第17話  異端審問



 大きな扉の前で、武器を取り上げられボディチェックを受ける。


 そして部屋の中に押し込まれる。


「んん?」


 なんだここは?そんなに大きくはないが、、、ひな壇みたいになっていて、1番高い場所に男が2人。それと先程の聖女が座っている。


 目の前には証言台のような木のオブジェもあり、どことなく裁判所のような雰囲気が漂っている。



「前に進み出ろ!」


 乱暴に背中を押される。


 その瞬間、バタンと扉が閉められフルフェイスの騎士達が出入り口をふさぐ。


「これより聖女フローラから報告のあった不審な男について、異端審問を開始する。」


 カンカンカンカン!


 中央にどっしりと座った40代ぐらいの男が、小さな木のハンマーを叩きながら高らかに宣言をする。このおっさんが教皇なのだろうか?


 というか異端審問ってどういうことだ?


「名前、出身、職業を述べよ。」


「おっさん誰?」


「な!貴様!教皇様に対してなんという態度だ!?」


 おーやはり中央の偉そうな奴がトップなのか。瞳孔どうこうが開いていて目がイッちゃってるけど、、、関わっても大丈夫だろうか?


「あーすまんすまん。俺は冒険者のレイだ。」


「お主、敬語を使わぬか!!」


 先程から教皇の横に座ってる奴がなんだかわめいている。肝っ玉の小さい男だ。どうせキン○マも小さいのだろう。


「田舎もんなんで無理かな。それより早く話を進めてくれよ。俺も暇じゃないんでね。」



「不敬罪だ!不敬罪!!教皇様に対しても!聖女に対しても!枢機卿である私に対しても!!」


「・・・て言われてもな。お前らを敬う理由がないんだが。」


「おのれ!えぇい!こやつを今すぐ引っ捕えよ!!」


 自称枢機卿のおっさんが騎士たちに対して命令を下す。しかしそれが実行されることは無かった。


「フハハハハ!まぁ待て。」


「し、しかし、、、」


「そうカッカするな。たまにはよいではないか。して、冒険者レイと言ったな。」


「あぁ。」


 教皇の黒目がグググっと見開かれる。俺を見ているようなどこか遠くを見ているような危ない視線だ。


「なるほどな。確かにお主からは不思議な気を感じる。人間ではあるようだが・・・しかし、、、魔物と対峙した時のようなこの感覚。どういうことだ?」


 ギクッ。やはり魔石に反応しているのか?なんだか俺のアイデンティティーが揺らいでいるんだが? 


「・・・何を言っているのかさっぱり分からないな。」


「ほぅ、では質問を変えよう。先程そなたは冒険者と言ったが魔物を狩ることについてどう思う?」


「特に何も。」


「ふむ、では魔族は?」


「さあ?会ったことが無いから分からないな。逆に聞きたいんだがおっさん達はどう思ってるんだ?」


「フハハハハ!ゼアーズ教のトップである私に対してどう思うかだと?そんなの決まっておろう。魔物も魔族も人間の奴隷であるべきだ。昔のようにな。それが本来のあるべき姿というものだ。」


 鼻をフンと鳴らしながら言い放つ教皇様。迷いは一切見られない。やはり人間至上主義が基本的な考え方のようだ。


 ・・・確か海が荒れた事によって海路が絶たれたと言っていたが、ある意味それでエルフや獣人は救われたわけだな。こんな奴らと距離を置けて良かったじゃないか。だってもし海路が生きていたら奴隷にされちまうんだろ?


 うんうん。


「アーランド王国もゼアーズを国教としてるのか?」


 あそこの王族とは知り合ったばかりだからな。回答によっては今後の付き合い方も変わるってもんだ。


 教皇の目を正面から見据える。


 ピロリン!


『〈殺気耐性1〉を習得しました。』


 エイミーから新たなスキルを獲得したと通知が届く。


 ということは教皇から軽く殺気を向けられているという事だ。俺の質問が気に食わなかったのだろうか?


