第11話 求婚

 国王は驚いていた。なぜなら、先程最愛の娘が連れてきた少年が、幼体とはいえ単独でドラゴンを倒したというのだから。


 もちろん初めて聞いた瞬間は半信半疑であった。うちの騎士団長ならいざ知らず、まさかこんな少年に可能なのかと。


 しかし仮にも警備隊隊長だったガルガを圧倒した実力、そして娘に同行していた兵士の証言から、事実だと認めざるを得なかった。





 そうして、現在、少年を図書館で待たせ、妻、娘の3人で極秘の話をしていた。ちなみに待機場所を図書館にしたのは彼の希望によるものだ。


「お父様!レイ様をうちの国ですぐに囲い込むべきですわ!」


「とは言ってもな。彼は冒険者なのだろう?そう簡単にもいくまい。一生遊んでいけるだけの大金を渡したばかりだしな。」


「そ、そ、それなら、わ、私を嫁に出せばいいんですわ///」


 ソフィアがまんざらでもなさそうに言う。しかし娘の恋心が分かるほど国王は鋭くなかった。


「・・・何を言っているのだ。私は可愛い娘を政治の道具になどしたくはない。お前には恋愛結婚をして欲しいのだ。」


「いいえ、お父様、私は王の娘。この国のためならば進んで犠牲になります!」



「おお、なんと・・・・」


 娘の熱い思いを聞いて国王は感心する。だが、そうであるならば、、、あの少年より、、


「・・・他国の王子と結婚して同盟を結んだ方が良いかもしれぬな。」


 こちらの案の方が遥かに国が安定する。それに貴族からの反対も出にくい。王としては当然の選択肢だ。



「え!?ダメです!!そんなの絶対ダメです!!」


 慌ててソフィアが反対を表明する。今さっき自分から犠牲になると言ったにもかかわらず。


「おぉぉ、どうしたんだ、ソフィアや。」



「あ、あ、、えっと、レイ様は必ずや大物になられるお方です!間違いありません!」


「うふふふ。」


 母親である王妃は何も言わずただ微笑んでいる。全てを理解しているのだろう。


「・・・ふむ・・・一生を添い遂げる相手として、本当に彼で良いのだな?」


「もちろんです!・・・・あ、いや///国のためならば仕方ありませんわ!」


「・・・良かろう。ならば彼を呼んできなさい。」








 なぜか俺は今、この国の国王夫妻とその娘、息子とテーブルを囲んでいる。


 現在こちらは夜の8時、つまり日本は朝の8時ぐらい。


 ヒラヒラドレスのおかげで学校に遅刻決定だ。遅延証明書でも発行してほしい。


 まぁ、待たされている間、城の図書館にある本を全てエイミーに高速スキャンさせたので、あながち無駄な時間というわけでもなかったが。



 そうして得た情報によると興味深いことに、この世界にはエルフやら獣人やら竜人やらが存在していて人間と敵対しているらしい。しかも彼らの王達をそれぞれ魔王と呼ぶのだとか。


 面白いだろ?


 ・・・


 

 あぁ、すまん、話が脱線してしまったな。




「それで、話って何でしょうか?この後予定があるのですが。」


「おぉ、すまんな。では手短に済ませよう。話というのは他でもない、私の娘ソフィアをお主の伴侶にどうかと思ってな。」



 ・・・このオッサンは一体何を言っているのだろうか?


「お断りします。」


「おおぉ、そうかそうか。受けてくれるか。」


「・・・。」


「「え!?」」


 





 ゴゴゴゴゴゴゴ、、、、、







「お、お主!ソフィアとの婚姻を断るというのか!?」


「はい。」


「な、なぜだ!?これでも娘はアーランドの花と言われるほどの美貌を、、、それに権力も手に入るのだぞ!?」


 俺のまさかの返答にみんながオロオロする。王族からの婚姻の打診を、断る奴などいないのだろう。だが俺からしてみれば結婚など考えられるわけがない。当たり前の話だ。


「いや、中身を何も知らないんで。権力も興味ないですし、何よりこの世界を自由に冒険したいんですよ、俺は。」



「・・・な、なるほど。」


 ぐうのも出なくなった王様が黙り込む。この話し合いの主役であるソフィアは半ベソ状態でプルプルしていたが、しばらくすると意を決したように、立ち上がった。


 そしてテーブルをバンっと叩き前のめりになる。


「レイ様!結婚して下さい!」


 ドストレートの逆プロポーズだ。おそらく普通の人間ならば泣いて喜ぶのだろう。だが、、、


「お前、さっき俺が言ったこと聞いてたか?」


 これだから王族には関わりたくなかったのだ。なんでもかんでも自分の思い通りになると思ったら大間違いだぞ?



