第5話 門番
「おおお!エイミー!見てみろ!!」
すっかり暗くなった異世界で、視界の隅に
どうやら本当に宇宙人は存在したようだ。あれだけの城壁は猿では作れまい。人類が存在する何よりの証拠だ。
〈身体強化2〉を使い近付いてみる。
「おぉ。」
門番が2人立っている。
これは人類史に残る歴史的な出来事だ。もしこの事実を公表したら、すぐにでも、世界中の教科書に載ることだろう。有名人にはなりたくはないが、自らが達成した偉業に興奮が止まらない。
「§¶△■♯○〰!!」
「ん?」
「✗✳〽〰§*◇■♯!!」
「・・・まじかよ。」
失念していたが言葉が通じないようだ。考えてみれば当たり前の話なのに、その可能性に思い至らないとは俺はなんてアホなのだろうか。ボディランゲージじゃこの先が思いやられるのだが、、、
ピロリン!
『〈チギュウ共通語〉を習得いたしました。』
「そこのお前、何をしている!?」
おお。最高のタイミングだ。言葉が分かるぞ!!
って感心している場合でもなさそうだ。明らかに俺の事を怪しんでいる。まだ弱いんだから無用な争いは避けなくてはいけない。
ここは普通に振る舞おう。
「街に入りたいんですけど?」
「身分証は?」
横柄な態度で言い放つ門番。若干異世界人に幻滅するとともにイラっとしたが、まぁ入国審査なんて地球でもこんなもんかと無理矢理納得する。
「ほい。」
ダメ元で提示したのは日本のパスポート。世界が違うのでなんの効力も持たないことは重々承知しているが、遠い国の外国人として適当に処理をしてくれるのではないかと、僅かな希望にかけてみた。
「な、何だこれは!?顔が・・・しかもこの製本技術、不可解な文字、、、」
「それが身分証だが?」
しかもビザ無しで190カ国に渡航できる最強のパスポートだぞ。
ドヤァ!!
「・・・こ、こんなものは見たことがない。お前の出身はどこだ?」
「あぁーずーっと向こうのニホンっていう島国だ。」
「聞いたことがないな。その高そうな服もその国のものか?」
え?高そう?これが??ま、まあメイドインジャパンですから。 もしかしたら君達が着ている服よりも良い服に見えるかもしれないね。
ふはははは。
ピロリン!
『マスター、その服はメイドインベトナムです。』
ズコ!
・・・そ、そんな情報いいんだよ。
「おい、そのかばんの中を見せてみろ。」
急に目の色を変えた門番が命令口調で迫ってくる。
正直あまり見せたくはないが、、、ここで拒否していても
ガサガサガサ…………
「な!?なんだこれは?」
「こいつはすげーな!!」
案の定、中身のチェックを始めた門番が顔を見合わせ驚愕する。そして意味あり気に頷き合う。心なしかニヤっとしたような気がするのだが見間違いだろうか?
・・・とても怪しいのだが?鼻の穴も膨らんでいるぞ?ていうかこっちの奴なんか、小さくガッツポーズしているぞ??
どういうことだ?
「入ってもいいか?」
「だ、ダメだ!お前は胡散臭すぎて、このまま街に入れるわけにはいかん。とりあえず牢屋で待機してくれ。上司に相談した上、明日、日が昇ってから改めて審査する。」
う~む、やはり日本のパスポートをもってしても駄目だったか。当然といえば当然の話だが、、、どうしようか?一晩中牢屋で過ごすなんてアホらしくてやっていられない。明日出直すか、それとももう別の街に行ってしまうか。
どちらにせよ今は無理をしてまで、こいつらと関わるメリットはない。怪しすぎる。
「ついてこい!」
「、、、いや今回は遠慮しておく。荷物を返してくれ。」
兵士から鞄を取り返し、くるりと
「待ちたまえ。」
「え?」
突然、門番の1人が笛をピーと鳴らした。今思えばこれが何かの合図だったのだろう。詰所らしき場所からわらわらと兵士が出てきた。
そして囲まれた。
なぜだ?俺は善良な市民なのだが?いや善良な外国人なのだが?
「大人しく言うことを聞くんだな。私達は国王様より権限を得て門を守っている。」
笛を吹いた門番はそう宣言すると他の兵士に目配せしニヤっとした。
ぐむむむ。
♢
「今着ている服を脱いでこれに着替えろ。荷物も全てこちらで預かっておく。」
そう言って渡されたのは青と白のボーダー服。まぁわかりやすく言えばただの囚人服。
完全に犯罪者扱いだ。
「んん??何だこれは?薄っぺらい長方形・・・鉄ではないな。むむ!?いきなり発光したぞ!?」
どうやらスマホに興味を持ったらしい。まぁ指紋認証だからこいつらが使うのは不可能だが、まじで壊さないでほしい。
あーめんどくせー。
「おい、こっちのカバンには上等な服がいっぱい入っているぞ!ハハ、売ったら大金になるな。しかもこの奇妙な白い袋を見てみろ!ホーンラビットの肉だ!今回は大当たりだな!バチが当たりそうだぜ。」
「バッカヤロウ!用途不明の
その後も
売り払ってお金にするつもりなのだろう。その事を隠そうともしていない。頭の悪い奴らだ。ブヒブヒ言いやがって。
ガチャン!
「ここでおとなしくしておけ!」
手荷物検査のあと乱暴に放り込まれたのは鉄格子が並ぶカビ臭い牢屋。場所は兵士共の詰所の地下だ。
「はぁ〜。」
怪しいとは思っていたがやはりこんなオチだったか。
スキルで地球に帰ることは可能だとは思うが、なんとしても荷物を取り返さなければいけない。特にパスポートとスマホは必須だ。
「おーい。」
鉄格子を掴みガチャガチャやってみるが当然鍵が開くわけもな・・・
ピロリン!
『〈解錠1〉を習得いたしました。』
開いた。
開いてしまった。
とりあえず閉めた。兵士よりも頑丈に閉めた。
だってまだ脱走する心構えが出来てないし。
『エイミー、少し寝るからちょうどいい具合になったら起こしてくれ。』
『了解しました。おやすみなさいませ。』
『あいよー。』
・・・
・・・
「・・・・Zzz。」
♢
『マスター!起きてください!!』
「ほぇ、・・・あーーー」
正直、動くのがダルい。
「もう少しだけ寝たいんだが?」
睡眠耐性があっても欲求が無くなるわけじゃないし。
『その提案は却下します。現在、こちらの世界は、夜中のため警備が手薄になっています。加えて、先程兵士が見回りに来たばかりです。荷物を奪い返す成功確率は今が1番高いかと。』
「ぐわー。」
んー仕方ない、行動するか。
仰向けの状態から足を上にあげ、体のバネを使ってピョンっと跳ね起きる。中1の時に、男子の間で爆発的に流行った技だ。まさか牢屋でやる日が来るとは思わなかったが。
まぁそんなことはどうでもいい。これからの事に集中しよう!
「では、いっちょやったりますか!」
〈気配察知1〉〈気配遮断1〉〈身体強化2〉を発動し、〈解錠1〉でゆっくりと独房の扉を開ける。
とりあえず兵士は見当たらない。どうせ階段の前の作業スペースにいるのだろう。降りてきた時に机と椅子が置いてあったのを確認済みだ。
音を立てないように、かつ素早く移動する。
「お?」
兵士が椅子に座りながらうたた寝をしている。呼吸をするたびに鼻にできる
「幸せそうな顔しやがって。」
再び〈解錠1〉を使用し、牢屋の出入り口の鉄格子を開ける。
ギギイィーーーっと鉄の
あまりの大きさに一瞬ヒヤリとしたが、大丈夫、気付かれなかったようだ。
そのまま兵士に近付くと、腰に差してあった剣を有り難く頂戴し、柄の部分で思いっ切り頭を殴る。
ボコ!
「痛そー。」
「ふがっ!!!」
「お?起きたのか?じゃあもっかい寝とけ。」
ボコ!
ドサっ!
うん、気絶した。
それから、防具と服を剥いで、そこら辺に転がっていたロープで縛りあげる。
服を剥いだのはもちろん俺が変装するためだ。個人的な欲求を満たすためではない。ロープで
ゲフン、ゲフン
「どうだ?似合ってるか?どっからどう見ても兵士にしか見えないだろ?ちょっと汗臭いのが不快だがな。」
『はい。サマになっております。』
「ふふふ、そうか。なら上に行こうか。」
隠れる必要のなくなった俺は我が物顔で階段を登った。
やって来たのは1階フロア。ぶち込まれた時に荷物を没収された場所だ。
流石にここは夜中とはいえ6名が待機していた。ご苦労なことで。
すぅーっと息を吸い込み兵士になりきる。
「おい!大変だ!!下で収容中の男が暴れてやがる!脱獄してくるぞ!!手を貸してくれ!!」
まぁ脱獄犯は俺だがな。脱獄してくるっていうか既にしてるわけで、お前らの目の前にいるわけで、うんうんうん。ある意味ホントのことだな。8割ぐらいは正確な情報じゃないか?
「「なに!?急げ!!」」
そう言いながら、夜番の6人はブヒブヒと階段を降りていった。仕事熱心なのかアホなのかよく分からないが、、、
その間に俺は引き出しやらなんやらを手早く物色し、パスポートとスマホをゲットする。ご丁寧に1番目立つ箱に保管してあった。どうせ明日、日が昇ってから換金するつもりだったのだろう。
間に合って何よりだ。
「何かあったのか?」
ギク!
「!?」
後ろを振り向くと眠そうな顔をした兵士が1人立っている。どうやら騒ぎを聞きつけて2階から降りてきたようだ。間抜け
「いや、なんでもない。戻っていいぞ。」
「・・・そうか。じゃあ俺は戻って寝るぞ。」
そう言うと、くるりと向きを変え歩き始めるマヌケ野郎。だが違和感を感じたのか3歩進んだところで足がピタリと止まった。これはマズイかもしれない。冷汗が止まらない。おまけに緊張してお腹が痛くなってきた。先ほどからバレないように、すかしっぺをしているがそろそろヤバいかもしれない。
「……そういやお前見ない顔だな?所属と階級は??何班の人間だ?」
と同時に下の階からピーという笛の音と「脱走だ~!!」という声が響いてきた。あと少しで穏便に脱出できたのになんて不運なのだろうか。対人戦はやったことがないので不安しかない。
「き、貴様!膝をついて両手を上げろ!」
剣を抜きながら、ドゴっと蹴りを入れてくる間抜けヅラの兵士。
だが不思議かな?衝撃でブッと屁が出てしまっただけでまったく痛くない。<物理耐性Max>が働いてくれているのだろう。思わずニヤっとしてしまう。
「な、何だお前!?」
「答えてやる義理はないな。ふん!!」
相手の顔面に向かって頭突きをお見舞いする。
ドゴ!!
鈍い音とともに真っ赤な鼻血が吹き出す。痛みのあまり、のたうち回る兵士。もちろん俺自身にはなんのダメージもない。本当に丈夫な体を授かったもんだ。これならそんなに慌てる必要はないのかもしれない。
ルンルン気分で剣と防具、それから小袋を没収する。これでこいつはもう反撃できないだろう。
「いたぞーー!!あいつだ!!押さえろ!!」
「ベック!!大丈夫か!?」
「ちっ、我々への攻撃は重罪だぞ!!」
「天に誓いし我が魂は炎を纏いて精霊門をーーーーー<ファイアーボール>!!」
うぉ!なんだその長い詠唱は!?ていうか室内で火の魔法を使うなよ!!馬鹿なのか??
「ハッハーーー!俺達に刃向かってただで済むと、、、え?」
ノロノロ飛んできた炎のボールを手で払いのける。ビックリしたが、なんてことはなかった。熱くもないし痛くもない。
メラメラメラ………
ん?
横にあった机が燃え始めたが、、、こちらとしては知ったこっちゃない。自業自得だ。うんうんうん。
ボフゥ~~~
運の悪いことに木箱とか酒瓶に引火し、、、て激しく燃え始めたけど、それも俺のせいではない。
「か、火事になるぞ!!き、貴様よくも~!!」
うるせぇよ!炎を使ったのはお前らだろうが!!まったく、これでも食らいやがれ!!
「<ウィンドボール>!!」
シュン!
空気の塊が飛んで行き2~3人をドミノ倒しにする。レベル1の魔法なのでそこまで期待はしていなかったが気絶している奴もいるので、そこそこ使えるようだ。せっかくなので10発ぐらいお見舞いしてやろう。
アタタタタタタタタ………
悪人どもに鉄槌を下すべく無我夢中で攻撃をする。
「「ぐあぁぁぁぁ!!」」
俺に近付くことさえできずにダウンしていく兵士達。先ほどまでの勢いはなくなり怯えた目をしている。まるで怒られている時のチワワみたいだ。
ザワザワザワ((くそ!魔法使いだったのか!しかも詠唱破棄か!?………あ!お、おい!やべぇぞ!炎が壁に燃え移ったぞ!!))
メラメラメラ
う~む、攻撃に集中していたら、いつの間にか炎が大きくなっている。今更バケツ程度の水をかけても鎮火するのは不可能だろう。かわいそうに。
って同情している場合ではないな。敵さんも混乱していることだし、今はチャンスだ。ここらへんでズラかろう。うんうんうん。
、、、おっとその前に腹が痛くて大量の
ブッ!!
ボフゥ~~~!メラメラメラ、、、
「おし、エイミー地球に帰るぞ!!」
【種族】ヒューマン
【名前】黒宮 レイ
【性別】男
【魔石】小 レベル2(0/2)
スキル〈剣術1〉〈格闘術1〉〈火魔法1〉〈水魔法1〉〈風魔法1〉〈土魔法1〉〈回復魔法1〉〈光魔法1〉〈闇魔法1〉〈空間魔法1〉〈重力魔法1〉〈気配察知1〉〈気配遮断1〉〈夜目1〉〈遠視1〉〈身体強化2〉〈詠唱省略1〉〈魔力操作1〉〈解体1〉〈解錠1〉new!〈チギュウ共通語〉new!
常時発動スキル〈麻痺耐性Max〉〈毒耐性Max〉〈睡眠耐性Max〉〈熱耐性Max〉〈火耐性Max〉〈氷耐性Max〉〈水耐性Max〉〈雷耐性Max〉〈絶食耐性Max〉〈絶水耐性〉〈絶塩耐性〉〈真空耐性Max〉〈物理耐性Max〉〈圧縮耐性Max〉〈臭気耐性Max〉〈仮死耐性Max〉〈石化耐性〉〈血液耐性1〉
オリジナルスキル〈サポートシステム〉〈異世界転移(地球)(チギュウ)〉
称号 《生き残りし者》《唯一無二の存在》
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