「アーランドは裏切り者だな。」


 そう言うと教皇のこめかみにピキッと筋が入る。


 どうやら人間側も意外と一枚岩ではないらしい。ソフィアがそっち側じゃなくて一安心ひとあんしんだ。


「まぁ、今はそんな事どうでもよいわ。問題はお主だ。ゼアーズ教徒ではないな?」


「そらもちろん。」


 魔族たちの肩を持つわけではないが、俺はエルフたちに会うのを楽しみにしているのだ。だって考えてもみろ?魔王なんて異世界の代名詞みたいなもんじゃないか。考えただけでワクワクするよ。


 グフフフ。


 ザワザワザワ((な、何だあいつ?頭大丈夫か??自殺願望でもあるんじゃないか?))


 騎士たちが驚きの声を上げる。そんなにおかしなことを言った覚えはないのだが、なんでそんなにさわいでいるのだろうか?


「ふむ。あい分かった。もう一点、貴様には魔物の疑いがかけられている。もう一度聞くが・・・どういうことだ?今度は慎重に考えて答えることだ。そうすれば死に方ぐらいは選ばせてやろう。」


 え?殺されるのは決定事項なのか??なんで!?



「俺は正真正銘の人間だ。それなのになぜ死ぬことになっているんだ?」


 そんなのおかしいだろ。だって俺はまだ幼気いたいけな少年なんだぞ?キャビアやフォアグラを食べたことだって無いし、富士山にだってのぼったことは無い、、、


 せめておっぱい、、、、


 ゲフンゲフン!


 ウフンウフン!

 

 せめてフルマラソンに挑戦して「ふ、人生観が変わりました。」ってテンプレぐらい経験させてくれよ。じゃなきゃあまりにも理不尽だ。


 なぁ?そうだろう?



「たとえ魔物や魔族でなくとも異端者なら当然の判断でしょう。たった今そう宣言したではないですか?」


 聖女が呆れたようにため息をつく。その目には明らかに侮蔑ぶべつの感情が込められている。


 ぐむむむ。もしかして信仰の自由が無いのだろうか?


「つまりゼアーズ教徒ではない者は問答無用で死刑だと?」


「えぇそれが神の意志です。」


 ・・・だからさっきザワついたのか。異教徒って宣言したのはマズかったかな。あ~めんどくせぇ。ていうかイライラしてきた。


 なんだか先程から体の中にある魔石がうずくしんだりったりだな。




 カンカンカンカン!


 再び教皇によって木のハンマーが叩かれる。


「被告人は死刑。これより1時間後、広場にて公開で火炙ひあぶりの刑に処す。以上、これにて閉廷!」


 

 きちゃったよ、死刑判決。はぁ~まったく、今日の夜はパレット(商人)さんが、もてなしてくれる予定だったんだが、、、もう会えそうにないな。

 

 


 あぁ残念だ。


 〈身体強化3〉を発動し収納指輪から剣を取り出す。そして出口に向かって歩く。



「何をしている!?」


「帰る。」


「罪人を捕まえよ!」


 枢機卿の一声ひとこえで兵士達が俺の前に立ち塞がる。


 だがそんなものは想定内。


 〈気配遮断1〉〈真・剣術Max〉を発動する。


 ザシュ!


 切りかかってきた兵士を鎧ごと切り伏せてスタスタ歩く。


「「な、なに!?」」


 俺の動きを見て兵士達に動揺が走る。フルフェイスの兜のせいで強そうに見えるが大したことはない。


「おりゃあああぁぁぁ!」


 ザシュ!


