第12話 アイドルが家に来た


日本


「なんじゃこりゃ?」


 必死に異世界の姫様を振り払い学校に来てみると、なぜか朝の10時過ぎだというのに校門の周りに人がたくさん集まっている。しかも昨日集まっていたような他校の高校生達ではない。


 マイクや脚立、スチールカメラを持った大人達が集まっているのだ。


「報道陣か。」


 誰かが何かやらかしたのだろう。まぁビックリはしたが俺には関係のない話だ。


 テクテク歩いて教室に向かう。確か2時間目は数学だった筈だ。


 ガラガラガラ


 後ろの扉からそっと入る。


 するとクラスメイト達が一斉に振り向いた。待ってましたと言わんばかりの顔だ。


「寝坊っす。」


 不思議な雰囲気だがそれだけ言って自分の席につく。すると授業そっちのけで、赤羽仁が近付いてきた。何故か教師も何も言わない。


「大丈夫なのか?」


「ん?何が??」


 婚約の話か?・・・・いや、異世界のことをコイツ等が知っているわけがない。寝不足なのが顔に出ているのだろうか?目の下にクマはできていないはずだが?


「何がって・・・ネットニュースとかSNS見てないのか?」


「うん?あぁちょっと徹夜で用があって。」


「え、そ、そうなのか。テレビだけじゃなくてそっちも見ないんだな。とにかくこれを見ろ!」


 仁が自分のスマホを取り出し俺にある動画を見せてくる。


 スポーツテストの時のアレだ。どうやら50メートル、3秒5の走りが盗撮されていたらしい。


「ネットで豊川学園高校に超人が現れたってお祭り騒ぎになってるぞ!学校の周りにも報道陣が集まっちゃって先生達が対応に追われてるらしいし。」


「・・・そうなのか。」


 あの人だかりは俺のせいだったのか。それは悪いことをした。



「いやいやいや、これ見る人が見たら個人特定できるし本当に大丈夫か?」


「あー俺ネットのこと分かんねーしなー。」


「・・・のんきだな。」



 その時、俺が登校したとどこかから情報が入ったのだろう。教室に教頭が駆け込んできた。背広はヨレヨレで顔が疲れ切っている。


「黒宮レイ!今すぐ校長室に来なさい!」


「・・・あ、はい。」


 入学したてでまさか校長に呼び出されるとは夢にも思わなかった。ここんとこ王様とか王女様だとか偉い人に立て続けに会っているような気がする。これも運命なのか。


 

 教頭に連れられてやって来たのは、来客用の玄関口からすぐの場所。職員室の隣にあるこぢんまりとした部屋だ。


 中で待っていたのは50歳ぐらいのメガネをかけた女性。いかにもできる女ってかんじだ。まぁ入学式で見ているので特段驚きはない。


「そこに座ってたょうだい。新1年生の黒宮レイ君で合ってるかしら?」


「はい。」


「説教したいわけじゃないから肩の力を抜いて下さいね。って言っても、見たところそんなに緊張してなさそうね。」


「はぁ、まぁ。」


 ソフィア・アーランドの般若はんにゃ顔より怖いものなんて存在しないですから。あなたの放つプレッシャーなんて赤子と同じレベルですよ。良い意味で。


「ふふふ、そのままで結構よ。さて、早速だけど本題に移りましょうか。昨日からうちの高校の電話やらホームページやらがパンク状態、おまけに報道陣が凄いのよ。原因はあなたなんだけど、分かるかしら?」


「あぁ、俺が走ってる動画ですよね。さっき見せてもらいました。」


「そう、それよ!ズバリ聞くけどあれはフェイクなの?それとも現実?私達も学校として、この騒動に対応しなくちゃいけないの。本人の口から教えてちょーだい。」


 真剣な顔で校長が尋ねてくる。わざわざ嘘を付く必要も無いだろう。


「あーリアルですね。」


 見せびらかしたいわけではないが、これから先、ずっと隠すのもダルいので本当のことを言う。


「・・・そう、報告の通りなのね。」


「なんかマズイっすか?」


「うーん、少なくとも教頭先生は対応に追われてクタクタね。明日も明後日あさって徹夜てつやかしら?でもまあそんなことはどうでもいいわ!それより、マスコミに対してどうアナウンスする?」


