第15話 驚愕の成り行きにで危機一髪の脱出、そして恩返し
ジュディこと、元シャークの言葉で環はすっかり固まっていた。
ところがそこへ、サリーが素早くやって来た。話が聞こえたのだろう。
「何言っているのさ。ジュディ。あんたが弱いわけないでしょ。対外的にだったら、あたしだってそうでしょ。もうルイとは別れる事になったの。だから依田司令官はあたしとパートナーになって欲しいの」
「何言っているのはこっちの台詞さ」
ジュディは、環に口パクで、
『サリーはミウよ。環は知らないでしょうけど、もどきって言う生き物は、他の生物のオーラというか、精気を食べるの。陰で圭とミウは環のオーラは旨いと何度も会話していたわ』
思いがけないシャークの話である。すると、サリーことミウも、
「あんただって、同類の癖に。バカじゃないの」
これは、大声である。すると、元シャークは、
「あたしは、あんたらみたいな浅ましい気持ちで、環に近づいたんじゃあないの。環が好きなの。愛しているのよ。あんたらみたいな自己中とは違うの。パートナーになったら、環に尽くすつもり。環の為なら何だってするつもり」
これも口パクではなくなった。
聞いていた環はあっけにとられ、居た堪れなくなるが逃げ出す勇気は無い。
「うそよ。ジュディだってあたし達と同類じゃない。自己中で環を追いかけているはずよ。環はだませても、あたしは分かっているんだから。あんたの魂胆はね」
「あんたらみたいな薄汚い根性の奴らに、あたしの何が分かるって言うのさ。チャンチャラ可笑しいわね」
「何、気取っているのさ。同じ穴のムジナだって環は承知しているさ」
「どうかしら、でも分からなくても良いの、この気持ちは。あたしの気持ちは変わらないの。環の為なら何だってするし、環の敵はあたしが始末するつもり」
元シャークは段々過激な事を言い出しそうだと思った環は、ここらでクールダウンさせなくてはと思い、
「二人とも、冷静になってね。あの、言っておきたいんだけれど、どっち道、次の船が来たら、私は任を解かれて第3銀河の本部に戻るし、このミッションも中止と思うよ。第3銀河はここに永住する権利は放棄するはずだよ。危険だからね」
振り返って、うるうると環を見る元シャークは、
「それは知っているの。環の迎えが来るまでの事を言ったの」
「そうなんですか・・・」
環は次の言葉は出ない。そこへ7班以外の女子の数人がこの騒ぎを聞きつけてやって来た。いやな予感がしてくる環である。その中の一人が言った。
「なんだかぁ、お二人の話を聞いていると、三角関係かと誤解してしまいそうだけど、そうじゃないわね。片思い同士でしかないでしょ。あたし達、最初のアンケートでは希望のパートナーの名を依田環と書いていたの。告った順番はあたし達の方が早いのよ。あまりに希望者が多いから、船長から却下されたけれど。その時にパートナーとして、もしかしたらあたし達の誰かが決まった人になった可能性有りなのよ」
元シャークは小声で「あたしはその時、居なかったし」と言い出し、環の耳には聞こえた。環は思わず、
「しっ、黙れ」と小声で言って、
「とにかく、皆さん。私がパートナーは欲しくない事は御存じでしょう。引き続きパートナーは欲しくはありませんから。皆さんの中に現在パートナーと同室の方は、必要以上に波風を立てないで下さいね。そう言う訳で、今までの話は全く何の意味も無いんですよ。まだ勤務時間中ですから、皆さんもう解散してくださいね」
主にもどき二人に対しての説得であるが、当の二人は聞いているのかどうかと言う所。まだ睨み合っていた。
男性の傍観者達もやって来ていて、睨みあう二人をにやにや見ていた。7班だった班員二人である。元シャークによると、あの海の生物だったそうだ。環は思わず彼らにノックダウンの声を出した。しかし彼らにはなぜか効かない。へらへら笑っているだけである。環の頭はパニック寸前である。環としては、彼らの耳の性能が悪いからと思いたい。ノックダウンの声が効かなかったのも、その為であり、決して彼らの能力とは思いたくはない。しかしお手上げなのは間違いない。
あの圭でさえ、敵わないと姿をくらませてしまったのだ。環だけで、どうこうできるはずもない。
丁度騒ぎで全員集まって来ていたので環は、明日、ここを撤収して、カズン達の所へ戻ると発表した。夜の移動は危険だし、まさかこの一夜で全滅させられる事は無いと思ったのだが。
色々あって疲れていた環だったがしばらく眠らずに、辺りの様子を窺っていた。しんと寝静まっているように見える。徹夜で見張りたかったのだが、やはり昼間の疲れで、うとうとしてしまっていると、環の部屋をそうっと開ける奴が居る。誰かは、予想どおり元シャークのジュディである。
小声で、
「環、あいつら次々に海に引きずり込んだ人間を、自分らの仲間にしているよ」
「くそう、夜の移動は危険だと思ったけれど」
「ここに居るのも危険だったね」
環は皆の部屋のドアを開けると、どの部屋も、もぬけの殻だった。全滅である。
彼らは今まで会ったもどきとは行動が違っている。
「元ミウを連れて来い、逃げるぞ」
「連れて来なきゃダメ?」
「私に嫌われる前に連れてきた方が良いんじゃないか」
装甲車の車庫は、海岸沿いからは住居の陰で見えにくいのが幸いだった。
環と、元シャークと元ミウは三人で夜の闇を突き抜け、本部の飛行艇迄急いだ。車を出せばすぐに逃げたと知れるので、始めは無灯火で出発し、遠くに行ってからライトを付けて全速力で逃げた。彼らは音では感付かなかったようだ。
「あいつら、どのくらい早く移動できるのかな」
元シャークは
「分からないけど、早いんじゃないかな」
と答えていると、元ミウのはずの奴が、何と、
「もう一緒に居るぞ」
と、元シャークにかぶりついた。これでは共食いじゃあないか。
環は慌ててノックダウンの声を出し、そいつを装甲車から蹴り落した。
「おい、シャークあいつは元ミウで、こっちの仲間じゃあなかったのか。お前は元シャークで間違いないよな」
「俺は俺だよう。明るいうちはミウで間違いなかったんだけど」
と元シャークがおろおろ言い訳する。
「あいつらの仲間に寝返ったのかな、ノックダウンは効いたから」
と言う事で、環は元シャークの怪我を見てみた。喉を食われているが、環が癒すと直ぐに傷が塞がった。そこでまた、出発しようとすると、装甲車がどういう事か大きくバウンドした。盛り上がったらしい所を、夜目で見にくいが振り返って見ると、泥だらけの触手らしきものが環達の方に伸びて来た。
「あれは、あいつか、それとも別の生物?」
環は慌てて逃げながら、叫んだ。どちらにしろ、耳は無いんじゃないかと思った。環、最大のピンチである。
「似ているけど、もどきの擬態じゃあ無いみたい。あ、捨てた奴食っている。わ、直ぐ飲み込んだ。環、もっとスピード出ないの」
「すぐ、追い付かれるってか。あれはミミズみたいだな。これが精いっぱい」
環がぞっとして答えていると、後ろが何だか騒々しい感じになった。元シャークは、
「環、何だか戦いが始まった」
元シャークの解説で、環はチラッと振り返った。
そこで見たものは、何と言う事だろうか、ミミズの化け物を、先日のハイエナもどき達が、びっしり食らいついていた。ミミズの化け物はのたうちまくっている。
「食物連鎖では、ああなるのかな」
環は驚いて叫ぶが、
「まさか、あんなでかいのをちび達が食うはず無いよ。不自然だよ。見てよ、皆ちっこいのに頑張っている感じだよ」
元シャークに指摘されて、よく見ると、頑張っている感がひしひしと感じられる。
「まさかこの間の、あいつ等?圭が彼らは義理堅いとか言っていた様な」
「思い出した。環は、猛獣から救ってやったって言っていたね、あいつらを。ハイエナっぽいのの恩返しって事なの」
環は見た感じ、彼等が時間稼ぎをしているように見えて来て、慌ててまたスピードを出して、本部に急いだ。またあんなのが来たら、上空に逃げるしか手は無い。スピードを出すと、装甲車は結構物凄い音量の爆音が出て、本部近くになると、感づいたらしい皆がスタンバイしていて、ライトを付けて、上空飛行の用意をしていた。ほっとする環、
「あいつら、気が利くねえ、助かった」
そう環が言うと、後ろをずっと見ていた元シャークが、
「間に合うね、良かった。ハイエナっぽいのを振り切って、さっきからこっち目掛けて来るけど、まだ距離があるよ。振り切ったハイエナっぽいのは食わないね。食い飽きているのかな。さっきあいつを食って、あたし達が美味しいと思ったかも。こう言うの、食通って言うのかな」
「元シャーク、段々ジュディっぽい感じになって来たな。あの子、おしゃべりだったね」
環は、もう彼をジュディと呼んで良い頃かも知れないと思えた。
あともう少しと安心しそうになった環だが、横に乗っていた、ジュディは何を思ったか、突然スピードのある装甲車から飛び降りた。ぞっとして環が振り返ると、
「今度はあたしが時間稼ぎする番だ」
と叫んでいる。
巨大ミミズは確かに距離を縮めていた。だが、時間稼ぎが必要なほどだろうか。環はジュディをミミズに食わす訳にはいかないと思った。
急ターンで後戻りして、ジュディをひっつかみ、車に乗せて飛行艇にぶつかりそうになるまで近づき飛び乗った。ギリギリセーフで、上空に逃げ延びた。
環達に近づいて来たカズンは、
「ジュディは、装甲車から落ちちまったの」
と聞いた。
ジュディの回答は、
「答えたくない」
だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます