第23話 ダンジョン


 家まで運んでもらった8億円を、新しく作った収納かばんに詰め込む。


 使い道はそのうち考えようと思う。それまでは貯金するつもりだ。


 グフフフ。


『よし、エイミー!朝までチギュウに行くぞ!』





異世界チギュウ



 現在こちらは午前10時。魔大陸へ行くためにグリゴロ大森林を冒険中だ。


 昼前だというのに、木々が鬱蒼うっそうしげっているため、意外とヒンヤリしている。マイナスイオンが溢れるパワースポットだと勘違いしてしまいそうだ。


 ただ忘れてはならない。


 ここは気を抜いたら死んでしまうリアルジャングル。今、この瞬間もあちこちで新しい生命が誕生してはチリのように消えていく。


 強い者だけが生き残れる弱肉強食の世界なのだ。



「〈輝剣〉」


 新たに獲得したスキルを発動させる。その瞬間、右手に光り輝く剣が出現した。その存在感たるや半端では無い。


 薄暗い森の中で爛々らんらんと輝いている。


 さすがレベル8の光魔法。今後のメイン武器はこいつで決まりだ。


 なにせ維持費もかからないし刃こぼれを気にする必要もない。


 これ以上の武器はそうそう無いだろう。


 しかも、どうやら、ある程度自分好みに変形できるようだ。


 光の炎をまとっているようなフォルムにもできるし、スラッとした棒状にもできる。


「どうしようか?」


 俺としては洗練されたデザインの方が好きだ。となるとサーベル型と刀型の一騎打ち。


 むむむ、


 日本人としてはやはり刀型が捨てがたい。


「よし、決めた!」


 通常は刀形にしよう!名前は勝手に「マサムネ」と命名。


 いいね、早く試し切りをしよう。


 そう思い周りを見回す。


「ん?」


 なんだ?



 ゴゴゴゴゴゴゴ〜〜〜〜!!!!


 突如、森が大きな音を立て始めた。まるで大地が怒っているようだ。


「ふぁ!?」


 魔物の大群がこちらに走ってくる。だが俺を狙っている訳ではない。どいつもこいつも必死の形相ぎょぅそうで何かから逃げているのだ。


 みると、大きな岩や、なぎ倒された木々が土砂と一緒に流れてくる。


 巨大な地滑りだ!


「うおおおおおおォォォォォ!!!」


 死ぬぬぬぅぅぅぅ!巻き込まれたら死ぬぅ!


 走れ!


「キャウウウウーン」


 おおおぅ、怖い顔をした魔物が一瞬で土砂に飲み込まれちまったよぉ!!


 離脱、離脱!


「おぶぁあ、、、」


 あ〜れ〜〜〜・・・・・・って俺は一体何をやっているんだ!?空を飛べばいいじゃないか!魔物共と一緒に死んでやる義理なんてないんだから。

 

「〈飛行1〉」


 土砂に飲み込まれながらも、間一髪のところで上空に飛び上がる。


 真上から見下ろすと、その被害の甚大じんだいさがよく分かる。1キロぐらいに渡って、緑色だった場所が茶色に変わっているのだ。


 恐ろしい。


 強くなったと思っていたが自然の驚異の前では無力なもんだ。


 まぁもちろん俺にはクマムシパワーがあるからどんな状況でも死にはしないけど、、、


 

「ん?」


 数百メートル先の、山の地肌があらわになった場所に何かがある。


 なんだろうか?崩れかかっているが人工物のようにも見える。


 行ってみるか。





「石扉っぽいな。」


 森に飲み込まれてしまった古代遺跡だろうか?なにやらこの奥から魔力の流れも感じるが。


 面白そうだ。


 サクッと冒険してみよう!


 へばり付いているつたをむしり取り、扉を開けようと力を籠める。がしかし、石扉はうんともすんとも言わない。押しても引いても上げても下げても微動だにしない。


 長年放置され、建付たてつけが悪くなってしまったのだろうか?


