第8話 SNSに流出??
私立豊川学園高校から徒歩15分。大通りから一本外れた路地裏にひっそりと佇む喫茶店がある。そこにいるのは
「それにしてもすごかったわね。」
「あぁ、ていうか凄いとかいうレベルじゃなかったよ。次元が違うっていうか。」
「雪乃はどう思う?」
「・・・。」
話を振られた雪乃は心ここにあらずでポーッとしている。しかも急に何かを思い出したようにニヤニヤしてはまたポーッとする。
完全にアイドルらしからぬ顔面になっている。
この姿を見て赤羽とナナはピーンときた。雪乃は人生で初めて恋に落ちたのだと。
その相手は言うまでもなく、今日のスポーツテストで意味不明な記録を出しまくっていた男、そう、黒宮レイだ。
幼馴染みともいえる2人は、今まで雪乃を応援するとともに、変な虫が寄ってこないように目を光らせていた。
だが、あの男ならば、大切な雪乃を任せられるのではないかと直感的に感じているのだった。
「雪乃のこんな顔、誰にも見せられないな。」
「ほんとね、でもまぁ、好きになるのも分かる気がするわ。今朝ケンカの仲裁に入った時もカッコ良かったし、スポーツも出来るでしょ?何より、彼は私達を芸能人としてじゃなくて、1人の人間として見てくれる感じがするもん。ね?雪乃?」
ナナが雪乃のプニプニほっぺを指でつまみながら黒宮の話をする。
色白の銀髪少女はされるがままだ。
するとその時、携帯を触っていた赤羽があるものを発見した。
「おい!SNSが大変なことになってるぞ!!これ見てみろ!!」
2人が見やすいようにテープルの中央にスマホを置き、動画を再生する赤羽仁。そのタイトルは『私立豊川学園高校に超人現る!』
「これって今日のスポーツテストのじゃん!?」
カメラの位置からして校舎からグラウンドを撮ったものだ。
距離があるため、個人までは特定出来ないが、顔見知りであれば判別可能なレベルだ。
1人の男子生徒が50メートルを爆走している。到底、人間の走りとは思えない。だがこれは間違いなく現実に起こったリアル映像だ。
「黒宮くん・・・・なんでこれがぁ?」
「たぶんこのカメラ、最初は雪乃かナナを盗撮してたんだろうな。でなきゃ授業中のこんな映像撮れるわけがない。」
「面倒くさいことにならないといいけど。」
コメント欄には、フェイクという言葉が並び、軽く炎上しているが果たしてどうなることやら、人気芸能人であり常に人の目に晒されている3人は、その苦労を知っているだけに黒宮を心配するのだった。
♢
「じゃあチギュウへ行くか。」
一方その頃SNSをやっていない黒宮は、まさか自分の走りがネットに投稿され大騒動になっているとは露ほども知らずに、異世界に思いを
今の日本時間は午後7時なので向こうは朝方だろう。ちょうどいい時間だ。
「新しく作った収納指輪と、えーと、、、水分と食料を入れたアイテムバッグ。すぐに現像できるカメラも持った、うん、準備完了だ。」
服装も目立たないよう全身黒でコーデしたしこれでバッチリOKだ。
「〈異世界転移(チギュウ)〉発動!」
・
・
・
「よっと!少し気持ち悪さも慣れてきたな、、、えーとここはどこだ?」
焦げ臭い匂いが立ち込めたボロボロの建物の中だ。レンガ造りなので焼け落ちてはいないがハッキリ言ってひどい有様だ。・・・なぜこんな場所に、、、
「あぁ!
なんだなんだ、結局消火できなかったのか。ここはもう新しく建て直すか、多額の修繕費をかけなければ使用できないじゃないか。
どんまいだな~。むやみやたらに火魔法なんて使うからこうなるんだ。
「お?」
朝だというのに兵士が慌ただしく走り回っている。建物が燃えてしまったせいで手続きやらなんやら色々あるのだろう。こちらを気にする者は誰一人としていない。
そのおかげで俺は無事入国を果たした。
「
また牢屋にぶち込まれたらたまったもんじゃないからな。
『上手くいきましたね。』
あぁ全て計算どおりだ(大嘘)さあ異世界観光しよう!
中に入ってみると、道が碁盤の目になっている。その脇には、屋台や出店がところ狭しと並び、それぞれ開店の準備をしている。
ざっと見た感じ、日本と比べて生活水準はかなり低いようだ。車や信号機に類するような物は全く見当たらない。もちろん都会の街中にあるような巨大モニターも無い。
やはり世の中の仕組みとして魔法と科学は両立しないのだろう。
水準としては日本だと江戸時代、ヨーロッパだと中世ぐらいか?
