第21話 学力テスト
「文句無しで少年のスポンサーになろう。」
「そらどうも。」
今だにじーさんは興奮醒めやらぬ状態だが、なんとか普通に話せるレベルまで落ち着いたらしい。はしゃぐのは良いけど、年なんだから健康には気を付けてほしいもんだ。
「明日学校が終わったらうちに来なさい。」
「えーあの場所知らないんですけど。」
「心配無用だ、迎えに行かせるからグラウンドで待っているといい。」
正直面倒くさいのだが・・・じーさんとお家で何を話したらいいのだろうか?ジェネレーションギャップがあり過ぎて共通の話題なんて無いのだが。
・・・・はっ!もしかして俺の体が目的なのか?スポンサーになってやるから、あとは分かるよな?グヘヘへへへ、とか言われちゃうのか??
とんだスケベじじいだな。
「少年よ、今なにか私に失礼なことを考えていないか?」
「え?い、いやそんなことありませんよ。明日が楽しみだなと。」
「おお、そうかそうか、それならよろしい。ではこれから宜しく頼む。」
それだけ言い残すと、会長は上機嫌で黒塗りの車に乗り込んだ。もちろん普通の車ではない。銃弾が撃ち込まれてもビクともしない動く要塞だ。
大財閥のトップにもなるとこのぐらいのセキュリティが必要なのかもしれない。
姿が見えなくなるまでお見送りをしてから俺達も各自解散となった。
ひとまず初めてのスポンサー獲得は成功に終わったと言える。
めでたしめでたし。
♢
翌日は、久しぶりに学校に登校した。ようやく校長から要請のあった自粛期間が終わったのだ。
長いこと異世界に滞在できたので、特に不満はないが不安はある。
どんな顔をして教室に入れば良いのだろうか?
そんな事を考えながら、通学路を歩く。
校門の前は、相変わらず野次馬で溢れているようだ。
「集まるでござる
なぜかうちのクラスのオタクくんが群衆に向かって大声を張り上げている。
「これを見よぉ!!!教室の椅子に座る雪乃たんとナナみんだ〜〜〜!!」
「「うおおおおおぉぉぉぉ!!!!」」
オタクくんの右手には何枚もの写真が
「「よこせオタク!!デブ!!調子のんな!!!」」
集団から怒号が飛ぶ。だがオタク君にはそれらの暴言を気にする
「むふふふふ、いいのかな?そんな事を言って??」
右手に掲げた写真をヒラヒラさせる。その度に、野次馬共の顔も左右に動く。駄目だ、全員からよだれが垂れている。
まるでA5ランクの神戸牛を前に「待て!」と言われている犬のようだ。
「2人の超貴重なプライベートショット、本来なら1枚1000円のところだが、、、なんと、、、な、な、な、なんと」
全員がゴクリとつばを飲み込む。
「今日は1枚500円!!」
「「うおおおおおぉぉぉぉ!!!オタクの神様、オタ神がご降臨なされたぞおおおぉぉぉ!」」
「ハーーーハッハッハ!皆のモノ、
・・・学校の目の前で一体何をしているのだろうか?ていうか法律的に問題は無いのだろうか?
とりあえずついていけない。
関わってもいけない。
雪乃が隣に住んでいることは絶対にバレないようにしよう。
「よっ!元気にしてたか?」
教室に入って声をかけてきたのは、赤羽仁。雪乃と来栖ナナもセットで付いてきた。
「あぁ、まーボチボチやってたかな。御堂源三がスポンサーになってくれるって決まったし。」
「「な!?」」
「御堂源三って御堂財閥の会長でしょ!?」
「うん、らしいね。」
「いやいやいや、なんでそんな普通な事みたいな顔してるのよ!」
「え・・・んなこと言われても・・・」
「いい?日本の経済は御堂グループが動かしているのよ!?ホテル、病院、大学、IT、自動車、飛行機、スポーツ、ありとあらゆる分野でトップシェアを誇っているんだから!世界への影響力も半端ではないわ!!分かってる???」
「お・・・おぅ。」
来栖ナナの圧が強い。そして顔が近い。モデルの宇田アイリといい芸能界の女はパーソナルスペースがおかしいのだろうか?
「黒宮君すごいねぇ、えへへへへ。」
一方で、なんだこのかわいい生き物は??砂糖たっぷりのデザートより甘々だな。体の80%は生クリームとメレンゲでできているんじゃないか?