「ぎゃああああああ!」


 一国の兵士のくせにこんなんでいいのだろうか。見掛け倒しにも程がある。


 まぁ俺にとってはありがたい話だけど。



 10秒ほどで近場の兵士を制圧し、くるりと向きを変え教皇を見据える。


 ヤツはこの騒動にもかかわらず微動だにしていない。むしろ目の瞳孔どうこうはギンギンに開き、口元はニヤついている。


 〈飛翔斬〉


 流石に一国のトップに手を出すのは止めておこうかとも思ったが、ここまでくれば関係ない。


 どうせ指名手配になるのだから。


 そう思い斬撃を飛ばす。


 しかし、不思議なことに斬撃が途中で消えてしまった。


 何も無い空間に透明なカーテンのような膜が現れたのだ。


「なんだ?」


「ふんっ!バカめ!!貴様の低俗な攻撃がこちらに届くわけないだろうが!!」


 腰を抜かしていた小物臭プンプンの枢機卿が、息を吹き返したように大声で吠える。



 ピロリン!


『結界が張られています。』


 ふむ、なるほどな、これが結界か。考えてみれば、コイツらは国の重鎮なわけで、このぐらいの防衛装置はあって当然か。


 なかなか厄介だ。



「ざまあみろ!!少しばかり腕が立ったところで意味はない。貴様はもう詰んでいる。」


 うん、うん。


「お前はちょっと黙ってろ。」


 あまりにも枢機卿がうるさいのでギロリと睨む。すると計らずもエイミーからアナウンスが届いた。


 ピロリン!


『スキル〈威圧1〉を習得しました。』




【種族】ヒューマン

【名前】黒宮 レイ 

【性別】男

【魔石】小 レベル21(17/21)



スキル〈真・剣術Max〉〈格闘術1〉〈火魔法1〉〈水魔法1〉〈風魔法1〉〈土魔法1〉〈回復魔法1〉〈光魔法1〉〈闇魔法1〉〈空間魔法1〉〈重力魔法1〉〈気配察知1〉〈気配遮断1〉〈夜目1〉〈遠視1〉〈身体強化3〉〈真・詠唱省略Max〉〈魔力操作1〉〈解体1〉〈解錠1〉〈チギュウ共通語〉〈付与1〉〈擬態1 〉〈威圧1〉new!



常時発動スキル〈麻痺耐性Max〉〈毒耐性Max〉〈睡眠耐性Max〉〈熱耐性Max〉〈火耐性Max〉〈氷耐性Max〉〈水耐性Max〉〈雷耐性Max〉〈絶食耐性Max〉〈絶水耐性〉〈絶塩耐性〉〈真空耐性Max〉〈物理耐性Max〉〈圧縮耐性Max〉〈臭気耐性Max〉〈仮死耐性Max〉〈石化耐性〉〈血液耐性1〉〈不快耐性1〉〈殺気耐性1〉new!


オリジナルスキル〈サポートシステム〉〈異世界転移(地球)(チギュウ)〉


エクストラスキル〈飛翔斬〉〈無詠唱〉


称号 《生き残りし者》《唯一無二の存在》《剣術を極めし者》《詠唱を極めし者》




 ふむ、威圧を習得したのはいいが、この状況、どうしたもんか。スキルのレベルが高ければ結界を破れるのだろうか?


〈真・剣術Max〉でゴリ押ししてみよう。

 

 先程斬撃が呑み込まれてしまった場所まで移動し、膜のような結界を斬りつけてみる。


 が、しかし、、、、


 どうやら今の俺ではこの結界を突破することは出来ないらしい。物理攻撃は相性あいしょうが悪いのだろうか?


 自然と攻撃の手が止まる。



 するとこのタイミングを待っていたかのように教皇が口を開いた。

 

「満足したかね?」


 そう言いながら右手をスッと前に出す。


「〈見えざる牢獄〉。」


 教皇がそう呟くと、突然視界が真っ暗になった。音も匂いも分からない。平衡感覚もなくなり頭の中がグワングワンする。


 しかも強制的にスキルが解除され、新たに発動させることも出来ない。


 これはマズイ。攻撃手段がなくなってしまった。

 

『おい、エイミー!どうなってる!?』


『・・・解析中・・・解析中!』


 おいおい、マジかよ!?


 あぁ、心臓と魔石が疼く。



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