第10話 騎士爵
アーランド王国の正門を守る警備隊長ガルガは、突然現れた王女様御一行に心底驚いた。なぜなら出発した時に比べ、明らかに人数が減り、全員が疲弊しているのだ。何より馬車ではなく王女様が歩いているなどあり得ないことだった。
「緊急事態が起こりました。すぐに父に話があります。」
「はっ!どうぞお通り下さい!」
そう言って頭を深く下げた。しかしその時だった。一緒にいた部下がガルガに耳打ちをした。
あの男が例の不思議な品を持ったカモ男だと、そして
「王女様、お待ちください!その少年・・・・」
しかしガルガの言葉を王女様が手を上げて遮った。
「今から彼を王の間に連れていきます。入国チェックを
ガルガは何が起きたのかを悟った。この放火犯が、今度は王女様御一行を襲い、現在進行形で強制連行中なのだと。そして今から王の間で裁きを受けるのだと。
だとすれば、自分たちも同行してこの男から取れるものは取らなければいけない。我が部隊はケガ人に加え、詰所も燃えたのだ。もちろんそれだけではない、この男の荷物を売り払って得る筈だった遺失利益、その恨みもある。
絶好のチャンスだと、そう計算した。
「はっ!でしたら私達もご一緒してよろしいでしょうか?」
「?・・・ついて来なさい。」
王女は、なぜ警備隊のガルガが自分たちについてくるのか疑問に思ったが、よく考えれば、近隣にドラゴンが出た話は彼らにも聞かせる必要があると判断し同行を許可した。
♢
王の娘である彼女は形式的なものを全てすっ飛ばし足早に王の間へと踏み入る。もちろん反対する者などこの国に存在しない。
「お父様!緊急事態ですわ!!」
「おおお、ソフィア、どうしたんだ?」
「はい、城に戻る途中、我々の馬車がドラゴンの幼体によって襲撃されました。それで、、、残念ながら護衛が5人殉職しました。街から1時間程の場所です!」
「なに!?ドラゴンだと!?そ、それでどうやって生き延びたのだ!!??」
「はい、お父様。馬車も壊れて私達は死を覚悟しました。ですがその瞬間、こちらにいる冒険者のレイ様が単独でドラゴンを撃退してくださったのです。」
ザワザワザワ((あの少年が!?そんな事あり得るのか??))
「ほ、ほんとうなのかその話!?」
「私が嘘を言うハズがありませんわ。」
この話を聞いて国王様と同じぐらい驚いたのがガルガ率いる警備隊だった。この
思い違いに気が付き頭を抱える。
しかも、もしこの話が本当だとするなら、余裕で自分達よりも戦闘能力が高い。まさか我々は虎の尾を踏んでしまったのではないかと肝を冷やした。
「おおお、そうだな。お前が私に噓を言うわけあるまい。」
国王が黒宮に視線を向ける。
「娘と兵士を救ってくれたことを感謝いたす。褒美として白金貨10枚と騎士爵を与える。」
白金貨は日本円に換算すると1枚1億円、つまり10枚で10億円。そして騎士爵とは貴族ではないが、素晴らしい功績のあった者に与えられる1代限りの名誉称号である。
国王に忠誠など誓っていない黒宮にとってはどうでもいい称号であったが、お金は有り難いものであった。
「他に何か望むものはあるかな?」
「いえ、ありません。ただ1つだけ言いたいことがあります。この国は門番に盗賊でも雇っているのですか?」
この言葉に警備隊の顔が青くなる。だが王の御前で許可なく話すこともできず、ただジッとしているしかなかった。
「どういう意味だね?」
柔和な王の顔が険しくなる。
「彼らはカモを見つけては身ぐるみを
「なんだと!?」
「なんですって!?」
「本当ですよ。俺も地下牢にぶち込まれましたから。」
王と王女の顔が真っ赤になる。ともすれば国の恥になりうる。ましてや、たった今、王自ら褒美を与えたばかりなのだ。そんな人物に対して国王の部下が犯罪行為を行っていたとなれば国の信用が失墜する。
「説明をしろ!彼の話は
主君から激怒された警備隊は今にも死にそうなほど絶望する。このままだと安定した給与と未来ある立場を失うだけではなく、犯罪者として
「ちっ!」
その瞬間、不利を悟った隊長のガルガが動いた。今回の件に直接的には関わっていないにせよ、不正を始めた張本人であり、過去を調査されれば一発でアウトだと自分でも分かっているのだ。
「不届き者を成敗してくれる!!」
そう叫びながら黒宮に斬りかかった。突然のことに近衛兵たちは反応できていない。ただ
ヒュン!
目にも留まらぬ速さで振り下ろされる剣。常人ならば胴体が真っ二つなっているだろう。
ガキーン!
「何だお前?」
「は?」
ザシュ!
「ぐはあぁぁ!」
「「え??」」
先程まで攻撃していたはずのガルガが、なぜか仰向けになって倒れている現状に、全員の脳の処理が追い付かず一瞬だけ静寂が訪れる。しかも腹からは血が流れている。
ザワザワザワ((ど、どういうことだ!?返り討ちにあったのか!?))
仮にも警備隊長だった男がこんなにも
あまりの光景にざわめきが収まらない。
だが当事者である黒宮レイだけは至って冷静だった。大きなため息をつきながら面倒くさそうに質問をする。
「これって正当防衛だよな?」
「あ、あぁ……そうだな、お主に罪はない、、、、こ、こやつらを、引っ捕えて尋問をしろ!!」
「はっ!」
国王の一声で正気に戻った近衛兵達が、うなだれた様子の警備隊を取り囲む。リーダーを失ったことで心がポッキリ折れたのか抵抗する様子は見られない。
こうして全てが一件落着したかのように思われた。だが黒宮レイにとって衝撃の展開はこの後訪れるのだった。
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