第7話 スポーツテスト


 次の日、時間通り登校すると、校門の前に人だかりができていた。どうやら他校の生徒達が、うちの芸能科の生徒を見に来ているらしい。


 しかも教室の前の廊下には、学内の生徒達が入れ代わり立ち代わり集まってくる。


 なりたくてなれるものではないが芸能人だけにはなりたくないと思う。


「止めるのであります!チラッ!僕ちゃん・・・・のクラスメイトである雪乃たんとナナみんが嫌がっているでござる!!チラッ!そんなに見たいのならこの僕ちゃんを心ゆくまで見るがいい!!」


「「うるせーぞメガネ!引っ込め!!俺達はお前に用なんかねーんだよ!!」」


 ブーブー!


「ふっ雪乃たんとナナみんと同じクラスになれなかった哀れな君達に何を言われても響かないでござる。フハハハハ!!悔しいのう。悔しいのう。」


 名前は大田拓海おおたたくみだったか?意外と煽るのが上手い。


「「この野郎!!」」


 ガシャン!!



 野次馬の2人が教室に踏み入り、1番前の机を蹴飛ばした。ビックリした女子生徒達から悲鳴が上がる。


 しかし、そんなことは関係ないとばかりに彼らはオタク君の胸ぐらを掴んだ。


「ぼ、暴力でござるか!暴力は反対でござる!」


「るせーっ!」


 まずい、殴るモーションに入った。それを見てとっさに体が動く。


「オラァ!!」


 パシィ!


 野次馬、魂心の右ストレートを手の平で受け止める。


「!?」



「ふー間に合ったか。」


 俺が止めていなければ確実にオタク君の顔面にクリーンヒットしていただろう。それだけでは無い。殴ったコイツらも良くて停学だったに違いない。


「な、な、なんだお前!?」


「なんだ?って言われてもな。」


 ただのクラスメイト?それとも平和を愛するジェントルマンってとこか?まぁなんでもいいけど、目の前で喧嘩されると気分が悪いんだよね。


「もういいだろ、今日のところは帰れよ。お前らも気が済んだだろ?」


「そ、そうでござる!帰るがいい!!」


 オタク君が俺の背から強気で口撃する。まったく呆れたもんだ。もしかしたら助けなかった方がコイツのためになったかもしれない。


 ハァ〜。


「お前も無駄に煽ってんじゃねーよ。凄いのはお前じゃなくて、この歳でちゃんと仕事をして、評価を得ているコイツらだろうが。」


 個人的に芸能人に興味はないが、だからといって尊敬の念を持っていないというわけではない。


「ぐむむむむ。」


 オタク君は悔しそうにしていたが何も言い返せないらしい。なにはともあれだ。


 キーンコーンカーンコーン!


「あぁ、鐘がなったな。じゃあ、全員解散だ。授業、あ、いや、スポーツテストか始まるぞ!」



 こうして俺の教室は落ち着きを取り戻したのだった。

 









「えーじゃあ1年13組はハンドボール投げから行うぞ!出席番号順じゃなくていいから、それぞれ2回ずつ投げてくれ。良かった方の記録を先程配った用紙に書き込むように。いいな?」


「「はい!」」


 一斉に返事をして、順番にボールを投げていく。そう、俺達のクラスは先程からハンドボール投げを行っている。



 だいたい平均すると男子は27メートルぐらいで、女子は14メートルぐらいが多い。少しボールが大きいので投げづらいのかもしれない。


 そうして前の奴らが投げるのをボーっと観察していると、不意に後ろから声をかけられた。


「黒宮レイで合ってるよね?」


「ん?」


 振り向くと茶髪の少年が2人の少女と立っていた。名前は確か・・・


「・・・赤木じゅんだったか?」


 ブフゥッ!


 茶髪ポニーテールの少女が吹き出した。そんなにおかしいことを言っただろうか?


「アハハハ。誰よそれ。ちょっとツボに入ったかも。あなたってそんな名前だったのね。芸名も改名してみたら?」


「絶妙に違う!赤木じゅん、じゃなくて、俺は赤羽仁あかばじんだよ。っていうかナナまでイジらないでくれよ。」


 そう言われた来栖くるすナナはテヘペロする。仲がよろしいことで。


「あぁーわりぃ。赤羽仁か。俺基本的にテレビ見ないから。」


「大丈夫、大丈夫。そんなこと気にしてないよ。」


「仁はねこれでも一応アイドルとしてソロデビューしてるんだよ。昨日も生放送のミュージックサンデー出てたしね。」

 

 ナナが説明をしてくれる。ミュージックサンデーというのは確かどっかのテレビ局の看板番組だったはずだ。


「へぇ、若いのに休日も働いて大変だな。」


「まぁ自分でやりたくてやってる仕事だからね。辛いこともあるけどやりがいもあって楽しいよ。あぁ、そうだ!君今度うちの事務所の社長に会ってみないかい?君なら間違いなく売れると思うんだけど。なあ2人とも?」


「うん、確かに黒宮君なら背も高くて顔もいいからデビュー間違いないわね。雪乃もそう思うでしょ?」


 ナナが仁の意見に賛同する。そして銀髪少女に話を振った。


「・・・ゎ、わたしもそう思うかぁ・・・も///」


 なぜかうつむき加減で頬を赤くしながら雪乃が答えた。校門でぶつかった時も声が小さくて聞き取れなかったが今も蚊が消えそうな音量だ。


 怖がられているのだろうか?それとも・・・


「・・・熱でもあんのか?」


「え!?・・・・な、ないですぅ///」


「そうか、ならいいけど。仕事もあるんだろうし、しんどいなら保健室行ってちゃんと休めよ?」


「は、はぃ!」


 ピーーーー!


