第14話 お隣さんが芸能人


 次の日、家まで迎えに来てくれた事務所の社長と学校に向かい、無事に普通科から芸能コースへの編入が認められた。


 というか校長の口ぶりからして学校側としても俺の処遇に困っており、芸能事務所がバックについてくれた方がありがたいみたいだ。


 俺にとってもこの編入は悪い話ではなかった。なぜなら学校を休んでも公欠扱いになったり、家で、タブレットを使って授業動画を見れば出席が貰えるのだ。



 簡単に言えば、普通の高校と通信制の高校の間みたいなイメージ。つまり、かなり融通が効く。


 定期的に異世界に行く俺にとっては願ってもない話だった。


 

「じゃあこの書類に署名と印鑑を押してくれ。反社や薬物に関する誓約書だ。あとこっちが給料に関する書類だな。完全歩合制でイベントやテレビに出た際のギャラは8:2。んでスポンサーがついた場合、そこから集めたお金は全て君のものって書いてある。基本的に我々は黒宮君がスポーツ選手として成功できるように、裏からサポートしていくスタンスでいる。ここまでで何か質問あるか?」


「いえ、特に。」


「そうか。じゃあ話を進めるぞ。住む場所は今のうちに、うちで借り上げているセキュリティのしっかりしたマンションに引っ越してもらう。まだ高校生だしな。家賃は会社負担だから気にする必要はない。」


 ほぇー引っ越しすんのか。でも部外者が入れないマンションならばどれだけ騒がれても安心だな。


「分かりました。」


「まぁ契約の話はこのぐらいだな。あとはマネージャーを紹介しておこう。おい、入ってきてくれ!今日から担当になる松本ひなのだ。」


 社長から紹介されたのは20代半ばくらい、黒髪ロングの女性。


 なんでも帰国子女のため英語がペラペラなのだとか。世界進出も視野に入っているらしい。


 挨拶もそこそこに車で連れて行かれたのは学校から程近い場所にある高層マンション。ていうかタワマン。


 当たり前だがオートロック付きでロビーにはコンシェルジュが24時間体制で常駐している。しかも住人限定のプールにフィットネスルームもあるらしい。


 一言でいうと至れり尽くせりのマンションだ。


 普通の感覚のやつならば喜ぶのだろう。だが俺からすればエレベーターに乗らなければならない時点でハズレ物件だ。なぜなら災害が起こった時に階段を使うことになる可能性が高いし、トイレにも困る。ゴミ捨ても面倒くさい。


 だからそんなにテンションは上がらない。


「よし、じゃあ荷物を運び込むのは明日業者に頼むとしてまずはお隣さんに挨拶に行きましょうか!」


 マネージャーの松本ひなのが、一通り部屋を案内してくれたところで明るく言う。

 

 









 ・・・なぜだろうか?マネージャーが用意してくれた手土産のタオルを持って右隣の部屋に挨拶に行ったわけだが、、、


 目の前に白石雪乃がいる。制服から着替えフワフワの白い部屋着を着ている。



「なんでいんの?」


「ふぇ、、、私の家ここだからぁ。」


 ・・・そうか。


 確か社長が事務所で借り上げていると言っていたような気がする。


 これは誤算だ。なぜ学校の奴とお隣さんにならなければならないのだ。プライベートを大切にしている俺としては不本意な状況だ。今すぐ引っ越したいのだが、、、


「隣に住むことになった。ハイこれタオル。」


「あ、ありがとぉ。」


「もしかして赤羽とか来栖ナナもここに住んでるのか?」


「2人はここから5分ぐらいの別のマンションだょ。」


「そうか。」


 そりゃタレント全員が1つのマンションにいるわけないか。良かった。


「じゃあ、またな。反対側にも挨拶してくる。」


「う、うん。またね///」



 雪乃が手を振りながら部屋のドアをゆっくりと閉める。


 こうなるなら事前に言っといて欲しいもんだ。


 ブツブツ文句を言いながら今度は左隣の部屋のインターホンを押す。


 出てきたのはこれまた女だ。しかも外国人っぽい。


 ・・・英語で話せばいいのだろうか。


「・・・。」


 思わず黙り込んでしまった。すると予想に反して外国人顔の女性がバリバリの関西弁で話し始めた。


「あー自分引っ越して来たんやろ?聞いてる聞いてる。うちはモデルやってる宇田アイリ、よろしくね!」


 なんだろうかこのアンバランスな感じは・・・東欧系の顔なのに関西弁が混じっている。


 いや、全然良いんだけどね。むしろ親近感が湧くし。


「あーそうです。黒宮レイです。よろしくお願いします。」


 タオルを渡しながら適当に挨拶を済ませる。


「自分えらいイケメンやな〜。ま、なんかあったら遠慮せずに相談してや。あ、でもあんまり女の子連れ込むのは勘弁してな。ここタワマンのくせに壁薄いから全部聞こえてまうねん。」


「・・・はぁ、気を付けます。なんかあったらその時はお願いします。じゃあ失礼します。」


 おたくもさぞモテそうなんで、男を連れ込む際は気を付けてくださいね。


 ヘッ!!


