第13話 芸能事務所
「じゃあそろそろご飯作ろうか。」
「うん、そうね。黒宮君、料理道具ある?」
「ん、あぁ。一応あるけど、食器は俺の分しかないぞ?」
「あーそれは大丈夫。紙皿と紙コップはついでに買ってきたから。」
ナナがスーパーの袋を指差しながらニッと満面の笑みを浮かべる。改めて見てみるとかなりの美少女だ。おまけに明るい感じというか、快活な感じがヒシヒシと伝わってきて人間として好感が持てる。
アイドルとしてどれだけ凄いのかはよく分からないが、普通にお友達になれそうだ。
ボッチは回避できたかもしれない。
そんな事を考えながらビニール袋の中を覗いてみる。入っているのは紙皿や紙コップに加え、ジュース、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、カレーのルー、それに米2キロ。
うん、どうやらカレーを作るつもりのようだ。
手をよく洗ってから4人でキッチンに立つ。1人暮らし用の小さなキッチンなので、動くたびに誰かの肩にぶつかるのだが、そこはまぁご
といっても料理に関しては俺はズブの素人なので 雪乃とナナに言われるがまま、そう、あれはまるで女王様に
結構興奮した。
・・・
間違えた。
極めて健全に料理をして、ただそれが楽しかった。
ゲフンゲフン
まぁそんなこんなで、カレーも完成して俺の部屋は良い匂いに包まれた。〈空腹耐性〉を持ってしてもお腹がグーっと鳴るぐらい良い匂いだ。
しかも久々の手料理。こんなの美味しくないわけがない。
「じゃあ早速食べるか?」
「うん。」
「いただきます!」
「「いただきまーす!」」
アムアムアム。
うん最高。
「美味しいよ。」
「皆で作ったからねぇ。」
「いやいやいや、俺なんて野菜の切り方も分かってなかったし、、、白石って料理上手なんだな。」
ハンドボールを後ろに飛ばしていた女とは思えないよ。だってあれってもう奇跡じゃん。奇跡のドジっ娘じゃん。
「えへへへ///」
褒められて嬉しいのかニヤニヤする雪乃さん。小動物みたいで少しだけカワイイ。
「あ、そうだ黒宮、ちょっとテレビつけてもいいか?」
「ん、あぁ。」
ピッピッピッピ、、、
何かを思い出したのか赤羽がチャンネルを持ち、適当にザッピングしていく。今は午後5時45分なので基本的にどこの局も夕方のニュースしか放送していないはずだが。
「あ、うちの高校がうつってるぅ!」
「やっぱりか。」
リポーターが校門の前に立ち、中継を繋いでいる。LIVE映像だ。
『現場の岡本さん、学校側はなんと説明しているのでしょうか?』
『はい、関係者に取材しましたところ、真偽不明とのことです。加工したフェイク動画なのか依然として真実は分かっておりません。ただあの映像のグラウンド、花壇の位置、生徒の格好からして豊川学園高校を映したものであることは間違いないと思われます。また一部情報によりますと1年生の生徒ではないかという情報も入ってきました。』
『学校側が会見を行う予定はあるのでしょうか?』
『えー、正式な会見を行う予定は今のところ無いとのことです。学校側としては騒動の沈静化を図りたい模様です。』
「・・・。」
マジか。どうやら俺の事がニュースになっているようだ。校長はマスコミに対して予定通りのアナウンスをしてくれたらしいけど、、、これで学校に行けるようになるのだろうか?
アムアムアム。うん、それにしてもこのカレー美味いな。お代わりしてこよう。
「ネットだけじゃなくてキー局までやるとはな。まだ特定はされてないけど今後どうするんだ?」
難しい顔をしながら赤羽が尋ねてくる。
「んー別にどうも。アムアムアム。まぁ騒がれるのは鬱陶しいけど。隠すつもりはないし。」
「ならそれこそ今後のために芸能事務所に入って保護してもらった方がいいぞ?個人じゃマスコミっていう大きな力の前じゃ非力だからな。学校の影響力も限界があるし。」
「私もそー思う。」
「私もぉ。」
赤羽の意見に女子2人も同調する。確かにその通りかもしれないが、、、そもそも芸能事務所なんて入りたいと思って入れるものじゃないだろう。
そりゃそうだ、誰でも入れるならみんな憧れたりなんてしない。
「ちょっと待っててくれ。このあと時間あるだろ?どうせ今週は学校いけないんだし。」
そう言うと赤羽は誰かに電話をかけ始めた。
・・・異世界に行く予定があったのだが。
「よし、マネージャーを呼んだから今からみんなで俺達の事務所にいくぞ。」
「さすが仁ね!」
「わーい行こぅ!」
「え?」
なんか話が勝手に進んでいるのだが。行ってどうするんだ??
