第16話 別れ

 環達が飛行艇から眼下を眺めていると、夜が明けてきて、巨大ミミズは日光が苦手と見えて地下に隠れてしまった。もどき達はどうしているかと、駐留地近くを飛んでみるが、姿は無かった。ジュディは、

「取り付く相手が居ないから、きっと海に入っているんじゃないかな。皆、海がお気に入りだったから」

 と言っている。そんなものかなと思いながら、環は結局今回も犠牲者だけ出して、何も成果は得られなかったと思っていた。パパが直々迎えに来て、どういうつもりなのかなと不思議になった。不味い報告は、昨日だけだったしと思っていた。砂嵐の事はパパに迄行っていないんじゃないかと思っていたが、それも知れていたのだろうか。考えていると、ジュディがどうしたのか聞くので、

「何も不味い報告をしていない内に、パパが直々迎えに来るらしいから、どうしたのかな」

 と言うと、

「環には龍昂さんがいるじゃない。あの人は超能力全部あるんでしょ。分かっていると思うよ」

 と意見を言われた。環は龍昂爺さんに何が分かって、何が出来るのか、あまり良くは知らなかった。物心ついてからは、ゲルダ婆さんと仲良くまったり暮らすところしか知らなかった。

「どう分かっているのかが分からないんだよね。実際。ただ、家の近くにまで戻ると、テレパシーで何かとうるさく言って来るんだけどね」

 と言うと、

『何かとうるさく言って来る爺は、もうすぐお前の所に着くぞ』と言い出した。

「あ、爺さんまでやって来ている。どういう事」

 と呟くと、ジュディは、

「何度も死にかけてなかった?」

 と言い出し、環は、

「しっ」

 と遮るが、手遅れだった。崋山パパの、物凄いテレパシーが来た。爺さんからは詳しく言われていなかったらしく、

『死にかけただと、何があったんだ。あんまり短い連絡だったから、きっと言いたくない事が山ほどあるものと思っていたが、さっさと帰って来ればいいものを、あんまりじゃないか。メグー』

 環はうるさくて頭を抱えた。気が付くと最新型の軍の宇宙船が、目の前の地上に停まっていた。そう言う事ならもう安全だと、飛行艇をそのそばに降ろした。パパや爺さんが出て来た。

 船の船長は、カール・リーさんで、副船長はズーイさんのコンビで来ていた。もどきキラーのズーイさんの手腕は、今回、奴らは海に逃れているから、もう見ることは出来ないかもしれない。

 環は駆け寄り、

「皆来てくれたんだね。でも、ピークはもう過ぎた感じだけれど。こっちに着いた時の人員はほとんど居ない。飛行艇の確保に置いていた人員しか助からなかった。彼らは不味くなれば上空に逃げられたから」

 崋山パパが、

「何が不味かったのか」

 と聞くので、環は仕方なく報告した、

「ここの生物は、耳が発達していない奴が多かったな。そして、海の中にもどきの強烈な奴が居たから7班が襲われてしまった。今迄のもどきとは、やる事が違っているのに、環の考えが甘かった。その所為で、調査班の人間全員が、擬態して付いて来た奴らの犠牲になっている。そして今は、海に入って居るらしい。今はそう言う所だな」

 パパはジュディを見て、

「そいつは?」

 と聞くので、

「パパは知っているかな、会っていないと思うけど、元シャーク、今はジュディになって居るけど。海に居たもどきにやられたんだ。奴は仲間意識とかなかったよ。圭になっていたのは、今逃亡中、助けが来たから出て来るかも」

 パパは、

「やれやれ、圭も期待はしていなかったが、薄情な奴だな。それに比べてその子は環と随分仲良しじゃないか。ひょっとしたら圭より仲良しになっていないか」

 と言い出したので、

「そうかもしれない」

 と環が答えると、ジュディは随分嬉しそうに笑った。

「無駄に活躍したがるけど」

 と言っておくと、少し眉をひそめた。

 リー船長と、ズーイ副船長は、環の報告でこっそり言い合った、

「ここは長居しても無駄な所だったようだな。その2班が全滅した時点で、引き上げるべきだったのに、撤収の船を出さなかったのは、あの人の判断ミスに近い。今更言っても仕方ないが、こういう時は現場の判断が一番なんだ。環も退役するから忠告の必要も無いが、撤収の船を要求しても良かった案件だな」