「では。」

「うん!バイバイ!」


 ガチャリとドアが閉まる。


 部屋の両隣がアイドルとモデルとは奇妙なことになったもんだ。


 おそらく同じクラスのオタク君に言えば興奮で発狂するだろう。


 まぁ俺にはどうでもいい話だ。



 そんな事よりも早く異世界に行ってドラゴンの素材を売りたい、というか魔王達が住む魔大陸に行ってみたい、ただそれだけだ。

 


 マネージャーには早く帰ってもらおう。







異世界(チギュウ)



「ふぅ戻ってきたな。」


 昨日はこっちの世界には来なかったから1日ぶりのチギュウだ。


 まぁ当たり前だが何か変化があるわけもなく足早に冒険者ギルドへ向かった。


 こちらはまだ朝の8時なので、依頼を受ける冒険者達で中はごった返している。


「すいませーん、素材の買い取りをしてもらいたいんですけどしてもらえますか?」


「はい、もちろんですよ!ですが見たところ何もお持ちでないようですが?」


「あーアイテムバックに入ってますから。」


「あ、失礼しました!それでしたらあちらの方に出していただけますか?すぐに査定しますから。」


 手で合図されたのはカウンターの横にあるちょっとしたスペース。少し狭いがまぁいいだろう。


「ほい。」



 収納指輪とバックから自分で解体したドラゴンの素材を次々に取り出していく。


「え!?こ、これって!!?」


 それを見ていた受付嬢が驚きの声を上げる。そしてその声が周りの冒険者達の注意を引く。


「「どうしたんだ?・・・な!?」」



「ギ、ギルド長を呼んできますので少々お待ちください!!」


 そう言うと受付嬢が慌てながら奥の部屋に消えていった。


 待っている間にもどんどん見物人は増えていく。正直居心地が悪い。


 3分ほどして現れたのはスキンヘッドの大男。周りの反応からしても彼がギルド長なのだろう。


「ほう、これは珍しいな。見たところ解体してあるようだが、君がやったのか?」


「そうですね。」


「狩ったのも君が?」


「まぁ。」



 ザワザワ


 俺の一言でより一層冒険者の間に動揺が走る。所々で、買っただけに違いないとか、運良く死体を見つけただけだろうとかなんとか。ヒソヒソささやき合っている。


「で、買い取りしてくれるのか?」


「あぁ、すまない、考え事をしていてな。もちろんだとも。幼体でもドラゴンってのは爪、鱗、肉、全てが高価な値段で取り引きされているからな。」


「いくらになる?」


「そうだな、完全体ならば白金貨をつけたが、、、今回はざっと大金貨6枚だな。」


「「おおぉぉぉ!」」


 ふむ、大金貨6枚とは日本円で考えると・・・


 

 銭貨1円、銅貨10円、小銀貨100円、中銀貨1000円、大銀貨1万、小金貨10万、中金貨100万、大金貨1000万、白金貨1億


 だから6000万。悪くない数字だ。



「じゃあお願いします。」


「ふむ、すぐに用意しよう。」


 そう言って、ギルド長が受付嬢に目配せをする。奥の部屋に金庫でもあるのだろう。


「ところで、君の名前とランクは何かな?長年ここで勤めているが見たことが無い。」


 そりゃこっちに来たばかりだからね。でも、、、


「わざわざここで名乗りたくないな。それより早くお金をくれ。あとで調べたら分かるだろ?」


 人も多いしそろそろ立ち去りたい。トラブルに巻き込まれるのはごめんだ。


「ふむ、私はギルド長なんだがな。まぁいい。受け取りなさい。」


「どうも、じゃあ俺はこれで。」



 大金貨を受け取ると、すぐに収納しこの街を出た。次の行き先は魔大陸だ。









 不思議な少年がギルドをあとにして数時間後、この国に一大ニュースが流れた。なんと王女であるソフィア様の婚約が内定したというのだ。


 これまで幾多もの婚約話を破断にしてきた王女様が、首を縦に振った相手は一体誰なのか、人々の関心はそこに集まった。


 一説によると異国の王子様、また別の説によると7つ星のハンター。


 さまざまな憶測が飛び交った。


 しかし、結局のところ1週間経っても相手について具体的に明かされることは無かった。それどころか婚約の儀式が行われる素振りもなく、あの発表は間違いだったのではないかと言われる程だった。



 しかしアーランドの花といわれているソフィア様が一段と綺麗になったという噂や、真偽不明ではあるものの、王女様が少年にお姫様抱っこをされている絵画が大量に出回ったことにより、婚約は真実であるとの見方が強まった。


 ギルド長をはじめ、何人もの冒険者が、この男には見覚えがあると証言したことも大きかった。




 ちなみに黒宮レイ自身がこのことを知るのはもう少しあとのことである。

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