第30話 カミングアウト



 異世界(チギュウ)へ行こうかと思っていたが、リアンが生まれたので、取りあえず保留にした。まずは色々と知らなければならない。


 改めて子ザルリアンの特徴を観察してみる。


 2頭身の愛くるしいルックスに、クリクリのお目々。タマゴから孵化したものの、下半身にはまだからが付いている。しかもそれがちょうど股間こかん周りをオムツのようにおおっている。


 完全に殻が取れるまで、もう少し時間がかかるのかもしれない。

 

 ま、俺としては、可愛いので今のままでも全然オッケイだ。


「ウキ~!」


 こちらの言葉も完全に理解しているし、いろいろな耐性があるおかげで、危険な目に合う可能性もほとんど無い。


 まさにクマムシベイベーだ。


 ただ少しだけ心配な点を挙げるとすれば、今のところリアンには攻撃スキルが1つも無いということだ。エクストラスキルの〈シャドウ〉も、俺の影の中に入れるだけで攻撃するスキルではない。


 、、、それゆえ今の状態で敵と遭遇したら、死にはしないけど倒す事もできない。


 パパ・・としてはそこが不安だ。


「ウキキ?」


「ん?何でもないよ。」


 リアンの事を考えていると、俺の体をよじ登り、グイっと顔を覗き込んできた。


 そしてオリジナルスキル〈顔マネ〉で笑わせてくる。

 

「ハハハハ!目の前に自分の顔とか気色悪いな、、、」


 しかも体だけ猿の2頭身。絶対に外ではやらないで欲しい。


「ハハハハ!」

「キャキャキャキャキャ!」


 かわゆい。俺の中の父性ふせいが爆発してとろけてしまいそうだ。そうだ、こんなにもカワイイんだから攻撃手段なんてなくてもいいじゃないか。もしかしたらこれから覚えるかもしれないし、俺が守ってやればいいんだから。


「一緒に寝るか?」

「ウ~~~~!」







 翌日、学校を終えた俺達は1度それぞれの家に帰って準備をしてから再び集まった。


 メンバーは、俺、赤羽、雪乃、ナナ、御堂美月、御堂風花。そして今日退院したばかりの宇田アイリ。彼女にもいろいろと説明をして、正式にメンバーとして加わってもらった。まぁ犯人を捜すのが目的なので当然の流れだろう。


 ちなみに、なぜアナウンサーである美月さんが、夕方過ぎに集まる事ができたのか?だが、それは彼女の勤務形態が特殊だからだ。


 朝の情報番組に出演するため、毎朝午前3時には出社し、お昼頃に退勤するらしい。


 良いのか悪いのかよく分からないが、こういった事情のため、彼女は会社員でありながらこの時間に集まる事ができる。


「えーそれでは俺に付いてきてください。」


「ウキ・・・」


 コソコソコソ


「リアン、もうちょっと影の中に入っててくれ。もうすぐ皆に紹介するから。」

「ウ~~、、、」

 


「ここはどこなんだ?」


 皆の疑問を代弁するかのように赤羽が尋ねてくる。


「俺が買った土地と建物だよ。」


「「え?」」

「・・・マジかよ。」


「あぁ、取りあえず家に入ってくれ。」



「「お、お邪魔します。」」


 赤羽とナナは俺の金遣いにビックリしているようだ。というか、表情から察するに軽く引いているかもしれない。


 一方で雪乃はポワポワしていて何も読み取れない。・・・ただ目が合うとデレた顔で「えへへ」と微笑ほほえんでくる。


 正直、どう反応したらいいのか分からな、、、、



 ってリアン!