 ズーイ副船長は、ぶつぶつと、

「大体、帰りの足無しでこんな所に居させるなんて、考えられない」

 と言っている。

 崋山パパは、むっつりと言った。

「地球に残されていた人たちは、第2の地球で暮らす事になったよ。お互い話し合って納得して決まった。意地を張って若い命を無駄に散らせてしまった。反省しているよ、皆」

 机上の空論は危険すぎた。実際にこの星で暮らし始めて、分かった事も多かったと言う事だろう。

 ズーイ副船長の文句が的を得ていると結論が出た所で、長居は無用と出発する事になった。

 環は軍の船に乗り、辺りを見回すが、ジュディが見当たらない。副船長がいる所は、怖いらしく、しばらく環から離れていたのだが。

 カズンに知らないか聞いてみると、

「さっきから見かけない。何だか知った仲間が居なくなって、元気が無かったな」

 そう言われればそうである。それに元シャークのジュディとしてはここに永住するつもりでやって来ていた筈である。昨日の夜の、時間稼ぎをすると言っていた訳は、どうやらハイエナもどきの恩返しの真似だけでは無さそうであると思い至った環は、辺りを探し回った。何と呼べば良いだろう。やはり、

「シャーク、シャーク」

 前の名を呼びながら外に出て探した。すると、不味い事に遠くに砂嵐が見えて来た。あいつが居るから、陸地は危険だ。しかし海の中には敵と言っても良いもどき達が居る。実際、シャークの居場所は無いではないか。

「シャーク」

 環は一際大きな声で呼んだ。砂嵐がどんどん近づいて来る。この惑星から出て行く環達が、これ以上この星の生物を殺傷する権利は無い。ぼやぼやしてはいられない。環は段々焦って来た。

「シャーク」

 すると、近くの岩陰から出て来た元シャークは、

「環、砂嵐が来るよ。早く船に乗らないと」

 と言い出した。

「シャークが居なくなるから、乗れないんじゃあないか」

「あたしを連れて行くつもり?」

「連れて行かないで、置いて行かれた後、シャーク一人で、ここでどうやって暮らすんだよ」

「さあ、分からないけど」

「ほら、もう砂嵐が来るよ」

「早く、環は船に乗らないと・・・」

「シャークも乗るんだよ」

「あたしは乗らない」

「乗らなきゃ砂嵐にやられちまうだろう」

「いいもん」

「よかぁ、ないだろ。中に居る生物に食われるよ」

「いいもん」

「死ぬよ」

「もう、いいもん」

「一緒に第2の地球で暮らそうよ」

「やめておく」

「一緒の部屋に居たいって言っていたじゃないか」

「それは今日までの話」

「今日からの事と、どう違うんだよ」

「遠慮しとく」

「どうして、ほら、砂嵐が来るよ」

「環は早く船に乗って」

「シャークも乗れよ」

「あたし、ジュディになったの」

「じゃあジュディでいいから」

「ジュディは乗られない」

 環はすっかりパニックである。

「どうしてっ」

 環はジュデイの腕をひっつかみ、船に入れようと試みるが、お互い中々の力持ちで、勝負は付かない。

 砂嵐はもうそこまで来ている。

「シャークじゃないし、シャークは死んだの」

 そこへ龍昂爺さんが出て来た。

「環、この子は行きたくないんだ。置いて行こう」

「でも、」

 爺さんは、

「シャークでお前と暮らしたかったんだよ。お別れしなさい。無理強いするんじゃない。圭はこの子の方が、自分よりもお前を好いているのが分かって、身を引いたんだ。わずかな間だけどね。だが、別れるしかない。第2の地球には行きたくないそうだよ。この子は」

「でもほら、砂嵐が来るし、死んでしまうよ。きっと」

「多分、死なない」

「ほらこう言っているから、もう出発しよう。環」

「いってよ、環」

 その時、何処からか、圭が現れた。

「環、さようなら。俺達はここで暮らすよ。シャークの面倒は俺が見る。心配はいらないから。もう時間が無い。俺らは走って逃げるからな。じゃあな、環。ほら行くぞ、ジュディ」

「うん、さよなら、環」

 ジュディになったシャークは環に手を振りながら走り去った。

「さようなら、シャーク」

 仕方なく環も手を振り返すと、龍昂爺さんと一緒に船に乗る事にしたのだった。


 あの時、元シャークのジュディが装甲車から飛び降りた時に、環は今まで感じた事の無い気持ちに気付いたが、それは、もどきに抱いてはならない事だったのかもしれない。

 ジュディが船に乗らなかったのは、その所為だったような気がする環だった。


 環~碧色の心  完

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環~碧色の心(未来家族3) 龍冶 @ryouya2021

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