第15話 隣国ゼアーズへ


「エイミー、魔大陸へはどうやって行けばいいんだ?」


『確認中・・・確認中・・・』


 ピロリン!


『このまま北西に進み、隣国からグリゴロ大森林を抜けてください。』


「グリゴロ大森林?」


『はい。魔物が多く生息している未開の地です。』


「え?そんな危なそうなとこじゃなくて他に安全なルートはないのか?」



『人間の住む東の大陸と魔族の住む西の大陸は、海によって大きくへだてられています。それゆえ、陸地ルートは北に位置するグリゴロ大森林を抜けるしかありません。』


 なるほど。


「じゃあ海路は?」


『昔は海路も存在したようですが、ある時を境に、海が荒れ狂ったため現在は消滅したようです。』


 ふむ、空でも飛べない限り、大森林を抜けるしかないわけか。


 ってそれにしてもエイミーのやつ知識が増えたな。アーランドの図書室で本をスキャンさせまくっただけの事はある。今度日本でも同じことをしてもらおうかな。そしたら学校の勉強なんかしなくてよくなるかもしれない。最強のカンニングペーパーだな。



 へへへ。



 良い子は真似しないように。


 


「じゃあとりあえず隣国経由でグリゴロ大森林に行くか。」



 

 道中、出てくる魔物たちを適当に狩りながら先に進む。基本的にこの辺りには強い魔物は生息していないらしく障害となるものは何もなかった。あえて興味深かった魔物をあげるならそれはスライムといったところ。


 ゲームや物語でよく出てくる可愛らしい風貌ではなくて、なんというか、、、


 ゲル状のミジンコ?みたいな


 体が透けているので正直気持ち悪かった。特に小動物を消化中のやつなんかモザイクをかけた方がいいレベルでグロかった。


 あ、でも面白いのが、奴らは危険を察知すると体の色を変えて周辺の石や葉っぱに擬態出来るらしい。


 魔力でも感知しないとなかなか発見するのが難しいんだ。


 雑魚魔物ならではの生きるすべってやつだね。



 おかげで俺自身も〈擬態1〉を習得した。まぁこのスキルを人間の俺が使おうと思ったら服や装備が邪魔になるわけで、どれだけ有用性があるのかは疑問だが・・・無いよりはマシだろう。



 そんなこんなで5時間ぐらいは進んだだろうか?大きな荷物を積んだキャラバンに遭遇した。馬車は全部で5台連なっており、数名の冒険者が護衛をしている。


 ちょうど追い付いたあたりで彼らは小休憩を挟もうと準備をしていた。ジロジロ見られながらその脇を通る。


「君は冒険者かね?」


 そう尋ねてきたのは40代ぐらいの小太りの男。格好からしてこの人物が依頼主の商人だろう。


 シカトするわけにもいかないので適当に返事をする。


「そうですね。まぁ、まだ駆け出しの1つ星冒険者ですけど。」


「おぉ、やはりそうか!ちょうどいいところに来てくれた。ここで出会ったのもなにかの縁。どうせゼアーズへ行くのだろう?我らと一緒にいかんかね?」


「んん?」


「いやいやいや、今回は冒険者の数が少なくてね。報酬は用意するからどうだろうか?」


 横に目をやると確かに馬車が5台もあるのに冒険者が4名しかいない。


 適正人数が何人かは知らないが明らかに少ないことは俺でも分かる。これではスピードも出ないだろう。


「報酬は?」


「明日の夕方にはゼアーズに着くだろうから大銀貨1枚でどうだ?」



 ってことは1万円か。決して高くはないが新人にとってはそこまで悪い話ではない。


 どうせ同じ場所へ行くんだ、情報収集も兼ねて付き合ってみよう。


「分かりました。」


 

「おぉ、そうかそうか。そりゃありがたい。私は商人をしているパレットだ。おい、皆もこっちに来てくれ!ここから護衛に加わってくれる・・・えーと、そういえば名前をまだ聞いていなかったな。」


