第26話 ラスボス

 その日、都内の中核病院に勤める救急救命医の石川達也いしかわたつやは、当直勤務に当たっていた。


 今は仮眠室で横になっているが、心が休まることはない。


 なぜならば今日、自分の娘と同じぐらいの女性の脚を切断したからだ。


 彼女を救うためには仕方の無い判断だった。医者として働いている以上、避けては通れない道だということも理解している。


 ただ聞く所によると、彼女は有名雑誌のモデルと言うではないか。


 無事に意識が戻ったとしても、これからマスコミを巻き込んだ大騒動になる事は間違いない。


 心が壊れてしまわなければ良いが、、、



「はぁ〜」


 憂鬱な気分のまま大きなため息をつく。



 するとそこに看護師が駆け込んできた。



「た、大変です!!石川先生!!今すぐ宇田アイリさんを!!」


「すぐ行く!」


 ・・・容態が急変してしまったのだろうか。


「バイタルはどうだ?状態を説明してくれ!」


「は、はい、それが・・・全ての怪我が・・・治っています!」


「・・・は?」


 石川と看護師の間になんとも言えない微妙な空気が流れた。一瞬何を言っているのか理解できなかった。


 ふざけているのかと思ったが表情から察するにそんな様子でもない。


 その後も、何度訪ねても看護師の返答は要領を得ない。


 よく分からないまま急いで駆け付ける。そして石川は驚愕の光景をの当たりにする。






「どういう事だ!?」


 なぜ彼女の右脚が存在しているのだ!?確かに自分がこの手で切ったはずなのに!?


 いや、それだけでは無い!骨折していた箇所も、脈も呼吸も正常だ。


 信じられない。



「・・・誰も何もわからないのか?じゃあ最初に気付いたのは誰なんだ?」


 すると1人の看護師が困惑した表情のまま手を上げた。そして恐る恐る口を開き始めた。



「あの・・・私、なんか違和感を感じて・・・というか彼女のベッドが光ったような気がして様子を見にいったんです。そしたら何かとすれ違ったような・・・」


「光?」


「は、はい、勘違いかもしれないですけど・・・」


 なんだそれは?


「まさか幽霊の仕業しわざか?いや、この場合天使とでも言った方がいいのか?」


「・・・。」


 何を言っているんだと思われるかもしれないが、病院に本物の幽霊が出るなんて話は枚挙まいきょいとまがない。ある程度働いている人間ならば、誰もが実際に見聞きすると言ってもいい。


 だからこそ、幽霊の仕業だと言われてもみんな鼻で笑うことができないのだ。


「・・・なんか寒気がします。」

「わ、私も、、、、」


「確かに、、私も震えが止まらないが、、、と、とりあえず、良かったじゃないか、、、、ハハ、、、ハハハ。明日また体に異常がないか検査してみよう。じゃ、じゃあ、か、彼女が目覚めるまで宜しく頼む。みんな解散だ。患者は他にもいっぱいいるんだからな。」


「「・・・は、はい。」」




 こうして、御堂病院で起きた世にも奇妙な現象は、看護師からまた別の看護師へ、そしてその家族へ、2日もする頃にはネットニュースを席巻するに至った。 


 事務所としても、宇田アイリがひき逃げの事故にあったことは事実なので、一時重体に陥った事は認めざるを得なかった。


 この事件が天使のイタズラとして、後々のちのちまで語り継がれる事になったのは言うまでもない。









 俺が治療を施してから4日後、マネージャー経由で、とうとう宇田アイリが目覚めたと連絡があった。


 流石の俺も彼女の意識ばかりはどうしようもなかったので、本当に良かったと思う。


 ただなぜか目覚めた彼女は、しばらくすると俺を呼んでほしいと懇願したらしい。


 少し嫌な予感がするのはなぜだろうか。俺の犯行・・は完璧だったはずだが?