「ウキキキキキキ!」


 我慢出来なくなったリアンが影から飛び出してしまった。




「「え!?」」


 小踊こおどりする2頭身のサルに、みんなの目が点になる。あまりビックリさせないように段取りを決めていたのだが、、、まぁいい、この際紹介してしまおう。


「コイツはリアンって名前なんだ。色々あって飼うことになったからよろしく。」


「か、可愛いです!抱っこしてもよろしいですか?」


「もちろん。」


 意外にも最初に反応を見せたのはアナウンサーの美月さん。


 折れてしまいそうなほど華奢な指でそっとリアンを持ち上げる。そして胸の辺りでギュっと抱きかかえる。

 

 ウ、ウウン。


 下手をしたら全人類から恨みを買うシチュエーションだが、、、


「ウーーー!」


 生まれて初めて、おっぱいというものに触れ、何だこれは?と興味津々の顔をするリアン。赤ん坊特権あかんぼうとっけんをフル活用してこねくり回している。


 グリグリグリ、、、


「コラ、そこはつんつんしちゃダメだ。すいません美月さん。」

「ウ?」

「いえ、大丈夫ですよ。フフフ。」


 美月さんは照れながらも子ザル相手に大人の対応だ。さすがお嫁さんにしたいアナウンサー断トツのナンバーワン。絶対に良いママになるに違いない。


 誰もがそう思った。



 のだが、、、、



 ボン!


「え?」

「「え?」」



 ・・・あれ?おかしいな?俺の顔・・・が美月さんに抱っこされているんだが?というかおっぱいに埋もれているんだが?もしかしてそこで〈顔マネ〉を・・・・お前、なんてことを!


 Oh my God!このご時世にそれはダメだ!


「キャーーーーーー!」


 ヒューーーーン!!グペ!


 びっくりした美月さんが、もの凄いフォームでリアンをぶん投げた。そこには普段の優雅さなんて微塵みじんもない。あるのは狂気だけ。お嫁さんにしたいアナウンサー断トツナンバーワンの見てはいけない一面だ。


 あぁ、恐ろしや、恐ろしや。


「ウキーー」


 もちろん〈物理耐性Max〉のリアンに怪我は無いが、プルプル震えて怯え切っている。

 



「「・・・。」」


 何だこの空気は?、、、いろんな意味で恐ろしいんだが?



 ・・・・まぁいいや、取りあえず転移石にとっとと登録して第6フロアのログハウスまで移動しよう。


 こんな所で時間をってても仕方ないんだから。


 呆然とするみんなの手を引っ張り、指紋認証と静脈認証をさせて、最後に1人ずつ顔と名前を登録する。


 これで準備は完了だ。


 それでは転移!




「「え!?」」


 

「・・・ここはどこなんだ?」


「家の地下だよ。」


「いやいやいや、そんなバカな!なんで一瞬で視界が切り替わってるんだ!?この空間は一体・・・」


「体が浮いたような気がしますぅ。」


「うん、私もそう思ったかも。もしかして転移?ほら?ゲームとかファンタジーによく出てくる・・・」


 来栖ナナが、割と核心をついた事を言ってくる。だが本人もそんな事は有り得ないと思ったのか段々と声が小さくなる。


 唯一、モデルの宇田アイリだけは落ち着いているようだが、、、まぁ彼女は俺の秘密を知っているし、あの一件で超常現象に対する耐性が付いたのかもしれない。



「黒宮、そろそろ説明してくれないか?やっぱり、さっきのサルが変身したのも見間違いじゃ無かったと思うし、今のはどう考えてもおかしい。」


 イケメン赤羽がズイっと迫ってくる。


 イケメン過ぎて妊娠したかもしれない。こいつと目を合わせるのは危険だ。


「説明はするさ。ただし、聞いたからには絶対に秘密は守ってもらいたい。その覚悟のある人だけ残って欲しい。無理なら家まで送るから帰ってくれて構わない。」



 こちらとてリスクがあるからな。


 さて、みんなどうする?もし約束を破ったら敵対することになるぞ?