「レイです。まだ駆け出しです。」


「だそうだ、ゼアーズに着くまでうまいことやってくれ!」


「はいよ。」


 男3人に女が1人。休憩がてら自己紹介をすると3つ星

の冒険者パーティーとのことだった。


 つまり中堅一歩手前。 


 みんな20代前半でリーダーの男はそこそこのイケメン。気さくな人柄なので話しやすい。


 そうして得た情報によるとゼアーズとは宗教の総本山らしい。基本的な考え方は人間至上主義と身分制、この一言に尽きる。


 多かれ少なかれ人間の国はみな、建前上はゼアーズ教を信仰しているのだとか。


 地球とは文化も歴史も違うためこの考え方が良いのか悪いのかは今のところ判断できない。というかするべきではない。この先自分で見極める必要がありそうだ。



「休憩は終わりだ。先に進むぞ。」

 

 リーダーの一声でゆっくりと出発する俺達。話し合いの末、俺は馬車の右側を担当をすることになったので、隣には自ら御者ぎょしゃをしている商人のパレットがいる。


「それにしてもこんな風に商品を積まなくてもアイテムバックとか持っていないのか?」


「持っているさ、だがそっちには商品に加えて、万が一に備えた水と食料を詰め込んでいるんだ、使える分は使ってこの状態さ。そもそもアイテムバックは流通も少なくて高価だから限界もある。」


「そうか。1つどのくらいするんだ?」


「最低でも中金貨2枚はするだろうな。」


 げ!マジかよ!!200万もすんのかよ!!高級ブランドバックじゃん!俺ほぼ無料で量産できるのに!!


 作ったのを売ったらボロ儲けだな。まぁアーランドの王様からたんまりとお金は貰ったけど、、、、やっぱりいくらあっても困らないよね!



「パレットさん、俺から買い取らないか?中金貨1枚でいいぞ?」


「なに!?」


 おっちゃんの目がカッと見開かれる。


「いくつだね!?いくつ売ってくれるんだ!?」


 馬の操縦そっちのけで俺の肩を揺さぶる・・・暑苦しい。ツバをこちらに飛ばすんじゃない。


「別にいくつでもいいですけど。」


「な、な、なんだと!!??」


「あぁでも材料のカバンはそちらで用意してくださいね。」


「ということは君は制作できるというわけか!こりゃ驚いた!ゼアーズの店に着いたらぜひお願いする!!」


「了解です。あ、でも面倒くさいのはイヤなんで、このことは秘密にしといてくださいね。」


「もちろんだとも!ハハハ!」



 この一件によって俺の評価は鰻登うなぎのぼりになったらしい。おっさんと目が合うたびに変質者のようなネチャっとした笑みを向けてくる。商人ならばもう少し爽やかな営業スマイルを身につけた方が良いと思うんだが?


 まぁ、1つ増えるだけで儲けが大きく変わるんだろう。


 ピロリン!


『〈不快耐性1〉を習得しました。』


 あぁ、ほら変なもん覚えちまった。俺の体は素直なんだな。


 まぁ強くなったからいいけど。


 ふぅ~やれやれだぜ。





 結局この日は何事もなく夜を迎えた。1日で手に入れた魔石の数は(小)が42個。大多数が雑魚スライムどもだ。


 ピロリン!


『魔石のレベルが2上がりました。強化するスキルを2つ選んでください。』


 うん、〈詠唱省略8〉で決まりだな。



【種族】ヒューマン

【名前】黒宮 レイ 

【性別】男

【魔石】小 レベル21(17/21)



スキル〈真・剣術Max〉〈格闘術1〉〈火魔法1〉〈水魔法1〉〈風魔法1〉〈土魔法1〉〈雷魔法1〉〈回復魔法1〉〈光魔法1〉〈闇魔法1〉〈空間魔法1〉〈重力魔法1〉〈気配察知1〉〈気配遮断1〉〈夜目1〉〈遠視1〉〈身体強化3〉〈真・詠唱省略Max〉up!〈魔力操作1〉〈解体1〉〈解錠1〉〈チギュウ共通語〉〈付与1〉〈擬態1〉new!



常時発動スキル〈麻痺耐性Max〉〈毒耐性Max〉〈睡眠耐性Max〉〈熱耐性Max〉〈火耐性Max〉〈氷耐性Max〉〈水耐性Max〉〈雷耐性Max〉〈絶食耐性Max〉〈絶水耐性〉〈絶塩耐性〉〈真空耐性Max〉〈物理耐性Max〉〈圧縮耐性Max〉〈臭気耐性Max〉〈仮死耐性Max〉〈石化耐性〉〈血液耐性1〉〈不快耐性1〉new!