『マスター、魔力を流してみてください。』


『ん?おぉ。』


 そんなことで開くわけな・・・



 ・・・開いた。


 魔力を流した瞬間、毛細血管に血液が流れ込むように光がフラッシュした。そして勝手に石扉が動いた。


 ゆっくりと足を踏み入れてみる。中は意外と暗くはない。光ゴケと謎の光る石によって、明るさが保たれているようだ。


 そのため、ある程度の距離が見渡せる。

 

「最初は一本道か。」


 ピロリン!


『オリジナルスキル〈サポートシステム〉の〈脳内マップ〉をお使い下さい。表示いたします。』


 おぉ!お?頭の中に意識を集中するとRPGのような青い矢印が見えた!どうやらこれが俺自身を表しているようだ。


 試しに歩いてみよう。


 すると自分の歩いた場所が綺麗にマッピングされていく。


 先を見通すことは出来ないが、通った場所は分かる。これがあれば、道に迷うことは無さそうだ。


『でも、こんな力があったなら先に教えといてくれれば良かったのに。』


『道に迷いそうなシチュエーションがありませんでしたので。』


 まぁ確かにそうか。全部音声ガイダンスで事足りたもんな。使うだけ魔力の無駄か。


『これって俺以外の生物は表示してくれないのか?』


『現状の力では不可です。』


 ふーん、てことはパワーアップすればその内できるようになるってことか。そうなったら本当にRPGの世界だな。


 ま、今は通った道がマッピングされるだけで充分だな。


「行くか。」


 道に沿って慎重に歩き進める。どうやらここは魔物たちの巣窟そうくつのようだ。その証拠に、俺の気配を探知したネズミ型の魔物が大群で押し寄せてきた。


「「チュウ、チュウ、チュチュチュ!!」」


 1匹の大きさは50センチ程度。どいつもこいつもばんだ大きな前歯が特徴的だ。


 口臭なのか体臭なのか匂いもキツイ。生暖なまあたたかい、むわりとしたニオイだ。


 狭い場所なので鼻がひん曲がってしまう。早く倒してしまおう。


〈身体強化6〉〈輝剣〉〈真・剣術Max〉発動!


 鉄板コンボで一方的に斬りつける。もちろんネズミ共はまともな反応すら出来ない。気付いた時には時すでにお寿司・・・。真っ二つの肉塊になっている。


 そこにあるのは対等な勝負ではなく結果の分かりきったただの狩り。敵からしたら不運以外の何ものでもないだろう。


 ただまぁこの命懸けの生存競争こそがこの世界のことわりなわけで、魔物に対して情けをかけるつもりはない。


 数匹を一瞬で葬り去る。


 新スキルの試運転としては上々じょうじょうの滑り出しだ。


 刀型のフォルムも手に馴染んで使いやすい。不謹慎かもしれないが狩りをするのが楽しい。


 どんどんいこう!続いてはやっぱりこれ!


 〈輝剣〉からの〈飛翔斬〉!


 ザシューーーン!!


「「チュ〜!!!!」」


 ただの飛翔斬とは異なりキラキラ輝く斬撃が飛んでいく。ゲーム風に言うならばもの凄くエフェクトがカッコいい!!


 もちろん見た目だけではない。エクストラスキルなだけあって、これまでもいい仕事をしてくれていたが、〈輝剣〉のおかげで威力が段違いになっている。


 しかもネズミの切断面から血が出ていない。高温で焼き切ったと言うことだろうか?


 個人的にはグロいのよりこちらの方がいい。

 

 控えめに言って最高だ。




 その後も脳内マッピングをしながら、爆速で進んでいく。


 もちろん正解の道なんて分からないので、適当に進んでいくわけだが、1度通った場所は分かるので迷子にはならない。


 ざっと確認した感じこのフロアには先程の入り口が4つぐらいあるらしい。どれも確認してみたが外に出ることができた。


 そして、フロアの中央部分には他の扉とは明らかに異なる大きな扉が1つ。


 うん、これはおそらくアレだろう。


 ボス部屋。


 この表現が1番しっくりくる。


 いよいよ面白くなってきた。この仮定が事実だとするならばここはいわゆるダンジョンである可能性が高い。



「お邪魔しまーす。」


 そう言いながら扉に魔力を流し込んでみる。


 ・・・きた!