 まぁ、考えたところで理由はよく分からないので、明日の夕方にでもお見舞いに行くと言っておいた。


 雪乃達でも誘って行こうかと思う。



 あぁそれとこの4日間、もちろん異世界もサボらずに行っていた。順調にダンジョン攻略を進め、第10フロアの入り口まで到達したのだ。


 魔石もかなりの数集まっている。面白い事に階を進めるごとに魔物の数は減っていったが、魔石の大きい魔物達が増えたのので、攻略したあかつきにはこれら全てを一気に食べようと思う。



 ということで、現在日本時間は土曜日の夜の10時。


 明日お見舞いに行くまでダンジョンへ行こう!



 テイッ!




ダンジョン第10フロア



 ここは今までのフロアとは明らかに作りが違う。俺の予想としては最奥なのではないかと思う。


 フロア全体に毒も蔓延しているため、耐性の無い人間はろくに進むこともできない。知らず知らずの内に入ってしまった奴は、いつの間にか死んでしまうだろう。


 その証拠に少し進んだところに、昔の人の骨が散らばっている。


 なかなかイヤらしいダンジョンだ。


 まぁ俺にとっては誤差みたいなもんだが。



 出てくる蜘蛛とコウモリの魔物を適当に狩りながら先に進む。


 ふむ、ふむ。


 見た目が気持ち悪いのであまりエンカウントしたくないが、彼らの持つスキルはなかなか有用そうだな。


 ピロリン!


『スキル〈粘糸1〉〈超音波1〉を獲得いたしました。』


 おぉ、なんか催促したみたいになってしまったが、、、


 ありがたや〜ありがたや〜


 フフフフ。



 それじゃあせっかく手に入れたんだし試してみるか。


〈超音波1〉は、えーと・・・遠くの音が拾えるようだ。ということは諜報にはもってこいのスキルだな。


 うん、で、〈粘糸1〉は名前の通り体から糸が出せると。天井にぶら下がったりできるのは間違いなく便利だな。ただレベル1でも10でもそこまで変わらないような気もする。


 裁縫スキルでもがあれば面白いことになりそうだが、、、


 ピロリン!


『〈裁縫1〉を習得いたしました。』


 

 ・・・使い道できたな。


  


 お?


 遊んでいたらいつの間にかボス部屋にたどり着いてしまったみたいだ。


 しかも今までは石扉だったのにここは鉄扉になっている。やはりこのフロアが最下層なのだろうか?もしこの仮定が当たっていれば、部屋の中にいるのは、このダンジョンのラスボスということになる。


 段違いで強かったらどうしようか?


 そんな考えが頭の中をよぎるが、ここまで来て引き返す選択肢は取れるわけがない。


 覚悟を決めてからゆっくりと中に入る。


 待ち構えていたのは大きな斧を持った牛の化け物。


『ミノタウロスですね。』


『そうみたいだな。早速攻撃してくるみたいだ。』


『ミノタウロスは突進力に定評があります。ご注意ください。』



「〈ラプラスの悪魔〉」


 見えるぞ!お前が何をしようとしているのか。どうやらフェイントのたぐいいは苦手なようだな。動きが直線的でしかない。


 これだと一瞬でやれそうだが、、、


「はははは!少しは楽しませてくれよ?」


 こっちは緊張してたんだからな。これじゃあ肩慣らし程度だぞ?


「グモモモモォォォォ!」


 俺に攻撃が当たらないため牛さんが苛つき始めたようだ。


 大斧をブンブン振り回してくる。


 確かにアレに当たれば痛そうだが・・・〈真・身体強化Max〉と〈瞬歩〉も使用している俺にあんな大ぶりの攻撃が当たるわけがない。


 どうやらこれ以上の戦闘は意味がないようだ。


「もういいよ、お疲れ様。」


「モォ?」


「〈ホーリーレイ〉!」


 レベル10の光魔法でフィナーレを飾る。これはいわばレーザー攻撃だ。高密度に圧縮された光のエネルギーがミノタウロスへ向けて一直線に飛んでいく。


 俺でも〈ラプラスの悪魔〉が無ければ避けるのは難しいかもしれない。


 それ程までに、撃ち出してから到達するまでの速度が早い。


 加えて貫通力が半端ではない。鉄ですらこの攻撃の前ではお話にならないだろう。


 ミノタウロスがドサリと倒れ込む。これにて戦闘終了。



 ボスとはいえあっけない最後だった。



 ピロリン!