「結婚してくださいまし。」


 怖い。般若はんにゃ顔で脅しにきている。でもこればっかりは譲るわけにはいかない。



「・・・。」



 どうやったら諦めてくれるのだろうか?そもそもこっちの世界にずっといるわけじゃないし、しばらく来ないことも普通にあり得るのに。



「断る。」


「・・・。」


 テーブルを挟んでジッと見つめ合う俺と王女様。確かに容姿だけなら想像を絶する美しさだ。普通の男ならば取りあえずキープしようと言葉を濁すだろう。だが気持ちに応えることが出来ない以上、変な優しさを見せてはいけない。つまりこれが俺の精一杯の誠意だ。


「ぐぬぬぬぬぬ、お主、断るにしてももう少し、、、娘を・・・・」


「いいえ、お父様、いいのです。・・・・レイ様、あなた様のお気持ちは分かりましたわ。」


「うん、、、じゃあ帰るぞ?」


「はい、引き止めてしまい申し訳ありませんでした。ただ、これだけは覚えておいて下さい。私は諦めません。女を磨いて必ずや振り向かせてみせます!」

 

 ぐ、、、ぐぐぐ、、、こう言われると、泣き付かれるよりしんどい。


「、、、でも何年も会えないかもしれないぞ?歳だって取るし。」


 自分でも少し冷たい対応だとは思ったが、彼女のためを思えばこそ、仕方の無い対応だった。


 だがそれでも彼女は一歩も引かなかった。吸い込まれてしまいそうなほど真っ直ぐな瞳を俺に向けてくる。


「私はあの時一度死んだ身です。もし二度と会えなくても・・・それでも構いません。私はこの国でお待ちしております。」


 ぐ、、、ぐぐぐ、、


「・・・ま、まぁそーしたいなら勝手に頑張ってくれ。」


「はい。頑張ります。」


「じゃあ元気でな。」


 ・・・胸が痛いのだが?なんで頑張って完全拒否しているのに食らいついてくるんだよ。助けたのだってたまたまなんだから、別に恩義を感じる必要なんて1ミリもないのに。どこぞのイケメン王子と結婚して幸せになればいいじゃねぇーか、、、


 


「あ、あの、最後にレイ様の物を何でもいいので下さい。御守りにしたいです。」


「御守り?」


 って言われてもな。どこまで健気けなげなんだよ。


 んー、、、


「じゃあ記念に写真でも撮っとくか。」


「しゃしん?」


「あぁ、ちょっとそこで見てろ。」


 収納鞄からカメラを取り出してパシャッとソフィアを撮影する。するとすぐに写真が現像される。この世界にはオーバーテクノロジーかもしれないが、まぁこのぐらい良いだろう。


「「!?」」


「これは・・・私。・・・絵ではなくて・・・鏡に写った私そのもの。な、なんですの?これは、こんなの見たことがありません!!」


「写真って言ったろ?ほら、呆けてないで早くこっち来いよ。一緒に撮るぞ。」


「は、はい!」



 カメラに興味津々の国王様に使い方をレクチャーしてから、ソフィアを横に立たせる。俺のパーソナルスペースが潰れるぐらい密着してくるが、敢えてツッコミはいれない。


 パシャリ!



「ほれ、これでいいだろ?」


「ま、まぁ!これが初めての共同作業ですわね///」


「ちげーよ。」


 絶対ちげーよ。もしこれが初めての共同作業なら、ケーキ入刀に謝れよ。ていうかもういいよな?学校の授業がやばいんだよ、、、胸も痛いし、、、



「あ、あのどうせならお姫様抱っこをしてくださいまし///私の夢でしたの///」


 ・・・いいのか?一国の王女様にそんな事をしてもいいのか?あとで100万円とか請求されないよな?異世界で美人局つつもたせにあったら笑えないんだが?王妃様がニッコニコなのはどういう意味なんだ?


 誰か止めてくれよ。このままだとやらざるを得ないのだが?


 はぁ。


「・・・もう仕方ねーな。」


 これで最後だぞ?


 王女様の腿裏ももうらと背中に手を回し、グイっと持ち上げる。たぶんこんなに際どい場所に触れた異性は俺が初めてだろう。本当に良かったのだろうか?


 だが今更考えたとてもう遅い。



 パシャリ!


 国王様の手によってシャッターがきられる。

 



 写真に写るソフィアの顔は真っ赤だった。でもどこか嬉しそうに見えたとさ。

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