「うちは当然残る。っていうか全てを捧げるつもりやし。」


 真っ先にこう宣言したのは宇田アイリ。うん、ありがたいね。


 まぁ全てを捧げられても困るけど。そんな自信満々に体のラインを強調されても困るけど。


「私もぉ。黒宮君が困る事はしないですぅ。」

「そうね。」

「あぁ、俺達も黒宮が困ることはしない。」


 雪乃が両手をグーに握りしめながら目をメラメラさせる。ナナと赤羽も力強く頷いてくれた。彼らは唯一の学友なので俺も嬉しい限りだ。人柄的にも信用できることは分かっているので何も心配はいらない。



 さて、残るは御堂姉妹2人だ。どうする??


「あの質問よろしいでしょうか?」


 姉の美月さんが手をあげる。


「はい。」


「私達はお祖父様にも秘密にしないといけないのでしょうか?」


 ふむ、まぁこれはもっともな疑問だ。おそらく彼女達は、俺達がムチャをしないように見張る役目もあるだろうし。


 大変なこった。パンナコッタ。


「そうだな、どんな人物にせよ今はまだ権力者にバレたくは無い。でもま、これから先もじーさんの世話にはなると思うから、近いうちに俺から話すことになると思うよ。今言えるのはそれぐらいかな。」


 姉妹が顔を見合わせる。そして頷き合う。どうやら納得してくれたようだ。


「分かりました。それなら私達姉妹もご一緒させてもらいます。」


 うむうむうむ。信用できる人間が増えたかもしれない。アナウンサーと女優なんて一生関わらないと思っていたが、末永いお付き合いになりそうだ。不束者ふつつかものですが宜しくお願いします。


「りょーかいです。じゃあ全員残ってくれたと言うわけで、俺の秘密を話したいと思います。突拍子もない事を言うと思うけどみんな準備はいいか?」


「「はい!」」


 興奮気味のメンバー達。こちらの体温が上昇するほど熱い視線を向けてくる。


「よし、じゃあアイリ?こっちに来てくれ。御堂姉妹も赤羽達も知ってると思うけど、彼女はこないだひき逃げにあったよな?そしてモデルの命ともいえる右脚の膝から下を切断する大怪我を負った。にもかかわらずだ、なぜか今ピンピンしてる。見て分かる通り脚も普通にある。」


 目線で触るぞ?と確認をしてからアイリのスカートをグッとまくり上げる。そして傷ひとつ無い美脚を露出させる。


 ・・・け、決して個人的な趣味ではないぞ?分かりやすく説明をするためにスカートをめくっただけだ、、、ま、まぁちょっとだけ上にげ過ぎちゃってパンツが見えそうになってしまったが、それは単純に力加減を間違えてしまったからだ。だから、わ、わざとじゃないぞ!


 ウホンウホン!!



「で、えーとここまでの情報は御堂家の報告書でも読んでるよな?」

「あぁ、世間でも『天使のイタズラ』って話題になってるし?」


 うんうん。


「らしいな。でも、実は治したのは天使じゃなくて俺なんだ。」


「「!?」」


 アイリ以外が目をカッと見開く。


「まぁ信じられないと思うから、実演してみたいと思うんだけど、この中で怪我とか病気をしてるヤツはいるか?」


「あ・・・はい。」


 手を上げてくれたのは、御堂姉妹の妹、国民的女優になりつつある風花ふうかさんだ。黒髪ショートカットの涼しな美少女でありながら、どこか親しみも感じるスーパーウーマンだ。


「昨日お料理の練習をしていたら包丁で人差し指を切ってしまいました。」


 そう言いながら、絆創膏ばんそうこうを巻いた指を見せてくる。


「とっちゃってもいいですか?」


「はい。」


 許可を取って絆創膏をとると、意外にもザックリやらかしていた。


 地味に痛そうな怪我だ。だが実演するにはちょうどいい。皆に傷口があることを見せてから〈ヒール〉を唱える。


 すると当然のように傷口が塞がった。


「「!?」」


「まぁ、こんなかんじだな。他にも例えば・・・そうだな〈ファイアボール〉」


 そう言いながら、手の平にバレーボール程の炎を球を出現させる。



「「!?」」


「理解してくれた?」


「「できるか〜!!」」


 ・・・あれ?おかしいな。分かりやすく説明したつもりだったんだが・・・。


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