「おーい!次!次の人!!」


 おっと、俺の番が回ってきたようだ。ハンドボールを投げなくては。


「あーすんません。今投げます。」


 話を切り上げ所定の位置につく。


 担任の話では現在の最高記録は数年前に野球部のエースが叩き出した、55メートル。


 この記録を超えようが超えまいがどちらでもいいが、〈身体強化3〉の力がどの程度の力なのかを知る上で、ひとつの目安になるだろう。計測してくれるなら願ったりかなったりだ。


「うし。」


 スキルを発動し思いっ切り投げてみる。


 するとボールは一直線に飛び続け学校の敷地外に落ちた。ザッと見た感じ150メートルぐらいだろうか。


「「え!?」」


 全員の目が点になる。


 そして


 「「えぇぇぇーーーーーー!!!」」


 全員のあごが外れた。別の競技をしていた他の生徒たちもザワついている。


 だが俺にはそんなことどうでもいい。大事なのは正確なデータだ。


「まずまずだな。・・・・・・ん」



「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 担任の綾部がもうダッシュでこちらに走ってくる。暑苦しいことこの上ない。


「黒宮!!!!今のはなんだああああああぁぁぁ!!??」


「?ハンドボール投げですね。」


「っちがあああああぁぁぁう!!!お前・・・お前・・・俺と一緒にオリンピックを目指してみないか!!??」


((陸上部の顧問でもないのに急に夢見始めた!??))


 クラス全員が心の中で綾部にツッコミを入れる。


「お断りします。こんな競技ありませんし。」


((速攻断わった〜〜〜でもド正論!!))



「ふむ。」


 まさかオリンピックに誘われるとはな。まぁもちろんずっと陸上に打ち込んできたわけだから100メートルや200メートルは出たいが、、、、あえてここでその宣言する必要もあるまい。


「それより2回目投げてもいいっすか?」


「おおおおぉぉぉぉぉ、さがれお前らああぁぁぁぁ!!」



 そうして投げた2投目も当然のように敷地外へ飛んでいった。


 あぁ、ちなみに白石雪乃は投げたボールがなぜか後ろに飛んでいたことだけ付け加えておく。







「先生な、先程取り乱してしまったようだ。でももう大丈夫だ。みんなでオリンピックを目指そう!、いや間違えた。みんなで今度は50メートル走をするぞ。ははは。黒宮、お前は1番最後に1人で走れ、ははは。他の奴らは4人ぐらいで一斉に走れよ。ははは。先生はゴール地点でタイムを計測するからな。ははははは!」


「「はい。」」


 クラスメイト全員がコイツキャラ変わってね?と思ったのは言うまでもない。


 ただ測定自体は順調に進んだ。


「位置についてよーい、、、」


 パン!


 タタタタタ



「6秒9、7秒2、9秒3、9秒7。よし、次!」


 あっという間に2列、3列と終わっていく。そして続いてスタートラインに並んだのは雪乃。クラスメイトになってまだ2日だが、俺はあることに気がついた。


 この女ドジだ。

 

「よーい、、、」


 パン!



 ドサっ!


 うむ、予想通り何もないところでコケよった。周りの生徒は微笑ましいものを見る目で見ている。あーゆーところがかわいいだのなんだの。


 タイムは転倒したこともあり14秒3。驚異的な遅さだ。ボールは後ろに飛ばすし、本当にどんな運動神経をしているのだろうか。


 ドジっ娘属性恐るべし。


「次、黒宮!」

「はい。」


 おっとあの女のことを考えていたらいつの間にか俺の番か。


 先程よりも人の視線を感じるが、、、まぁいい。


 自分の限界値を知るため、これも今出せる全力でいかせてもらう。


 これから魔物と本格的に戦っていくのだから、自分が何を出来るのか正確に知ることは非常に重要なはずだ。


 もちろんそれ以外にも、陸上を愛する者の端くれとして、競技に手を抜く事はできないという事情もある。


「位置について、よーい、、、」


 パン!


 クラウチングスタートからの全力疾走。もちろん音を聞いてからの反応速度は余裕で0.1秒以内。これは人間の反応速度の限界を超えており、正式な大会ではフライングとして失格になるスタートだ。


 だが今はそんな事はどうでもいい。出来る事をする、ただそれだけ。

 

 ダダダダダダッッッ


 グラウンドの土をえぐりながら一歩一歩強く踏み込む。そして50メートル走り切る。


「・・・3秒5」



 タイムを計測していた担任の綾部が今度は石化した。そして生徒たちは、失神した。



 その後の反復横飛び、立ち幅跳び、シャトルラン、握力測定でも同じような現象が起こったとか起こってないとか。


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