『称号≪ダンジョンの主を倒した者≫を獲得いたしました。秘密の部屋への通行権が与えられます。』


 むむ?秘密の部屋とはなんだ?終わったと思ったけどボーナスステージでもあるのか?


 パッと見たかんじそれらしき扉は見当たらないが・・・


『エイミー?どこにあるか分かるか?』


 

『・・・解析中・・・解析中!』



 ピロリン!


『解析結果を開示いたしますか?』


『あぁ。頼んだ!』


『最初にミノタウロスが立っていた場所まで移動してください。そして地面に向かってノックを4回してください。』


 よく分からないが言われた通りにやってみる。


 コンコンコンコン。


 すると突如、地面がウネウネと動き出し地下へと続く階段が現れた。


 まるでからくり屋敷のようだ。エイミーがいなければ一生見つける事など出来なかっただろう。


 恐る恐る階段を降りてみる。すると、その先には木製のドアが1つあるだけだった。


 豪華さとは無縁の年季の入ったみすぼらしいドアだ。


 どれどれ?中はどうなっているのかな?


「お?」


 なんだ?なんだ?6畳ぐらいの小さな部屋の真ん中に宝箱と虹色に輝く丸い玉が置かれている。


 その他は何も無い殺風景な部屋だ。


 これがダンジョン攻略のご褒美というわけかな?




【種族】ヒューマン

【名前】黒宮 レイ 

【性別】男

【魔石】小 レベル65(11/65)



スキル〈真・剣術Max〉〈神聖魔法Max〉〈格闘術1〉〈火魔法1〉〈水魔法1〉〈風魔法1〉〈土魔法1〉〈闇魔法1〉〈空間魔法1〉〈重力魔法1〉〈気配察知1〉〈気配遮断1〉〈夜目1〉〈遠視1〉〈真・身体強化Max〉〈真・詠唱省略Max〉〈魔力操作1〉〈解体1〉〈解錠1〉〈チギュウ共通語〉〈付与1〉〈擬態1〉〈威圧1〉〈飛行1〉〈ブレス1〉〈投擲1〉〈粘糸1〉new!〈超音波1〉new!〈裁縫1〉new!



常時発動スキル〈麻痺耐性Max〉〈毒耐性Max〉〈睡眠耐性Max〉〈熱耐性Max〉〈火耐性Max〉〈氷耐性Max〉〈水耐性Max〉〈雷耐性Max〉〈絶食耐性Max〉〈絶水耐性〉〈絶塩耐性〉〈真空耐性Max〉〈物理耐性Max〉〈圧縮耐性Max〉〈臭気耐性Max〉〈仮死耐性Max〉〈石化耐性〉〈血液耐性1〉〈不快耐性1〉〈殺気耐性2〉〈疲労耐性1〉〈真・思考加速Max〉〈真・見切りMax〉


エクストラスキル〈飛翔斬〉〈無詠唱〉〈蘇生〉〈瞬歩〉〈並列思考〉


オリジナルスキル〈サポートシステム〉〈異世界転移(地球)(チギュウ)〉〈竜魂(小)〉〈ラプラスの悪魔〉



称号 《生き残りし者》《唯一無二の存在》《剣術を極めし者》《詠唱を極めし者》《ドラゴンとして転生するはずだった者》《聖なる魔法を極めし者》《身体強化を極めし者》《思考加速を極めし者》《叡智と因果律に愛されし者》《ダンジョンの主を倒した者》new!





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