エクストラスキル〈飛翔斬〉〈無詠唱〉new!


オリジナルスキル〈サポートシステム〉〈異世界転移(地球)(チギュウ)〉



称号 《生き残りし者》《唯一無二の存在》《剣を極めし者》《詠唱を極めし者》new!



 ピロリン!


『〈詠唱省略〉が上限に達し〈真・詠唱省略Max〉になりました。これによりエクストラスキル〈無詠唱〉を習得しました。また称号≪詠唱を極めし者≫を獲得しました。詠唱しない場合の魔法攻撃力が1.2倍になります。』



 おぉ!こりゃいい。順調、順調!あとは個別の魔法を覚えていくだけだな。下準備は終わったと言える。



 思わず顔がニヤけてしまう。



「何かいい事でもあったのかい?」


 焚火を挟んで真正面に座っていたリーダーが不審そうにこちらを見ている。


「ん!、、あぁいや何でもないさ。」


「そうか、それならいいが、そろそろ1人ずつ見張りをしていくぞ。」


「あぁ。」


 トップバッターは俺が務める予定になっている。これから2時間は1人で警戒をしなければならない。


 それが終わったとりあえず日本に1回戻って引っ越し作業を速攻でしてから、またすぐにこちらに戻ってくる予定だ。


 緊急事態が起こったら居ないのがバレてしまうがこればかりは仕方あるまい。





日本 昼過ぎ



 日本に戻るとスマホに大量の着信が入ってきた。その数51件。全部マネージャーからだ。今更かけ直しても怒られるに決まっているし面倒くさいことこの上ない。


 1回携帯から現実逃避をして備え付けのベッドに寝転がる。今の俺の心情はアレと同じだ。寝坊して遅刻が決定したから、あえてゆっくりするやつ。


 ため息しか出ない。



 それにしてもあの女、涼しい顔をしてストーカーの素質があるのかもしれない。恐ろしい。



 ・・・って違うか。たぶん心配してくれたんだよな?


 ハア〜


 とてつもなく憂鬱な気分だったが、覚悟を決めて電話をかけ直す。


 プルルルル、プルルルル♪



「今どこにいるの!!??」


「家っすけど。」


 そう言いながら、寝室のドアを開ける。すると予想外の展開が待っていた。


「え?」

「え?」


 やばい。ドアを開けた先のリビングに、なぜかマネージャーがいる。向こうもこちらに気が付いた。


 控えめに言ってマズイ。


 なぜなら俺がいる寝室は、玄関からリビングを通らないと行けない場所にあるわけで、、、これだけ電話をかけてきたマネージャーが寝室を探していないわけがないのだ。


 まさにお前一体どこから現れたの?状態だ。


 ていうかこの部屋の合鍵持ってるのかよ!・・・そういや昨日そんなような事言ってた気もするけど。未成年だからとかなんとか。


 聞き流してたわ。


「ハハハハハ、、、あー電話出れなくてすいません。心配させちゃったみたいで申し訳ないです。」


「え、いや、・・・そんなことより・・・さっき確認した時に寝室には絶対いなかったし、玄関からも入って来てないはずなのに、、、どうして目の前にいるの??」


「え?本当ですか?ハハハハハ、、、ハハハハハ、、、おかしいなぁ~?」


 ジト目。


 からのジト目。


 そ、そんなに穴が開くほど凝視されても、、、困るんだが、、、


「そうだ、早く引っ越し作業に移りましょう。」


 こうなったら強引に押し切るしかない。こういうのは動揺したら負けなのだ。堂々としていれば疑われてもなんとか逃げ切れる。


「・・・そうね。」


 マネージャーはまぁ納得しているようには見えなかったけど、それから2時間ぐらいだろうか、一緒に引っ越し作業を手伝ってくれた。これでセキュリティーの安全なマンションに住むことが出来る。


 アイテムバックがあるからぶっちゃけ1人でも良かったんだけど、マーネージャー、どうもありあがとう。


 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る