第25話 アイリ重体
日本
「え〜それじゃあ実力テストの結果を返していくぞ〜!」
「「ええぇ~~~!!」」
さっさとホームルームを終えて何事もなく下校するつもりだった全員が、
もう採点が終わったのかと。現実をつきつけるのはもう少し後にしてくれと、誰もがそう思った。
俺を除いて。
あ、いや、もう1人自信満々の奴がいた。
「フフフフフフ。さすが綾部担任は仕事が早いでござるな。僕ちゃんの担任を任されるだけのことはある。フフフフフフ。」
「ん?いやこのテストを採点して偏差値を出してるのは俺じゃなくて業者だけどな。」
「フグッ!?・・・も、も、もちろん、そんな事は知っているでござる!・・・・あ!そうでござる!黒宮氏?」
顔を赤くしたオタクくんが焦りながらクルリと俺の方を向く。
「ん?」
「僕ちゃんと勝負するでござる!」
「・・・嫌だよ面倒くさい。勝負する必要も無いし。」
コイツと関わるとろくな事にならない。
それにどうせ俺が勝っていることは
「プップップ!もしかして僕ちゃんに勝つ自信も無いってことなのかな?ダサいねー、ダサすぎるよ。あ、そうか!黒宮氏はスポーツ推薦で入った脳筋でござったな。プップップップそれなら仕方ない。」
憎たらしい顔でオタク君がブヒブヒ言い散らす。
するとこのやり取りを聞いていたクラスメイト達から非難の声が上がった。
「「たとえ勉強ができても性格がアレじゃあね〜」」
「「知ってるか?アイツいっつも盗撮してるんだぜ?」」
「「女子はみんな黒宮君の味方だよね〜」」
ヒソヒソヒソ
オタク君の耳にも届いているのだろう。プルプル震えている。そして呪文のように何かを呟いている。
「おのれ〜絶対に黒宮氏に恥をかかせてやる。この屈辱許すマジ。許すマジ。許すマジ。」
ブツブツブツ……
どうやらクラスメイト達の
関わらないようにしているのになぜこうなってしまうのだろうか?本当にめんどくさい男だ。思わず大きなため息が漏れてしまう。
「おーい、それじゃあ順番に前まで取りに来い。青井から。」
「は、はい。」
とうとう始まった。
みんな期待と不安が入り混じった顔で結果を受け取っては、現実を突きつけられて絶望していく。喜んでいる者はほとんどいない。
まぁそれもそうだろう。マーク式ならまだしも筆記式のテストで、偶然の奇跡が起こる確率はほとんど存在しない。
大抵の場合、自分の点数と偏差値を見て精神的にゴリゴリ削られる。
それがテストってもんだ。
「フフフフ、フハハハハ!結局最後に物を言うのはやっぱり頭のデキでござるな。スポーツなど怪我をしたら終わり、いや怪我をしなくても20代でピークを迎えてしまう非合理的競技でしかない。人生を捧げるには値しないンゴ。つまり学力で都内4位を叩き出した僕ちゃんは、間違いなく今後もヒエラルキーの上位に君臨するでござる!!」
まったく、何を言っているんだか。呆れて言葉が出てこない。
まぁ、いいや。アイツは放置しておけばいい。そのうち勝手に社会の厳しさを知って
えーと、そんな事より俺の結果は・・・・
どれどれ?
綾部から紙を受け取り目を通す。
ふむふむ、全教科満点か。それぞれの偏差値は軒並み70オーバー。数学と国語に至っては90オーバー。
まぁ、分かりきっていた結果だが都内の順位は1位。
ますまずの滑り出しだな。
『エイミー?サンキュ!』
『当然の結果でございます。』
と、その瞬間、後ろから紙をひったくられた。
「とったでござる!!」
見るとオタク君が満面の笑みで俺の紙をヒラヒラさせている。
「みんな注目でござるよ!普段からスカした黒宮氏の実力は、デンデンデン!!なんと全教科満点、しかも都内1位の大バカでござる!!!プップップ!・・・・ん?・・・・んん?」
自分でも発言内容に違和感があったのだろう。オタク君はもう1度ゆっくりと、俺の結果に視線を戻す。
そして事態を把握したらしい。
「全教科満点で都内1位!!??」
「「え!?」」
ザワザワザワ
クラスメイト達も皆一様にビックリしている。
「うおーー!すげっ!!こんなの初めて見たぜ!」
「スポーツだけじゃなくて勉強もできるなんて、まさに文武両道ね!」
「勉強でも負けてしまったアイツの存在意義、ブフッ!」
オタク君はまたしてもプルプル震え出す。まるで生まれたての小鹿のようだ。
多少同情するが、まぁ、フォローはしてやらない。全てアイツ自身が巻いた種の結果だ。
その後もクラスメイト達からさんざん煽られたオタク君は、教室で暴れ出してもう大変だった。担任の綾部と男子生徒数人でなんとか取り押さえたけれど、依然としてブヒブヒ、ブヒブヒ、、、どさくさに紛れて雪乃の机を食べようとしていたので全力で阻止をした。
これに
まぁ、この日の学校はこんな感じで終わっていった。
あ、そうそう。ちなみに赤羽達と結果を見せあったけど、雪乃は偏差値52ぐらいだった。数学に至っては偏差値45でたぶん学年最下位を争うレベルだと思う。
