第9話 王女様

異世界(チギュウ)


「出来るだけたくさん魔物を狩るぞ。制限時間はこちらの夜6時だ。」


 1つ星の冒険者になったばかりの俺が受けた依頼はゴブリンの討伐。常時出されている依頼なので狩れば狩るだけ報酬が増える。


 ここで疑問が1つ。そんなにたくさん生息しているのかということだ。


 答えはイエス。


 この世界には「ゴブリンを1匹見たら100匹いると思え。」という言葉があるらしい。つまり地球におけるゴキブリと同じ位置付けというわけだ。


 いや、人型で知能がある分もっとタチが悪いかもしれない。



 〈気配察知1〉〈気配遮断1〉を発動しゴブリンを探す。


 するとすぐに3匹のゴブリンが見つかった。距離にして10メートル。気配遮断の効果もあってか相手はまだこちらに気付いていない。


 そっと〈身体強化3〉〈剣術3〉を発動し剣を構える。学校のスポーツテストで実験したように、スキルレベルも3までくると、なかなかのものになる。



 50メートル、3秒5の俊足で一気に距離を詰めると、1匹目を一刀両断し、2匹目、3匹目も一太刀ひとたちで絶命させた。地面にはゴブリン達があられもない姿で横たわっている。


 腕力のみならず剣の技術も加わることでこのような芸当が可能になるのだ。



 ・・・うむ。



「にしてもグロいな。」


 この光景、〈血液耐性1〉を取得していなかったら確実にゲロっていただろう。というかビビって切れなかった可能性すらある。


 スキルさまさまだ。



 それから〈解体1〉を使って、3匹から魔石と討伐証明である耳をゲットして戦闘終了。





 その後も適度に休憩を挟んでゴブリン狩りを6時間程続けた。その結果ゲットした魔石は(小)が32個(中)が4個となった。


 初めての依頼にしてはこれ以上無いぐらいの大成功である。



 現在の時刻はだいたい昼の2時。こちらの世界に滞在できるタイムリミットまで4時間というところ。


 ここで1回貯まった魔石を食べておくことにした。正直一気にこんなにたくさん食べて死なないか不安だったが、クマムシ最強説を信じて、というか、チマチマ強化するのが面倒くさいので、ひと思いに全部食べた。


 頬を膨らませたリスのようになっていたと思う。



 ピロリン!



『魔石のレベルが8上がりました。強化するスキルを8つ選んでください。』



 んーどうしようか。大量アップだ。


「なあ?スキルのMaxってレベルでゆーといくつ?」


『基本的にレベル10です。』



 そうか、10が上限なのか。じゃあ先に剣術をMaxにして最低限の戦闘力だけでも担保しておくか。魔法を上げるのはそれからでも遅くない。あと1つは無難に詠唱省略でいい。


「じゃあ〈剣術3〉を7つ強化。〈詠唱省略1〉を1つ強化で!」



 ピロリン!



『〈剣術〉のレベルが上限に達し〈真・剣術Max〉になりました。これによりエクストラスキル〈飛翔斬〉を習得いたしました。また称号≪剣術を極めし者≫を獲得しました。剣術関連の威力が1,2倍になります。』





【種族】ヒューマン

【名前】黒宮 レイ 

【性別】男

【魔石】小 レベル13(7/13)


スキル〈真・剣術Max〉up!〈格闘術1〉〈火魔法1〉〈水魔法1〉〈風魔法1〉〈土魔法1〉〈雷魔法1〉〈回復魔法1〉〈光魔法1〉〈闇魔法1〉〈空間魔法1〉〈重力魔法1〉〈気配察知1〉〈気配遮断1〉〈夜目1〉〈遠視1〉〈身体強化3〉〈詠唱省略2〉up!〈魔力操作1〉〈解体1〉〈チギュウ共通語〉〈解錠1〉〈付与1〉



常時発動スキル〈麻痺耐性Max〉〈毒耐性Max〉〈睡眠耐性Max〉〈熱耐性Max〉〈火耐性Max〉〈氷耐性Max〉〈水耐性Max〉〈雷耐性Max〉〈絶食耐性Max〉〈絶水耐性〉〈絶塩耐性〉〈真空耐性Max〉〈物理耐性Max〉〈圧縮耐性Max〉〈臭気耐性Max〉〈仮死耐性Max〉〈石化耐性〉〈血液耐性1〉


エクストラスキル〈飛翔斬〉new!


オリジナルスキル〈サポートシステム〉〈異世界転移(地球)(チギュウ)〉



称号 《生き残りし者》《唯一無二の存在》《剣術を極めし者》new!



 よし、試してみよう。


 

 〈真・剣術Max〉を発動し、目の前にある巨木を斬りつけてみる。


 スパン!