 広い空間に一匹の魔物。その佇まいは二足歩行のごついブタ。もしかしてこれがオークなのだろうか。


 思っていたよりも筋骨隆々で可愛くない。競輪選手のような体型といえば分かりやすいだろうか。ももの筋肉が女性のウエストぐらいある。


「グギャギャギャギャ!!!」


「お、おぅ。」


 よく来たな、人間め!みたいなかんじ?ていうか、このブタさん誰かが来るのをずっと待っていたのだろうか?


 地すべりが無かったら確実にこのダンジョンには気付かなかったし、、、、俺って久しぶりの客人なんじゃ?


 その証拠になんだかブタさん嬉しそうだよ?


 おぅ、おぅ、こんなところに閉じ込められて悪役やるのも簡単じゃないよね。


 可哀想に。



 ん?


 なんだ?手を大きく振りかぶって、物を投げるそのフォームは・・・・もしかして俺とキャッチボールでもしたいのか!?


 おいおい、マジかよ。異世界のブタはキャッチボールで親交を深める習性があるのかよ。


 しかもボールの代わりに、そこら辺の石を使うなんて、なんて健気けなげなんだ。


 俺じゃなかったら間違いなく大怪我してるよ。


 パシィ!!


「フゴ!?」


「ハハハ、何驚いてんだよ!お前ブタのくせに良い球投げるんだな。」


 ピロリン!


『マスター?いつまでフザケているのですか?そのオークは殺す気で投石していますよ?』


「・・・え?」


 え?・・・・え?


 衝撃の事実に思わず無言になる。と同時に俺の中で怒りがこみ上げる。


「よくも騙しやがったな。お前覚悟しろよ?」


「ふご!?」

 

 友情の証(一方通行)である大きな石を思いっきし投げ返す。


 ピロリン!


『スキル〈投擲1〉を習得いたしました。』


 エイミーからアナウンスが流れる。と同時に、オークの顔面に石が命中する。



 ドゴン!




 ・・・俺のこの世界で初めてのお友達(仮)は、天に召された。




【種族】ヒューマン

【名前】黒宮 レイ 

【性別】男

【魔石】小 レベル42(26/42)



スキル〈真・剣術Max〉〈神聖魔法Max〉〈格闘術1〉〈火魔法1〉〈水魔法1〉〈風魔法1〉〈土魔法1〉〈闇魔法1〉〈空間魔法1〉〈重力魔法1〉〈気配察知1〉〈気配遮断1〉〈夜目1〉〈遠視1〉〈身体強化6〉〈真・詠唱省略Max〉〈魔力操作1〉〈解体1〉〈解錠1〉〈チギュウ共通語〉〈付与1〉〈擬態1〉〈威圧1〉〈飛行1〉〈ブレス1〉〈投擲1〉new!



常時発動スキル〈麻痺耐性Max〉〈毒耐性Max〉〈睡眠耐性Max〉〈熱耐性Max〉〈火耐性Max〉〈氷耐性Max〉〈水耐性Max〉〈雷耐性Max〉〈絶食耐性Max〉〈絶水耐性〉〈絶塩耐性〉〈真空耐性Max〉〈物理耐性Max〉〈圧縮耐性Max〉〈臭気耐性Max〉〈仮死耐性Max〉〈石化耐性〉〈血液耐性1〉〈不快耐性1〉〈殺気耐性1〉〈思考加速1〉〈見切り1〉


エクストラスキル〈飛翔斬〉〈無詠唱〉〈蘇生〉


オリジナルスキル〈サポートシステム〉〈異世界転移(地球)(チギュウ)〉〈竜魂(小)〉



称号 《生き残りし者》《唯一無二の存在》《剣術を極めし者》《詠唱を極めし者》《ドラゴンとして転生するはずだった者》《聖なる魔法を極めし者》


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