面倒くさいけど、今度勉強を教えることになったのは自然な流れと言えよう。
♢
このささやかな日常に黒い影が忍び寄ったのはその日の夜のことだった。
家で夜ご飯を食べていると、マネージャーの松本ひなのから電話がかかってきたのだ。
なんと事務所の先輩であり、俺のお隣さんである、モデルの宇田アイリが交通事故にあったと言うのだ。
しかも現在意識不明の重体でいつ容態が急変してもおかしく無いらしい。
あまりにも唐突な内容に頭の理解が追い付かなかったが、次第に自分の体の震えを自覚し、思い立った時には家を飛び出していた。
電話を繋いだまま、道路を走る。
時間は午後8時。空は暗くなり雲がどんよりとしている。
マネージャーから聞き出した宇田アイリの搬送先は、俺のスポンサーである御堂グループの病院の1つ。
『ここから南東に3キロ先です。』
『あぁ。助かる。全力で行くぞ!』
ひと目も
そして数分で病院に着くと受付の看護師に慌てて病室を問い合わせた。
どうやら緊急オペを終えて集中治療室にいるらしい。しかも面会謝絶だそうだ。
「あ、黒宮くん!」
名前を呼ばれたのでそちらの方に振り向くと、狭い通路に事務所の面々が何人も集まっていた。岸和田社長にマネージャー、、、宇田あいりの両親もいる。
皆一様に表情は暗い。というか泣いている。
手術はどうなったのだろうか?さまざまな疑問が頭を駆け巡る。すると俺が聞き出すまでもなく赤羽が説明をしてくれた。
「今さっき手術が終わってなんとか命は助かったけど今夜がヤマ場らしい。」
「・・・そうか。」
「それと・・・右脚の膝から下を・・・切断したらしい。」
「!?」
俺の体がピクリと反応する。彼女はモデルだ。もし意識を取り戻しても、そのことを知ったらどう思うだろうか?想像しただけで気分が重くなる。
なんとかして助けてあげたいが、、、俺の力を公にすることはなんとしても避けなければならない。
そうしなければ世界が混乱してしまう。
あとでコッソリと忍び込むか?・・・だが脚を治したら病院側の説明と食い違ってしまう。
実際に治療した医者達も困惑するに違いない。なにせ切断したはずの脚が元通りになってしまうのだから。
うーむ、難しい判断になるが・・・最悪、治したのが俺ってバレなければどうなってもいいか。
そうだな、この状況ではもはやそうするしか無い。
力を使う決心をする。
♢
病院に駆けつけてから数時間経ち、夜も遅いということで今日のところは一旦帰宅する事になった。
面会もできず、長期戦になるかもしれないことを考えれば、仕方のない判断だ。
社長が手配したタクシーに乗って重苦しい雰囲気のまま帰路につく。
まぁもちろん俺は帰ったふりだ。雪乃達と同じ車に乗っていたが、適当な理由をつけて1人だけ病院に戻った。少し不審に思われたかもしれないがこのぐらい許容範囲だろう。
さぁここからが俺の力の見せ所だ。
用心には用心を重ね、病院の敷地に入る前にレベル6の光魔法〈インビジブルカーテン〉を発動させる。
これは2メートル四方の膜を作る魔法だ。そしてこれにくるまれば、あら不思議、透明人間の出来上がり。
流石にニオイや音を消す事はできないけど防犯カメラに映らないだけで良しとしよう。
緊急用の出入り口から病院に忍び込むと、先程まで待機していた場所まで歩を進める。
正直歩きにくいが、、、まぁ仕方ない。
どれどれ?
宇田アイリは・・・どこにいるのかな?
うーむ、救急治療室は、カーテンで仕切られているためどこにいるのかよく分からない。
しかも医者やナースがすぐ近くに常駐しているため動き辛い。
慎重に1つ1つ確認していく。
すると1番端っこのベットに横たわる美女を見つけた。
人工呼吸器に加えて、たくさんの管が繋がれている。元気な姿からは想像もできない痛々しい姿だ。
〈インビジブルカーテン〉を脱いで彼女の状態をチェックする。
右足の大怪我だけで無く、何箇所か骨折もしているらしい。それに所々、裂傷も見られる。
ちゃっちゃと済ませてしまおう。
まずは
それからいよいよ失ってしまった右足を回復させるため集中して治療に取りかかる。ここからが本番だ。
ナースが見回りに来ないことを何度も確認してからレベル10の回復魔法〈欠損回復〉を使用する。
すると強い光を発しながらニョキニョキと脚が生えた。グロいというよりは神秘的な光景とでも言えばいいのか。
初めて使用したが上手くいったようだ。左足と比べても何ら遜色のない完璧な仕上がりだ。
「よし!」
ついでにレベル9の〈病気治癒〉とレベル5の〈体力回復〉もかけておこう!
これで彼女は健康体そのものだ。
まぁ、意識を回復するのはいつか分からないけど、みんなビックリするだろうな。
ふふ。
おっと看護師が近付いて来たようだ。俺はさっさと消えるとしよう。
「じゃあお大事に。〈インビジブルカーテン〉!」
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