があります。」


 なるほど、芸能人ならではの事情か。顔出ししないとインパクトが弱すぎるし、、、


 いろいろ考えるとなんだか面倒くさいな。


 もっとこう、なんつーの?スカッとやりたいんだけどな、拳と拳でさ。



「じゃあこういうのはどうだ?まず謎のマスクマンとして、富樫にボクシングの試合を申し込む。と同時にテレビ局にもこの企画を持ち込んで、視聴者の多いゴールデンで中継してもらうんだ。」


「・・・。」


「で、生放送の勝利者インタビューで告発をする。」


 これならばこちらの素性も割れないし、当局から圧力がかかって報道規制される心配もない。


 何よりヤツの伸び切った鼻っ柱を、世間の目の前で直接へし折ることができる。


 我ながら良い案だと思う。

 

「・・・それならアリかもしれないね。ただ本人がこの話に乗ってくるかどうか、、、微妙なところだけど。」


 赤羽が真剣な表情で意見を述べる。だがそれについてはおそらく問題無い。


 なぜなら、、、


「俺が賞金として3億円用意する。」


 元手はじーさんだけど今は俺の金だからな。


「「!?」」


「これなら富樫本人も、テレビ局も乗ってくるだろう?エンターテイメント性も抜群だ。」


「うん、アリかも・・・なんだか面白くなって来たわね!」


 来栖ナナが神妙しんみょう面持おももちから、覚悟を決めた顔になる。


 他のみんなもいくらか顔つきがマシになってきたようだ。





 そうと決まれば即行動。 




 全員、スーツにフルフェイスという正装・・に着替えてからスマホで動画を撮る。内容はまぁ簡単に言うとたし状みたいなもんだ。


 富樫をケチョンケチョンにけなしてから、3億円をかけて2日後の午後8時、日本武道館に来て試合をしろと。


 もちろんこの時点で建物の使用許可や、テレビ局へのアポは取っていないけれど、そこらへんは御堂のじーさんがなんとかしてくれるだろう。


 なにせ世界の御堂だからな。


 で、あとは動画を、富樫本人に送り付け、ネット上に拡散させればお仕事完了。


 試合を見たいファン達が、盛り上がって勝手に既成事実としてくれるだろう。


 

「よし、取りあえずこんなもんかな?」


「「うん!」」




 こうして、速攻で準備を終えた俺達は、夜の10時までバーチャルモードで戦闘訓練をしてから解散した。


 みんな昨日よりも慣れてきたみたいなので、探検できるフロアをもう少し作ってもいいかもしれない。


 ハイヒューマンに進化したおかげで、80フロアまで作れるようになったので、そのうち時間を取って本格的に作ろうと思う。



 まぁそんな感じ。


 ってことで、この後サクッと異世界に行って、グリゴロ大森林上空を飛んで来ます。


 睡眠時間?何それ美味しいの?

 


 












「何だこれは?」


 いつも通り昼過ぎに目覚めた富樫研二は、自分の携帯を見て驚きの声を上げる。


 昨日の夜から大量の着信と連絡が入っている。しかもSNSアカウントには、明日の試合頑張ってくださいという書き込みが殺到している。


 一体何が起こっているのだろうか?事態を理解するため情報を集める。


 するとどうだろう?ヘンテコなスーツを着た集団が自分に試合を申し込んでいるではないか。


 しかもテレビ中継を入れて賞金3億円。


 初めこそムカついたが、時間がつにつれ次第にアリかもしれないという思いが湧いてくる。


 なぜなら富樫自身、少し前にネット番組で同じような企画をした事があるからだ。


 どうやら今回のもそのたぐいのエンターテイメントだと思われる。


 相手がプロなのかは不明だが、どうせどんなに手を抜いたって、どんなに準備不足だって、自分が勝ってしまうのだから悪い話ではない。


 3億円は手に入ったも同然だ。


 何より世間の盛り上がりをみると、今更、絶対チャンピョンの俺がヒヨッてこの話を蹴る事も出来ない。


 所属するジムに連絡をしてからSNSに参戦を表明する。


 多少コーチ陣といざこざはあったが、そんなの関係ねぇ。俺は秒速で億を稼ぐ男だ。


 どこのどいつか知らねぇが、ミドル級のパンチでボッコボコにしてやろう。


「フハハハハハ!!」


 良い気持ちになった富樫は酒を片手に、SNSを連投する。


 すると当然の如くネットはお祭り状態に。世界トレンドランキングでぶっちぎりの1位を記録した。


 事前の下馬評は、1対9で富樫有利。


 虚栄心の強い彼は満足げに頷くのだった。





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