第16話 盗賊と聖女
それから何事も無かったかのようにチギュウへと戻った。マネージャーにはしばらくの間、電波の入らない場所に行くので、連絡できなくても心配しないでくれと伝えてある。
これで彼女も鬼電話してこないだろう。
俺は学習する男なのだ。
さて、そんな事よりもこちらの状況についてだが、魔物に襲われている、なんてことは無く、至って平穏だったらしい。
見張りのやつ以外はグースカ寝ている。というわけで俺も朝まで寝る。
問題が起きたのは、夜が明けて歩き出してから2時間後のことだった。
崖の上に人影が現れたのだ。その数およそ30人。この道は馬車一台がやっと通れる道幅なのでUターンが出来ない。
盗賊共に完全に誘い込まれたらしい。
これではいいカモだ。
「止まれ!!この道は我らの支配下にある。」
馬にまたがった先頭の男が大きな声を張り上げる。
「くそっ!」
こちらは完全に諦めモードだ。この人数差では勝機はない。先輩冒険者たちは一様に苦虫をすり潰したような表情をしている。
ドドドドドドドドド……
盗賊共が一直線に崖を降りてくる。そして俺たちの進路に立ちふさがる。
「荷物を全て置いていってもらおうか。そうすれば命だけは助けてやろう。」
「ぐ・・・仕方あるまい。みんな武器をしまいなさい。この損失は痛いが生きていれば再起も出来る。」
商人のパレットさんがそう言いながら、俺の事をチラチラ見る。
うん、おそらくここを生き延びたら、俺にアイテムバックを格安で量産してもらうつもりなのだろう。
まぁ少しくらいならサービスしてあげてもいいけど。
武器をしまう俺達を見て盗賊共がニタニタしながら積荷のチェックを始める。
まったく、けしからん奴らだ。おまけに体を拭いていないのか物凄い異臭を放っている。
「おい、お前らの武器と防具もだ。ぐへへへへ。」
「そ、それは勘弁してくれ!」
リーダーが抵抗の声を上げる。
「ああん?商人のおっさんは全てを失うってのにお前らだけ助かろうってゆーのか?こりゃとんだ強欲な冒険者だな。親の顔が見てみたいぜ。」
「ぐぅ・・・・。」
「ん?おいおいよく見りゃ女がいるじゃねーか!野郎ども、女だ!!」
「ひゃっほおおおおぉぉぉぉ!!」
小汚い男どもが歓喜の声を上げる。本当に救いようのない奴らだ。もしかしたら同情の余地があるのかもしれないと思っていたが、もはや彼らに良心は残っていないようだ。完全に悪に染まりきっている。
「おーおーおーおー、かわいそーに。でもまぁ、恨むなら冒険者になっちまった自分の運命を恨むんだな。荷物と一緒にこちらに来てもらおうか。」
「待て!それは許さない!仲間をみすみすお前らの慰みモノにさせるわけにはいかない!」
そうだ、頑張れリーダー。こんな奴らの横暴を許してはならないぞ。
「んん?いいんだぜ別に。こっちはお前らを皆殺しにしてもな。」
「ぐ。」
下を向いて悔しそうに唇を噛みしめるリーダー。頭の中であれこれ
あれ?いかないのか?
「まったく、これだから冒険者ってのは困るんだ。せっかく穏便に済ましてやろうとわざわざ提案してやってるのに、それが分からないとは相当のバカとみた。」
「なにを!?」
「はぁ〜まぁとにかくその女をこっちによこせ。優しくしてやるからよ。」
するとプルプル震えていた女性が盗賊共に向かって一歩ずつ前に進み始めた。
「おい、どこに行く!」
「皆さん、私の事は気にしないで下さい。」
ふむ、なんと高潔な、そして自己犠牲に溢れた女性だろうか。
流石に放っておくことはできない。リーダーがいかないのならば俺がいく。
〈身体強化3〉〈真・剣術Max〉を発動させてからエクストラスキル〈飛翔斬〉をぶっ放す。
これが今の俺にできる最大の攻撃だ。幼体とはいえ、ドラゴンを倒した飛ぶ斬撃を食らうがいい!!
居合のように力一杯剣を振りぬく。
ザシューーーン!!
「ぐはっ!」
「「うぎゃあああぁぁぁぁ!!」」
ドサドサドサ、、、、、、
一瞬にして20人程の盗賊が膝をつく。そして地面に横たわる。ピクリとも動かない奴が大半だ。
「「え?」」
商人も冒険者も盗賊も、その場にいた全員がポカンとなる。何が起こったのか理解できないのだ。
「な!?」
圧倒的優位のはずが・・・一瞬にして半数以上が戦闘不能になってしまった彼らの動揺は計り知れない。
「まじか。」
俺としても、まともな対人戦闘は初めてなわけで、これだけの人数を相手にどこまで出来るのか分からなかったが、まさかこうも簡単に倒せてしまうとは・・・まさに想定外の事態だ。
「うわああああぁぁぁ!!」
生き残った盗賊共が一目散に逃げ始める。自分達から喧嘩を売っておいてプライドは無いのだろうか?動けない仲間を助けようというそぶりすらない。まったく、こいつらを見ていると
「逃げすかよ!」
ってことでもういっちょ〈飛翔斬〉
ザシューーーン!!