知らんけど。
そんなことを思いながらゆっくりと街を見て回る。するとあるものを発見した。
「んあ!おいおいおい!あれってもしかして冒険者ギルドじゃねーか!?」
やっべ!これは行くしかないな。
西部劇に出てくるようなウェスタン扉を開け中に入る。
「おお。」
どうやら食事処と併設されているタイプのようだ。紙が無数に貼られたボードと睨めっこをする者もいれば、テーブルで朝食を食べている者もいる。
こちらに注意を向けてくる者はいないが、目立たないようにカウンターに進み、座っている女性に話しかける。
「すいません、冒険者登録したいんですけどできますか?」
「あ、はい。そうしましたら、こちらの用紙に必要事項を記入して下さい。」
そう言って渡されたのは質の悪い紙1枚。黄ばんだ藁半紙をさらに
本当の事を書くつもりも無いので適当に書いてから受付嬢に渡す。
何か言われるかもしれないと思ったが特に突っ込まれることもなく受理された。そして昇格の仕組みや注意事項の説明を受け、同意するなら署名しろとのことだった。
簡単に言うと、冒険者は死のうが怪我をしようが自己責任って話だ。その代わり成功した場合、名声とお金と地位を手に入れるらしい。
まぁその辺はどうでもいいけど。
あとランクは星の数で分けられる。1つ星から始まり最高は7つ星まで。
って感じ。
もちろん速攻同意した。
「こちらが1つ星の冒険者証になります。無くさないようにお願いしますね。再発行には罰金がありますから。」
「あ、はい。」
「では、手続きは以上になります。このまま依頼を受ける場合はあちらの依頼ボードからクエストを持ってきてくださいね。」
「りょーかいです。」
せっかくだし1つ受けていこう。
♢
遡ること1日前。
「隊長!!」
アーランド王国王都の警備隊長ガルガは就寝中に叩き起こされた。彼が普段寝泊まりしているのは、街の一番奥にある、豪勢な城の一室だが、数名の部下が正門の詰所から走り込んできたのだ。
緊急事態であることはすぐに分かった。
「何があったのだ!?」
「はっ、ただいま詰所が燃え、ケガ人が多数発生しております!」
「なんだと!?水魔法と回復魔法が使える者を急いで派遣しろ!他の者はケガ人の捜索や運搬、サポートをしろ!!」
「「はっ!」」
指示を出したあとガルガも急いで現場に駆けつける。すると何人もの部下が治療を受けていた。
炎自体は、懸命な消火活動により収束気味だったが、この詰所はしばらく使い物にならないだろう。思わず頭を抱える。
「何があったか詳細な報告をしろ!」
そう命令するが、今喋れる奴で、何が起こったのか正確に分かる奴がいないらしい。
まったく使えない奴らだ。幸い死者がいないのが救いだが、これでは自分の責任問題になりかねない。いやもう既に首が危ない。
「それならば助け出した時の状況は?」
「はっ、夜勤だった数名が逃げ遅れ、火傷を負ったもようです。うち1名は地下牢にてパンツ1枚で転がっておりました。その他のケガ人は寝床から自力で逃げる際に火傷、もしくは窓から飛び降りて打撲などのケガを負いました。」
この報告を聞いてガルガにはピンとくるものがあった。
「・・・お前らまさか収容者の脱走を許し、ヘマをこいたわけではないだろうな?」
「・・・。」
「何黙ってやがる!知っていることを全部話せ!!」
殺気を飛ばしながらガルガが
「はっ!、、、その、、人間の収容者が1人いたのですが、現在消息が分かっておりません。」
「どんな奴だ?十中八九そいつが脱走する時に放火したんだろう。」
「黒髪で10代半ば、奇妙な男でした。」
「それだけか!?」
「い、いえ、、、あと、、見たことが無い品物を複数所持しておりました。」
「なんだそれは?」
「詳しいことは自分達にも分かりかねますが、、高価な服や、食べたことの無い食品、それに我が国の製本技術を遥かに超えた小さな本を持っておりました。」
ドゴッ!
ガルガは説明をしていた部下の腹を思い切り殴った。だがそれは正義感からではない。
「・・・お前らなぜそいつを捕縛した時点で俺に報告しなかった?いつも言ってるよな?カモが来たらまず俺の取り分を決めると。」
「う、、、よ、夜が明けたら報告する予定でございました。」
ドガッ!
「嘘ついてんじゃねーよ、ナメたまねしやがって・・・お前ら今ここで死んどくか?」
「「ヒッ!」」
兵士達が慌ててガルガに土下座をする。
「死にたくなけりゃそいつを探し出せ。そして俺の前に連れてこい!!」
「「はっ!」」
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