第32話 御恩と奉公

異世界(チギュウ)   


 スキルの試運転のためにグリゴロ大森林にやって来た俺は、〈飛行1〉で先に進みながら効率的に魔物を狩ることにした。


 ダンジョンで時間を食ってしまったため、雑魚相手にわざわざ戦ったりはしない。


 狙いは魔石(中)もしくは(大)のやつらだ。



 そうして空を飛ぶ事15分。


 ちょうどいい魔物を見つけた。木の化け物トレントだ。


 一見するとただの森にしか見えないが、エルダートレントを中心に群れを形成している。


 なぜ俺がそんな事まで分かるのか?


 ふふ、愚問だな。それは俺が非常に優れた『私のおかげですね。』


 ・・・そう、エイミーが助言をしてくれたからだ。


 自慢ではないが俺の索敵能力はショボい。〈気配察知〉はレベル1だ。


 だから森とトレントの区別など近寄らなければ分かるわけがない。


 何か問題でもあるだろうか?


「〈サンフレア〉」


 レベル10の火魔法。名前の通り太陽のごとき炎を作り上げる。


 その直径は魔力を込めれば込めるほど、巨大に、そして高温になる。


 あとはトレントに向かって放り投げれば、、、



 ドガアアアアアアァァァァァァァァン!!!!



 ・・・トレントに向かって放り投げれば・・・土地がえぐれて・・・クレーターができる。


 そして・・・炎が消えるまで燃え続ける。


「やべっ!」


 そういえばここは森の中だった!大規模な山火事が起こってるよ!!


 燃えてる燃えてる!ものすごい勢いで木々が死んでいく。


 こりゃダメだ!


『マスター水魔法をお使いください。』


 お、おぅ、そうだな。さすが我がブレーン!


「〈グランドオーシャン〉!」


 その瞬間、今度は大自然の中に大波が押し寄せる。炎どころか全てを飲み込み、全てを破壊していく。


 何とか火事は抑えられたようだが、無駄に環境破壊をしてしまい、申し訳ない気持ちが半端ではない。


 ていうか、せっかくのトレントの魔石も水流でどこかにいってしまった。


 この時間は一体何だったのだろうか?


 頭をポリポリしながらどうしたもんかと考える。確か風魔法のエクストラスキル〈ツリーハウス〉は木を生やす事が出来たはずだ。


 うん、俺の罪悪感を消すにはもうそれしか無いだろう。


 急いで更地になった、いや陥没しクレーター状になったハゲた大地に、木を生やしていく。


 使ってみて分かったのだが〈ツリーハウス〉はなかなか面白いスキルのようだ。もちろん生み出した木を操る事で攻撃にも使えるが、こういった植樹にも使える。


 ものの数分でハゲた大地が緑を取り戻した。



 少し地形は変わってしまったが、これならまぁ良いだろう。





 てことで基本魔法の性能もよく分かったし、とりあえず先に進もう。


「ウキキキ!」


「あぁ分かってるさ、今度はリアンにも一緒に戦ってもらうよ。」


「ウー!」


 ようやく、下半身のタマゴの殻がとれ、大人への第一歩を踏み出した子ザルが、自分の出番はまだなのかと催促をしてくる。


『マスター?騒ぎを聞きつけた大型の魔物が左右から接近してくるようです。それぞれ15秒後と20秒後にエンカウントします。』


「はいよ!リアン!俺の影に入って〈猿マネ〉だ!」


「ウキャキャ!」


 まずは近い方からだ。


 一目散に飛びかかってきたのは、凶悪な牙を持つサーベルタイガー。


 トラのような模様をしているが、地球に存在する肉食獣とはレベルが違う。


 体高は3メートルを超え、前足から後ろ足まで5メートルもある化け物だ。


 

「〈ホーリーレイ〉〈ウキャ〉」

 

 脳天目掛けてレベル10の光魔法を軽く使用してみる。すると俺の光線が撃ち出された直後に、全く同じ大きさの光線が影から撃ち出された。


 みるとちゃんとサーベルタイガーの脳天に2つの穴が開いている。


 巨体がドサリと地面に倒れこむ。


「いいぞ!」

「ウー!」


「じゃあ今度はこの動きについて来れるかな?」

「ウー?」


 反対サイドから遅れてやってきたカンフーベアに〈真・身体強化Max〉のみで向き合う。


 そして素手で相手をする。


 俺が5回パンチを当てれば、同じ威力のパンチがプラス5回繰り出される。


 フェイントを入れようが、頭の中で別のことを考えていようが、100%綺麗にマネをしてくる。


 さすが上級悪魔のオリジナルスキルだ。


「よし、オッケイだ。凄かったぞ!」

「ウキャキャ!」


 タコ殴りにされていつの間にか亡骸となったカンフーベアを眺めながら、リアンの頭を撫でてやる。


 俺に褒められてめちゃくちゃ喜んでいるようだ。


「よし、2人の連携はバッチシだな。あとは個人の戦闘力だ。」


「・・・ゥ―。」


 それまでのハイテンションが嘘であったかのように、自分の攻撃スキルを持たないリアンがシュンとする。


 だが落ち込む必要はない!!


「じゃあ〈隷属〉から〈御恩と奉公〉に切り替えるか!?そしたらリアン単体でも攻撃魔法が使えるようになるぞ?」


「ウキャ!!」


 俺の言葉を聞いてリアンが飛び回る。相当嬉しいようだ。


「おしおし、ならスキルを渡していくからちょっと待ってろ。先に今の魔石食っちまうから。」


 ガリガリ。



 ピロリン!



『レベルが17上がりました。強化するスキルを17個選んでください下さい。』


 いいね。やはり経験値100の魔石は効率が段違いだ。それなら残りの土魔法と、、、新しく覚えた雷魔法でいくか。


 ピロリン!


『〈土魔法3〉〈雷魔法1〉がレベル上限に達し〈真・土魔法Max〉〈真・雷魔法Max〉になりました。これによりエクストラスキル〈メテオ〉〈黒雷〉、称号≪土魔法を極めし者≫≪雷魔法を極めし者≫を獲得いたしました。魔法使用時の攻撃力が1.2倍になります。』



【種族】ハイヒューマン

【名前】黒宮 レイ 

【性別】男

【魔石】中 レベル21(12/21)



スキル〈真・剣術Max〉〈神聖魔法Max〉〈格闘術1〉〈真・火魔法Max〉〈真・水魔法Max〉〈真・風魔法Max〉〈真・土魔法Max〉up!〈真・雷魔法Max〉up!〈闇魔法1〉〈空間魔法1〉〈重力魔法1〉〈気配察知1〉〈気配遮断1〉〈夜目1〉〈遠視1〉〈真・身体強化Max〉〈真・詠唱省略Max〉〈魔力操作1〉〈解体1〉〈解錠1〉〈チギュウ共通語〉〈擬態1〉〈威圧1〉〈飛行1〉〈ブレス1〉〈投擲1〉〈粘糸1〉〈超音波1〉〈裁縫1〉



常時発動スキル〈麻痺耐性Max〉〈毒耐性Max〉〈睡眠耐性Max〉〈熱耐性Max〉〈火耐性Max〉〈氷耐性Max〉〈水耐性Max〉〈雷耐性Max〉〈絶食耐性Max〉〈絶水耐性〉〈絶塩耐性〉〈真空耐性Max〉〈物理耐性Max〉〈圧縮耐性Max〉〈臭気耐性Max〉〈仮死耐性Max〉〈石化耐性〉〈血液耐性1〉〈不快耐性1〉〈殺気耐性2〉〈疲労耐性1〉〈真・思考加速Max〉〈真・見切りMax〉


エクストラスキル〈飛翔斬〉〈無詠唱〉〈蘇生〉〈瞬歩〉〈並列思考〉〈インフェルノ〉〈ブリザード〉〈ツリーハウス〉


オリジナルスキル〈サポートシステム〉〈異世界転移(地球)(チギュウ)〉〈竜魂(中)〉〈ラプラスの悪魔〉〈ダンジョン管理〉〈御恩と奉公〉



称号 《生き残りし者》《唯一無二の存在》《剣術を極めし者》《詠唱を極めし者》《ドラゴンとして転生するはずだった者》《聖なる魔法を極めし者》《身体強化を極めし者》《思考加速を極めし者》《叡智と因果律に愛されし者》《ダンジョンの主を倒した者》《ダンジョンの主》《悪霊(デーモン)の親》《付与を極めし者》《火魔法を極めし者》《水魔法を極めし者》《風魔法を極めし物》《進化した者》《土魔法を極めし者》new!《雷魔法を極めし者》new!