 ブフッ!教頭先生がドンマイ過ぎる。白目をいてピクピクしちゃってるよ!でも俺のために徹夜てつやで働いてくれるなんて、素晴らしい先生だね!教師のかがみだよ。


 あとでエナジードリンクとスッポンでも差し入れちゃう!




 グフフフ。



 スッポン。



 グフフフ。




 おっと、失礼。今は真面目な話し合いの最中だったな。


「、、、えーっと、マスコミへのアナウンスはどっちでもいいんですけど、面倒くさいのはゴメンですね。まぁ陸上でオリンピックを目指してるんで、その内バレると思いますけど。」


 時間の問題かな?


「じゃあとりあえず今は・・・学校としても真偽不明って事でいいかしら?これ以上騒がれると、他の生徒に影響があるかもしれないし。」


 ふむ。それならばそれで、もちろんOKだ。俺だって皆に迷惑をかけるのは本意ではないからな。お前のせいで成績が下がったとか、トラブルに巻き込まれたとか言われても困るし。


 うんうんうん。


「話はそれだけですか?」


 ただでさえ遅刻をしてしまったのだから、その分を早く取り戻したい。こんなところでいつまでも油を売っている暇はないのだ。


 教頭先生が煎れてくれたお茶をズズズっと飲み干してから立ち上がろうとする。


「待って、あともう1つ話があるの。ほとぼりを冷ますために今週は学校休んでくれないかしら?」


「え?」


 入学したばかりなのに??お友達がまったくいないのに?この時期って、人脈作りがとても大切な時期だと思うんだが、、、3年間ぼっちになる可能性99%じゃん。


「大丈夫よ、ちゃんと公欠扱いにしておくから。」


 ぐむむむ・・・仕方あるまい。


 教頭にスッポンを差し入れるのはまた今度にしよう。


「分かりました。」





 言われた通り今日は大人しく家に帰宅した。



 せっかく急いで登校したというのに、すぐに家に返されるという皮肉。教育を受ける権利はどこにいったのだろうか。



 まぁ文句を言っても仕方ないので、気を取り直してずっと保留になっていたドラゴンの魔石でも食べることにした。今までで1番大きなブツだ。


 ガリガリガリ



 ピロリン!



『レベルが6上がりました。強化するスキルを6つ選んでください。』



 ふむ、どうやら今のは経験値100らしい。大きいだけはある。今回強化するのは6つとも〈詠唱省略2〉でいいだろう。



【種族】ヒューマン

【名前】黒宮 レイ 

【性別】男

【魔石】小 レベル19(14/19)


スキル〈真・剣術Max〉〈格闘術1〉〈火魔法1〉〈水魔法1〉〈風魔法1〉〈土魔法1〉〈回復魔法1〉〈光魔法1〉〈闇魔法1〉〈空間魔法1〉〈重力魔法1〉〈気配察知1〉〈気配遮断1〉〈夜目1〉〈遠視1〉〈身体強化3〉〈詠唱省略8〉up!〈魔力操作1〉〈解体1〉〈解錠1〉〈チギュウ共通語〉〈付与1〉



常時発動スキル〈麻痺耐性Max〉〈毒耐性Max〉〈睡眠耐性Max〉〈熱耐性Max〉〈火耐性Max〉〈氷耐性Max〉〈水耐性Max〉〈雷耐性Max〉〈絶食耐性Max〉〈絶水耐性〉〈絶塩耐性〉〈真空耐性Max〉〈物理耐性Max〉〈圧縮耐性Max〉〈臭気耐性Max〉〈仮死耐性Max〉〈石化耐性〉〈血液耐性1〉


エクストラスキル〈飛翔斬〉


オリジナルスキル〈サポートシステム〉〈異世界転移(地球)(チギュウ)〉




称号 《生き残りし者》《唯一無二の存在》《剣術を極めし者》




 よーし。強化完了!