「!?」


 直径が2メートルはあろうかという巨木がまるでプリンのように斬れた。ズズズズっと切断面がズレ、大きなみきが首をもたげて横倒しになる。


 控えめに言って予想以上だ。


「こりゃ取り扱い注意だな。」


 だが良いスキルだ。思わず口元がニヤつく。



 あとはエクストラスキル〈飛翔斬〉も試しておこう。


 新スキルとはいえ、発動すれば自然と使い方が分かる。直感に従いなんの変哲もない剣を空中で一振りする。


 剣先から斬撃が飛んでいく。中距離攻撃だ。


 それに威力も申し分もない。


 これで戦闘の幅が大幅に広がるだろう。つまり狩りの効率も劇的に上がる。



 こりゃあ楽しくなってきた。









とある場所



「全員気を抜くなよ!」


「はっ!」


「ドラゴンが相手だ!姫様をなんとしてでもお守りしろ!!」



 アーランド王国第一王女を乗せた馬車が、隣街から王都に戻る途中ドラゴンに襲われていた。



「GYAOOOOOOOOO!」


 普通このあたりに出現するはずの無い高位の魔物だ。


 このドラゴン、幼体とはいえそこそこ知能もあるらしく、魔法を使える兵士を真っ先に潰してから1時間にわたり馬車を追いかけ回していた。ちっぽけな人間相手に遊んでいるつもりなのだろう。


 兵士達は、空を自由に飛び回る相手に、もはやどうしようもなかった。


 そして、とうとう無理な運転がたたり、馬車の車輪が石に乗り上げ脱輪した。王女一行はなすすべがなくなりその場に固まる。



「GYAAAAAAAAAAAAA!」


 頃合いだと判断したドラゴンは、キャッキャしながらツメの作業に入る。口の中に炎を溜め始めたのだ。


「くそっ!姫様!姫様だけでもお逃げ下さい!!」


「そんなことは出来ませんわ!」


「時間がありません!」


「「き、きたぞ!う、う、あああああぁぁぁぁ!」」

「キャアアアアアアァァァァァ!!」

 


 全員が命の最後を悟った。そして絶叫した。防衛本能により、無意識に頭を抱え込み縮こまる。


 しかしドラゴンの炎が届くよりも前に、どこからともなく少年の声が聞こえた。


「〈飛翔斬〉」と。そして風を切り裂く音と、何かが地面に落下する振動。


 

 王女様は恐る恐る顔を上げる。そして驚きのあまり言葉を失った。


「え?」


 なんと、先程まで自分たちをまるで子供のようにもてあそんでいた、5メートルを超える巨体が、血を流して死んでいるのだ。


 何が起こったのかと兵士達を見るが、彼らもまた呆然としていている。


 ふと森の奥に視線を向けると1人の少年がこちらに歩いてきた。そしてこう言った。



「間に合ったみたいだな。」


 意味が分からなかった。


 まさか彼がこれをしたとでも?ドラゴンというのは弱い個体でも、相手にすれば必ず死人が出る。事実、今回も魔法を使える者が既に何人も潰された。


 というかそもそも軍隊で対応する化け物だ。


 それを彼が一瞬で倒したというのか?


 しばらく正常に物事を考えることが出来なくなった。









「もしもーし。おーい。」


 なぜみんな固まっているのだろうか。ちょうど森を抜けた辺りで、ドラゴンに襲われていた馬車を気まぐれで助けただけなんだが。


 精神的に疲れているのだろうか?



「えーとこいつの死体貰っていい?」


 馬車の主人っぽいヒラヒラドレスの少女に確認をとる。


「・・・は、はい。」



「あざーす。」


 お礼を言ってから〈解体1〉で巨体をぶつ切りにしていく。流石にスキルのレベルが低くて上手な解体とはいかなかったが及第点。収納指輪とアイテムバッグに入るだけ詰め込んだ。


 肝心の魔石だが、流石に彼らの前で食べるのもマズいので、他の素材と一緒に指輪に入れておいた。


 大きいので期待大。早く1人になろう。


「じゃあ俺はこれで。」


 そう言って足早にこの場を立ち去ろうとする。しかし面倒くさいことに、ヒラヒラドレスの女がそうはさせてくれなかった。


「お待ちくださいまし!!」


「ん?」


「貴方様のお名前は何と仰るのでしょうか?」


「別に面倒くさいからそういうのいいや。ドラゴンの素材手に入ったし。じゃ。」


 カッコをつけてる訳ではなく早く魔石を食べたいのだ。


 クルリと踵を返し再び歩き始める。しかしまたしてもヒラヒラドレスが呼び止めてきた。しかも今度は俺の腕を掴んでいる。


 なんて面倒くさい女だ。仕方ない。名前だけ言って早く開放してもらおう。


「黒宮レイ。じゃ。」


 グイッ腕を掴まれる。


「お・ま・ち・く・だ・さ・い!」


 ・・・なんだこの女。この怪力ならドラゴンなんてワンパンだったんじゃねぇか?ゴリラなのか?


「レイ様と言うのですね。ね?」


「あ、あぁ。」


「私はアーランド王国第一王女のソフィア・アーランドと申します。」


「げ!」


 ・・・ドレスをチョコンと摘み挨拶をしてくる目の前の女はまさかの王族だった。


 面倒くさいことになりそうな予感がする。


「今の「げ!」とはどういう意味でしょうか?」


 般若はんにゃのような表情で詰め寄ってくる少女。返答次第では不敬罪に問われてしまうかもしれない。


「・・・え、えーと、いやー流石に王女様はお綺麗だなと思いまして思わず声が漏れてしまいました。」


 棒読み。大根役者もビックリな棒読みでお世辞を述べる。


「まぁ///そんなお綺麗だなんて!」


 バシバシバシ!


 王女様が照れながら俺の肩をドツいてくる。〈物理耐性Max〉を持っていなかったら骨折していただろう。


「そうだわ!助けて頂いたお礼をしなければなりません。お時間ありますかしら?」


 顔が怖い。顔面の圧力でうんと言わせにきている。


 あーめんどくさい。



「え、えぇまぁ。」



 こうして俺は自称王女様に強制連行されたのだった。


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