 うん、で、魔法の詳細はこんなかんじ。


土魔法

レベル1 ロックボール

レベル2 ウォール

レベル3 鉄壁の守り

レベル4 トラップ

レベル5 ゴーレム召喚

レベル6 蟻地獄

レベル7 砂嵐

レベル8 地割れ

レベル9 アースケイク

レベル10 ボルケーノ


エクストラスキル〈メテオ〉


雷魔法

レベル1 サンダーボール

レベル2 帯電、放電

レベル3 サンダーウォール

レベル4 サンダースピア

レベル5 雷雲

レベル6 サンダーボルト

レベル7 チェインストーム

レベル8 電光石火

レベル9 避雷針

レベル10 雷槌


エクストラスキル〈黒雷〉



「リアン!待たせたな。準備オッケイだ。今からスキルを付与していくぞ。」


「ウキャ!」


「〈御恩と奉公〉!」




【種族】上級悪霊(ハイデーモン)

    シャドウモンキー

【名前】リアン

【性別】オス



スキル〈真・剣術Max〉new!〈神聖魔法Max〉new!〈真・火魔法Max〉new!〈真・水魔法Max〉new!〈真・風魔法Max〉new!〈真・土魔法Max〉new!〈真・雷魔法Max〉new!〈真・身体強化Max〉new!〈真・詠唱省略Max〉new!〈夜目1〉new!


常時発動スキル〈麻痺耐性Max〉〈毒耐性Max〉〈睡眠耐性Max〉〈熱耐性Max〉〈火耐性Max〉〈氷耐性Max〉〈水耐性Max〉〈雷耐性Max〉〈絶食耐性Max〉〈真空耐性Max〉〈物理耐性Max〉〈圧縮耐性Max〉〈臭気耐性Max〉〈仮死耐性Max〉〈真・思考加速Max〉new!〈真・見切りMax〉new!〈殺気耐性2〉new!



エクストラスキル〈シャドウ〉


オリジナルスキル〈顔マネ〉〈猿マネ〉


称号人間の子《進化した子猿》




 上手く行ったみたいだな。エクストラスキルやオリジナルスキルは付与出来ないから、取りあえずこんなもんだろう。


 あとはMaxになったらその都度渡していこうと思う。


「いいか?力を得たからと言って調子に乗ってはいけないぞ?強力な力だからこそよく考えて使うんだ。」


「ウキ。」


「それと、〈隷属〉と違って〈御恩と奉公〉は上から縛り付けるスキルじゃ無くて、信頼関係を大切にするスキルだ。だからリアンが望めば、付与したスキルを失う代わりに、そっちから契約解除を求めることもできる。」


「キキキキキ!」


 そんなことしないとばかりにリアンが頭を左右にブンブン振って抗議する。


 可愛い奴め!

 

「そうか。じゃあこれからもよろしくな!」


「ウー!」


「よし、スキルの試運転も出来たし、そろそろこの森ともおさらばするか。」


 スキル〈飛行1〉を発動し空に大きく飛び上がる。


「もうすぐ学校の時間だけど、魔王達の住む西の大陸まで、行けるところまで行くぞ!」


「ウキーー!!」


 




 都内タワーマンションのとある一室。



 高級マンションには似つかわしくないガラの悪い男たちがたむろしていた。


 テーブルの上には酒やタバコが散乱している。


富樫とがしさん、大丈夫ですかね?」


「あ?」


「・・・いや、なんでもないっす。」


「んだよお前、言いたい事があるならハッキリ言えよ。」


 リーダー格の男が、ウンザリするようにピシャリと言い放つ。それだけで部屋の空気が一変した。


「・・・こないだのあの女、モデルだったみたいじゃないですか。ニュースにもなってるし、流石にサツが動くんじゃないかと思って。」


「カズ、またその話かよ。その心配は無いって何度も言ってんだろ!そのうち別の犯人が・・・・」


富樫とがしさん!!テレビ観てください!ちょうどやってます!」


『ニュースの途中ですが、ここで速報をお伝えいたします。先日ファッション雑誌catの専属モデル、宇田アイリさんがひき逃げされた件で、38歳の無職の男が逮捕されました。えー繰り返します。モデルの宇田アイリさんをひき逃げしたとして38歳の無職の男が逮捕されました。事件当日、男は酒に酔っていた可能性があるという事です。なお男の認否はまだ明らかにしていません。』


 緊迫感を持って報道するテレビを観て、男達の顔が緩む。そして吹き出す。


「ハハハハハ!ほらよ、カズ?俺の言った通りになっただろ?」


「は、はい!疑ってすいませんっした!」


「ったくよ、取りあえず飲めよ。」


「はい、いただきます!」


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