 ってことで


 どうせ異世界チギュウもまだ夜中なんだ。久々に寝るか!確か最後に寝たのは牢屋の中だったかからな。


 やっぱり布団は最高だぜ。



 ひゃっほおおおぉぉう!!







 ピーンポーン!ピーンポーン!ピンポンピンポン!


「んあ?」


 誰かがうちのインターホンを連打している。宗教の勧誘だろうか。


 どちらにせよ最悪の目覚めだ。


 シカトしよう。


 ピンポン!ピンポン!ピーンポーン!・・・・・・



「・・・。」


 ピーンポーン!



「…………あーうるせーな。」


 これじゃ寝れねぇじゃねーか。東京はこういう土地なのか!


 ったく!仕方ねーな!!



「はい・・・・え!?」


 しぶしぶ玄関を開けると、なんとそこには白石雪乃が立っていた。状況から考えて、この女がインターホンを爆押ししていたらしい。人は見かけによらない。ぶっちゃけ怖い。


「え・・・なんでいんの?」


「えぇっと・・・えっと・・家近いからぁ。」


「住所教えてないんだけど・・・怖っ!軽くドン引きだわ。」


「え・・・いや待って、違うのぉ!」


 雪乃は俺の反応にオロオロする。イメージしていたのと違ったのかもしれない。


「やっほー!3人で遊びに来てあげたよ!」


 雪乃の横からニョキっと顔を出したのは来栖ナナだ。よく見るとその横には赤羽仁もいる。


「それにしても黒宮君、『ドアを開けたらいきなり白石雪乃』サプライズをしてあげたのに、その反応は男の子としてどうなの?というか何でドン引きしてるの?普通泣いて喜ぶシーンよ。」

 

「え・・・そうなのか。世の中にはおかしな奴もいるんだな。」


「おかしいのはどっちかと言うとあなたよ!雪乃が傷ついてるじゃない!!」


 視線を横に移すと雪乃がショックのあまり固まっている。まるで木枯らしが吹いているようだ。



「あーすまん、深い意味はない。で、なんか用か?」


 すると赤羽が手にさげた買い物袋を持ち上げてみせた。



「先生から一人暮らしって聞いてさ、夜ご飯まだだろ?ちょっと早いけど良かったら一緒に食べようぜ!キッチン貸してくれよ!」



「・・・別に良いけど。」



「おっし、お邪魔しまーす!」

「まーす!」

「お邪魔しますぅ。」


 

 3人の芸能人が溜まり場を見つけたとばかりにうちに上がり込む。


 とりあえず異世界のものは全部収納してあるので何を見られても大丈夫なはずだ。


 ミニテーブルを囲むようにみんなで座る。だか来栖ナナはなぜかいきなり俺のベッドへダイブした。どうやらコイツにはデリカシーというものがないらしい。


「お前なんでほぼ初対面の異性の布団でゴロゴロできるの?」


 バカなの?


「えーいいじゃん別にそんなの。ピチピチの女子高生なんだから。泣いて喜べ。」


 ふむ。コイツの頭はいっちゃってるらしい。


「あとで2回は洗濯しないとな。」


「ちょっ!ひっどーい!私今までこんな扱い受けた事無いんですけど。もう怒ったわよ!雪乃もこっちに来なさい!そしてこの男のベッドでゴロゴロしてやるのよ!!私達のエキスを一杯擦りつけてやるわ!!」


 そう言いながらナナが雪乃を強引にベットに引き込む。


「あ、ちょっとぉ〜、、、」



 制服姿の女子高生が2人、なぜか俺のベットでじゃれあっている。


 ・・・どうしてこうなった。

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