学問的な意味でいつか確認をしなければいけないな。
ふむふむ。
「・・・そんな事より、2人とも盗撮されてないか?さっき校門の前でオタク君が写真売ってたぞ?」
「う・・・うーん。」
俺の質問に2人の顔がサッと曇る。どうやら毎日のように写真をとられているらしい。しかも盗撮ではなくて一眼レフカメラで堂々と撮ってくるのだとか。
さすが
と、そこに噂をすればなんとやら
「みなさん、おは丸でござりまする!いや〜今日も良い天気ですな。ブヒブヒ。おお!これはこれは黒宮氏ではござらんか?いきなり不登校になるもんだから心配したでござるよ。でも今日は頑張って登校したのでちゅか?いや〜可哀想な性格ですな。ブヒブヒ。」
どうやらコイツは俺の休学理由を知らないらしい。真っ先にこいつから俺の個人情報が漏れるかと思ったが・・・まぁオタク君は雪乃と来栖ナナ以外の事に興味などないのだろう。
というかネット上は情報が乱立していて、俺の名前が出ても真実とはみなされないのかもしれない。
そんな事を考えているとオタ神の意識はもう2人に移っていた。
「おおお、今日も神々しい、同じ空気が吸えるなんて最アンド高!最高!!」
そしてわざとらしく口を尖らせると、雪乃が吐いた空気をスーっと吸い込む。
「よーし、元気100倍!今日も1日頑張るでござる!!」
そう言うと満足した顔で自分の席へ行ってしまった。
ハッキリ言ってヤバイ。もういろんな意味でヤバイ。
どうやったらここまで嫌われるのか教えて欲しい。アイツのオタ友以外全員がドン引きだ。
「・・・。」
あまりの衝撃に言葉を失う。
雪乃も顔を真っ赤にさせているので、相当恥ずかしかったのだろう。
仕方が無いので、赤羽とナナの3人で背中をさすってやった。
いつか代わりにぶっ飛ばしてやろうと思う。
そう決心した。
♢
それから10分程して担任の綾部が教室に入って来た。
「よーし、席につけ〜ホームルーム始めるぞ〜!」
この一言で、それまでくっちゃべっていた生徒達が一斉に自分の席に戻る。
「えー、今日は授業では無く、1日かけて実力テストを行います。」
「「えーー!そんなの聞いていません!!」」
「おぅ、今初めて言ったからな。意地悪では無くて、これはあくまでも今の自分の実力を知っておくためものだ。」
とは言うもののクラスはブーイングの嵐だ。
抜き打ちテストとは趣味が悪い。俺としてもクラスの奴と交流を深めたかったのだが、残念なことに、みんな休み時間も勉強モードに入ってしまった。
とてもじゃないが、話しかけられる雰囲気ではない。
一人を除いて。
「ぐふふふふふ、そういえば黒宮氏はスポーツ推薦でしたな。偏差値65を誇る豊川学園の一般入試を勝ち抜いてきた我々とは根本的に頭のできが違うのではないですかな?」
「ちょっと黙ってろ。」
「ぐふふふ、ちょっとばかし外見が良いからって、我々ガリ勉組を舐めないでもらいたいですな。ぐふふふふふ。まぁ脳筋なら脳筋なりに頑張るでござるよ。」
・・・重りをつけられて東京湾に沈んで欲しい。
シカトしよう。
自分の事に集中だ。
そして、
あっという間にチャイムが鳴り、学力テストという名の生存競争に
だが1時間目は数学のテストだ。
いきなりのラスボス感。教師たちは初っ端から生徒達の心をへし折るつもりらしい。
なんて外道なんだ。
中学卒業時点での俺の学力は中の中、つまり偏差値50。これまでの人生を陸上競技に捧げてきた割には健闘していると言える。
だが悔しいがオタク君の言う通り、この学校の偏差値には遠く及ばない。
「はじめ!」
綾部の掛け声とともに生徒が一斉に問題用紙をめくる。
もちろん大問1の(1)ぐらいは余裕で分かる。X《えっくす》に2を代入するだけだ。
(2)もまぁ分かる。まだ大問1だからな。
問題は次からだ。何を言っているのかさっぱり分からない。
この問題を作ったやつはもう少し日本語を勉強した方が良いと思う。
『エイミーー!!』
『お呼びでしょうか?』
『助けてくれ。』
『宜しいんですか?』
『何を言っているんだ?いいに決まってるさ。エイミーも俺の力の一部なんだからカンニングでもなんでもないだろう?記憶力が高い奴と何も変わらないさ。』
批判は受け付けない(ドヤ顔)
『了解致しました。』
ピロリン!
『(2)で導き出した3と7をX、Yにそれぞれに代入して下さい。すると12になります。さらにそれを条件に書いてある式に不等号でつなぎます。』
『なるほどな、さっぱり分からんわけだ。全部その調子で頼む。』
『はい。大問2は食塩の問題ですね。まず食塩水に含まれている食塩をXグラムと置いてください。食塩水の濃度%=食塩の重さ/溶液の重さ×100で求めることができます。大問3は三角錐の面積を求める問題で・・・・・・・・』
流石エイミー。1番のチートはやはり彼女だった。本をスキャンさせる事によって、知識が単純に増えるだけでなく、自分で勝手に学習していく。
おそらく地球に存在するAIの500年ぐらい先は行っているだろう。
こうして俺は、自分の
もちろん2時間目の国語、3時間目の社会、4時間目の理科、5時間目の英語も、
間違いなく満点だろう。
結果が楽しみだ。
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