♢
やって来たのは中目黒にある立派なビル。なんでも一棟丸ごと会社の持ちビルだとか。
入り口には警備員が立ち、受付の前にはセキュリティチェックをするためのゲートがある。
今回は赤羽達と一緒なので顔パスで通過する。
中の造りは、まぁいたって普通のオフィス。
「岸和田さん、少し大事な話があるんですけどお時間よろしいですか?」
先頭を歩いていた赤羽が声をかけたのは、恰幅のいい角刈りの中年男性。手首には金のブレスレットをつけている。
おまけに色黒なので裏社会の人にしか見えない。
事務所ってのは、そっち関係の事務所だったのかと思わせる風貌だ。
「おぉ、仁か。みんな集まってどうしたんだ?1人見ないのがいるな。」
「はい、ちょっとそのことで、、、社長以外にあまり聞かれたくないのでミーティングルームに行きましょう。」
不思議そうな顔をした岸和田だったが、真面目な話だと
「おぅ、じゃあ付いて来い。」
言われるがまま階段を使い、1つ上の階に上がる。
このフロアは
適当に空いている部屋に入る。
「で話ってゆーのは?」
席に座るやいなや、ブラインドを落としながら社長が興味深そうに尋ねてくる。わざわざ時間を作ったんだから、期待してもいいんだよな?と言わんばかりの顔だ。
「はい、岸和田さんは昨日から話題になっているうち高校の動画をご存知ですか?実はここだけの話、あの動画フェイクじゃなくて本物なんです。」
「!?・・・・本当なのか?」
一瞬、目が点になる社長さん。だが驚きというよりも疑いの方が大きいようだ。腕を組みながら
「はい、本当です。しかも走っているのは
赤羽がそう言いながら俺に顔を向ける。
イヤン、恥ずかしい!
「イヤイヤイヤ、いくら仁とはいえ、
岸和田がいかつい顔で全員を睨みつける。俺で遊んでいるのならば許さないぞというオーラが
おちっこちびりそうだ。
「いえ、それが本当の事なんです。黒宮、何か今ここで社長に見せられるものはないか?」
・・・て、急に言われてもな。走る以外に何が出来るだろうか?普通の人間ではないと証明しないといけないわけだが、、、
「あーじゃあこれでいいか?」
〈身体強化3〉を発動し、両手を床について倒立をする。
「じゃーいきます。」
ゆっくりと左手を床から離す。右手のみの片手倒立だ。もちろん、一瞬だけ片手でポーズを決める
一切ふらつくことなく足の先までピンと伸ばした超人技だ。
だが驚くのはまだ早い。
さらにここから床についている右手の、手の平を浮かす。
今俺の全体重を支えているのは5本の指先だけだ。この場の全員が口をあんぐりと開けているが、中でも社長の驚きようは凄まじい。
「てなわけなんですよ、岸和田さん。話っていうのは、ビックリ人間、黒宮をうちの庇護下に置いて保護やサポートをしてやって欲しいって事なんです。遅かれ早かれ有名になるのは間違いないですからね。」
「・・・なるほどな。ちなみに芸能活動を本格的にするつもりはあるのか?アイドルとしてもやっていけそうだが?」
社長が真面目な顔になり俺を見る。だが生まれたての妖精のように
なんて
「いや、ないっす。陸上でオリンピックに出たいだけですから。」
「ふむ。ということはスポーツ選手としてうちとマネジメント契約をして広報やメディア出演、競技の普及、それからスポンサー集めなどをしていくってことだな。」
いや、知らんがな。芸能界の仕組みなんて知らんがな。
ていうかメディア出演ってなんだ?俺は今までの生活ができればそれでいいんだが?勝手に仕事をすることになってないか?え?気のせいか?それともこれが普通なのか?
どっちだ?
「面白い。むしろこちらからお願いしたいぐらいだ。すぐに契約しよう。学校も芸能コースへの編入をお願いしてはどうだ?そうだ、明日、一緒に行こう。」
「良かったな黒宮!」
「これで安心ね!」
「同じ事務所だねぇ、えへへ。」
え?良かったのか?知識がなさ過ぎてよく分からないのだが?
・・・ま、まぁでも赤羽が善意で紹介してくれたわけだし、、、3人が所属しているってことは悪い事務所ではないのだろう。
一応全員にお礼を述べる。
「じゃあ正式な契約は学校関係者と話をしてから、昼からまたここでしよう。だから身分証と印鑑は用意しといてくれ。」
「、、、は、はぁ。」
なんか・・・芸能事務所に所属してもうた。
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