先ほどと変わらぬ斬撃が盗賊を襲う。もちろんスピードもあるので走って逃げきれるわけがない。一瞬でバタバタと倒れていく。
ふむ、これで片付いただろうか。
「き、君は一体何者なんだ!?」
仲間の冒険者が唖然としたまま当然の疑問を口にする。
「ん?ただの1つ星の冒険者だけど?」
「そんな・・・馬鹿な・・・」
「本当ですよ。ともあれこれで
「・・・あ、あぁ・・・そうだ!良かった、本当に良かった!!ありがとう!!」
「ありがとうございます!!」
そう言うと気が抜けたのか女性がヘナヘナと地面に座り込む。
久々に良いことをした気がする。たまには人助けも良いもんだ。
でも魔物と違って人間を倒したところで魔石が手に入らない。そういう意味ではまったく美味しくない。
しかもその後、商人のおっさんが、俺を護衛としてではなく、客人として丁重にもてなすとかほざき始めたおかげで道中の魔物を狩ることも出来なくなってしまった。
俺にとってはいい迷惑だ。お隣に座らされ、永遠にどうでもいい話を聞かされることになった。
♢
「ほぉ。」
これがゼアーズか。まるで天然の要塞だな。巨大な岩に囲まれた城塞建築。
近くにグリゴロ大森林があるためこのような作りになったのだろうか。
冒険者ギルドでみんなと別れたあと適当に街をぶらついてみる。
宗教の総本山というだけあって神父やそれらしき格好の人がゴロゴロしている。
広場ではぶ厚い本を持った宗教指導者が、人々に説法を行っている。
無宗教の俺にとってはなんだかついていけない。
「その時、神は言ったのです!人間こそが至高の生き物であると!!そして魔族はこの世界にとって害悪であると!!」
「「そうだ!そうだ!!」」
おー過激だな。両者の間にはそんなに根深いものがあるのだろうか。
よく分からないが、なんだかこの街は肌に合いそうにない。早いとこ出発したいもんだ。
明日にでもグリゴロ大森林に行こうか。
うん、そうだな。善は急げっていうし、今から武器でも買いに行こう。
そう思い剣のマークがついたお店に入ろうと周辺をキョロキョロする。
すると突如、人々がざわめき始めた。
何事かと聞き耳を立てていると、どうやらお偉いさんが道を通るらしい。
次第に人が集まり始め、遠くの方から馬の足音と車輪が回る音が聞こえ始めた。
「聖女様だ!」
「聖女様〜ー!!」
箱型ではなく、人力車のような馬車なので乗っている人物がよく見える。
つり目の薄い青髪の女性だ。
声援に応えるように笑顔を振りまいている。まぁ確かにある
「ふーん。」
こんなもんか。
興味が急速に
しかし奇妙な視線を感じ、振り返ると、、、聖女と目が合った。
なぜかこちらを凝視している。その間も馬は進み続けるが聖女は俺から目を離さない。まさか
どういうことだろうかと不思議に思っていると、しばらく進んだところで馬車が止まった。
沿道の市民が何事かとざわめく。
ザワザワ((どうされたのだ!?説法でも行ってくださるのか??))
そんな周囲の
「あなたお名前はなんて言いますの?」
これはまさか、、、逆ナンか!?
「・・・なんでしょうか?」
「いえ、あなたから少し邪悪な気配を感じまして。」
「は?」
何言ってんだこいつ??
「見たところ人間のようですが・・・同時に魔物のような気を感じます。」
「「なっ!!魔物だと!!」」
ザワザワザワ!
ピロリン!
『マスターの魔石に反応しているのかもしれません。危険です、危険です。』
なるほど、そういうことか。聖女ともなれば一般人には分からない何かを感じられるってわけか。ナンパじゃなくて逆に安心したぜ。
「言っている事がよく分からないな。」
「・・・そうですか。ですが私のカンがあなたに対して警告をしています。やましいことが無いのであれば一緒に来ていただけますか?」
「あんたに協力する義理はないな。」
「何か勘違いをしているようですね。私の意思とは即ちそれは神の意思です。それに
なんという言い草だろうか。この女の意思が神の意思なわけ無いのに。
うーむ、日本に帰ることは簡単だが、、、いろんな国を入国禁止にされるのは面白くない。
「俺をどこに連れて行くつもりだ?」
「クロード教皇に謁見していただきます。あなたが潔白であるならばその場で申し開きをなさってください。」
・・・はぁ〜教皇って、、、面倒くさい上に人権もクソも無さそうだな。
ピロリン!
『危険です、危険です!』
『落ち着けエイミー。こうなったらちょうどいい機会だ。この世界の人間の考え方がよく分かるかもしれない。人間と魔族、どちらに正義があるのか見極めようじゃないか。』
まぁもちろんどちらもダメって可能性もあるけどな。
「いいだろう。」
「懸命な判断だと思います。それでは私に付いてきてください。」
衆人環視の中、両脇をフルフェイスの騎士達に固められながら馬車の
まるで犯罪者として連行されているようだ。
さて今回はどうなることやら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます