後編 ~親しき者と別れ、復讐を...~
◇遡ること数か月前
日) 「着いた~。二十分前か...少し早かったかな?」
朝練だから早く登校したけれど、未だ誰も居なかった。よし、準備運動も兼ねて、ランニングをしよう。
私は速攻を主体としているから、体力は多い方が良いしね。
日) 「すっ すっ、はっ はっ 」
校舎周りを走っていると、見知った人物を発見した。
木) 「うっ、息が苦しい。でも、まだ十分しか走ってないから、頑張らないと!」
木ノ下...体が弱いのを克服しようとしているんだ。偉いけど、無理して体を壊させる訳にはいかない。
日) 「木ノ下!一旦ペースを落とそうよ。ゆっくり走った方が、辛くないし。」
木) 「試合中は、そんなこと言ってられません。自分も、早く試合に出たいんです。」
気持ちは痛いほど分るよ。私だって、試合に出たいし。けれど、身長の低さや生まれつき呼吸器系が弱いのは、努力でどうにか出来ないんだよ。
日) 「無理して入院なんかしたら、更に試合出場が遠のくと思うよ?」
木) 「...その通りですね。分かりました、ペースを落とします。」
日) 「うん、ありがと。ところで、私は偶々早く来たからランニングをしてたけど、木ノ下もそんな感じ?」
木) 「いえ、自分は、入部してからほぼ毎日です。でも、上手く行かなくて...」
ずっと続けていたの!?ベンチ入りも果たせない状況で? ...凄いな。
私は、美崎には勝てないんだと、どこか、割り切ってしまっていた。けれど木ノ下は、私と似たハンデを抱えながら、抗っているんだ。
そんな子を見ていたら、頑張るしかないよね。
日) 「ランニング、明日から私も付き合うよ。」
木) 「良いんですか?嬉しいです!」
木ノ下。いつか、二人で試合に出ようね。
◆◇◆◇◆
やや高めの軌道だった為、しゃがむ様に指示したが、奇しくもその球は、木ノ下の背中に掠ってしまう。
木) 「ううっ、やっぱり、ダメだったなぁ。先輩は、生き残っ」
"ブシュッ"
遺言を言い終わる前に、木ノ下の首と胴体は離れてしまう。もう、言葉の続きを聞く事は出来ない。
日) 「くあぁぁぁ、木ノ下ぁぁ、ごめん、ごめんねぇぇぇ」
今のは、間接的に私が殺した様なものだ。さっきの球を月見に当てていれば。
もしくは、少しでも早く、指示を出していれば、木ノ下は死なずに済んだのに。
日) 「あっ、投げないと。次は、私が死ぬ羽目に...」
でも、既に二人を手にかけた私に、生きる意味はあるの?
もう、このまま死んだ方が良い気さえする。
火)「残り時間が二分半を切ったぞ〜。日向、投げないのか?」
日) 「.....」
土) 「日向〜、投げて欲しいなぁ。うちらの為を思うならぁ。」
土井ちゃん達の為?そっか、時間切れだと、全員死んじゃうから、投げて欲しいんだね。
もう、狙いも定めず、適当に投げたボールが、月見の方へ向かっていく。
月) 「えっ!ちょっ、まっ」
突然の事で避ける準備が出来ていなかったらしく、顔面にボールが当たってしまう。
月) 「あっ...えっ、当たった?火浦先生、これって、顔面セーフじゃ?」
"ブシュッ"
火) 「悪いなぁ〜月見。俺はプログラミング苦手だから、細かく設定出来なかったんだわ。
まぁ、もう聞こえていないか。」
火浦の発言はさて置き、もう疲れた。目の前で人の死を見ても、声が出ない、涙も出ない。
土) 「何これぇ、月見の...目ぇ?嫌ぁぁぁ、見たくない、見たくない、おぇぇぇ。」
日) 「...土井ちゃん、早く投げてよ。残り一分だよ?さっき、土井ちゃんも言ってたよね?うちらの為を思うならって。」
土) 「...日向ぁ、変わったねぇ。いつもの優しい日向じゃないよぉ。」
日) 「変わった?そうかもね。勝たないと、私が手にかけた人達が浮かばれないから、覚悟を決めたの。」
土) 「...分かったぁ。ならうちも、全力でぇ」
土井ちゃんの全力!?すなわち、超重いボールになるはず。避けるべきかな?
土) 「やあぁぁぁっ」
いや、これは土井ちゃんの覚悟の証。それなら、全力で受け止める!
日)「...えっ?」
予想より遥かに軽く、遅い球が飛んできた。驚きながらも、何とかキャッチし、彼女へ投げ返す。
土) 「うっ」
ボールは土井ちゃんの腹部へ直撃し、彼女は倒れた。私は大声で、次の様に問いかける。
日)「なんで、全力で投げなかったの?」
その問いに、普段より早口で、絞り出すような声の返事が来た。
土)「だってぇ、日向に生きて欲しかったからぁ!死んで欲しくなかったからぁ」
"ブシュッ"
彼女が息絶える姿を見て、ようやく実感がわいた。もう、あの時誓った約束は、実現できないんだって――――
◇土井・日向が小六の頃
日)「 今日の試合も勝ててよかった~。中学に上がったら、クラブじゃなくて部活になるから、もっと本格的にハンドが出来るね。楽しみ!」
土) 「そうだねぇ、日向。でも...ごめん。うちは、日向と同じ中校へはいけないんだぁ。」
日) 「何で?私達、約束したでしょ!全国で、一緒のチームでプレーするって。」
土) 「急に親の転勤が決まったからぁ、日向に言うタイミングがなくてねぇ。」
日) 「そっか...」
この先三年間は、土井ちゃんと同じチームでプレー出来ないんだ。でもね、もし中学が無理だとしても、私、諦めないもん。
日)「それなら...高校!高校で一緒に全国を目指そうよ。」
土) 「あぁ~確かにぃ。いいねぇ、約束しようか。」
『全国で、二人一緒にプレイしよう!』
◆◇◆◇◆
もう、土井ちゃんや木ノ下、他の皆も居なくなった。アイツのせいで死んだ。なら、せめて私は...
火) 「いやぁ〜、凄い試合だったな。約束通り、日向が次の大会のベンチメンバーだ。」
日) 「どうでも良いので、早く首輪を外して下さい。」
火) 「そうだった。えっと、外すための鍵は...」
火浦が鍵を取り出した瞬間、地面のボールを拾って投げ、彼の腕にぶつけた。
火) 「なっ」
驚いた拍子に落とした鍵を拾い、即座に首輪を取る。
火)「何をするんだ?そんな事しなくても、首輪は取ってやったのに。あれっ、アイツ...」
馬鹿な男だ。私の狙いは、お前の視界から消える事だよ!
その瞬間、私は火浦の背中によじ登り、首輪 を用意して...
"ガチャン"
火)「おいっ、日向?何してんだよ!俺に首輪をはめるなんて。」
さて、アイツに首輪を装置した。そして、時間制限を加えた時に操作していたスマホも奪った。これで形勢逆転だ。
火) 「なっ、スマホまで!おい、返せ、返せぇ。」
日) 「動いたら、起動させますよ?」
火) 「なぁ、一旦落ち着こう?イラついていても、冷静な判断は出来ないぞ。」
日) 「黙れっ!お前が、お前のせいで、土井ちゃんや木ノ下、水嶋、月見、金崎が皆、皆居なくなった。
苦しみながら、息絶えた。皆の気持ちを、少しは思い知れぇ!」
その瞬間、私は装置を起動し、火浦を殺した。
その後、火浦の指を切り落とし、その指紋で外に出て、気づいた。ここは、今は使われていない、学校の旧体育館だった事に。
終わり?
ドッチ・デスッ! 一ノ瀬 夜月 @itinose-yozuki
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