第14話 散々な状況
環は急いで7班に連絡の通信を入れた。応答は無い。通信に応答するどころでは無いのだろうと言う事は知れた。圭の所へ行きながら透視で、皆があの触手を持つ生物に襲われているのが分かった。
「手遅れかな。だけど圭達は強いはずだし」
そう呟きながら、あの触手の大きさを思い出し、環は焦った。
到着し上から見ると、助かったらしい班員は、海岸に倒れている。
環は人数を数えた。明らかに少なく、5人だった。誰が居ないのかも分かった。シャークとミウだ。きっと故郷を思い出し、シャークは海に入ったのだろう。環は目が熱くなった。
こんな事になるなら、もっと構ってやればよかった。
降り立った環は倒れている圭に近寄った。圭は、
「お前が危険を感じているのが分かったから、皆を陸に上がらせようとしたんだが、ミウとジュディはお転婆で遠くまで泳いで行っていてね。ジュディが慌てて溺れだして、皆助けに向ったあげく、お前が見た奴が現れてな、大騒ぎさ。散々だった」
「そうか。圭は私の様子が分かるんだね。それに何だか、圭は水に入っても元の正体が現れないみたいだけど。シャークもだったよね。どうして。それで居ない二人はどうなったの」
圭は苦笑いをした。
「俺の血筋は早々正体を露わさない。そう言う一族なんだ。シャークは実の所、俺が以前に分裂して出来た子だ。驚いたろう。ミウはジュディを庇って一番にやられた。溺れたジュディを連れてシャークが逃げようとしたんだが。俺は無駄に近寄る人間どもを庇っている間に・・・」
圭はそれから言い淀んだ。環はそれ以上聞かず、倒れている皆を見回した。奴に強く掴まれたようで、手足が紫色になっている人がほとんどで、圭の苦労が伺える。
足の骨が砕けているんじゃあないかと思える隊員に、
「痛むだろう、直ぐ本部で治療しよう」
と、環が抱えて飛行艇に乗せようとすると、彼ルイは、
「あれ、痛くなくなったな」
と言い出した。環と本人とで足を観察し、ルイは、
「足、折れてないぞ。さっきは確か、折れていたよな」
と言い出した。
環は、自分にも癒し能力が覚醒したと分かった。そこで、皆を次々に治していった。
うつ伏せで倒れているジュディに触ると、違和感があった。まだ癒していないがやけに素早く、ジュディは振り向いた。
彼女はジュディであって、ジュディでは無かった。環には分かった。中身はあのシャークだ。圭は、シャークがジュディを連れて逃げようとしていたと言っていた。
何があったのか、環にも大体の事は想像できた。シャークはあの生物にやられ命が危なくなって、ジュディに取り付いたのだろうか。しかし、見た感じジュディもだいぶ手足が折れてしまっている。どちらが危なかったのかは、分からない。もしかしたら二人ともだったかもしれない。環はジュディになったシャークを癒して傷を治した。
「黙っているから。君もジュディになりきれるんだろう」
ジュディは頷いた。
環はジュディから離れ、圭の所へ行き、
「癒し能力が出て来た。皆癒しておいたよ。これからは、皆一緒に行動しよう。調査効率が悪くなるけれど。こんな風に犠牲者が出ては、私としては撤収したいところだけれど、地球の皆はここに移住したいんだろうね」
と言うと、圭は環をじっと見ながら、
「これから、俺は危険生物を見つけて、始末してこようと思う。皆とは、別行動をとるから」
と言い出した。
「一人で良いのか」
と聞くと、
「一人の方が楽だよ。他の奴の安全を気にしなくて良いから。環は知らなかっただろうけど、ミウも同類だった」
と答えるのだった。
そして立ち上がると、そのまま海の中に入ってしまった。
他の皆は驚いたが、環は、
「もどきの圭は強いらしいよ。大丈夫なんだろ。自分でそう言うから」
と、説明した。
その後、残りの皆を連れて環の班に戻り、全員そこで生存している生物や環境を調査する事にした。一通り調べて、調査ポイントを変更して移動していくのだ。圭が海の危険生物を始末すれば、海岸一帯が移住場所として適している。陸地は獰猛な生物がやたら多くて危険だ。やつらをいくら何でも絶滅させるわけにはいかないし、環は中間報告として、そんな風に第3銀河本部に連絡した。
カイからの返事は、思いがけずと言うかそんな恐れもあったが、環は退役して第2の地球に帰るようにと言う命令が下った。それも崋山パパがこっちに迎えに来ると言う。恐れていた不味い事態になった。
あのお願い的連絡は、何が不味かったのだろうか。環は首を傾げた。
圭が居なくなって、もどきはジュディだけだと思っていた環だった。ジュディとパートナーのゲーリーは破局である。これは環も予想していた。しかし、もう一組のサリーとルイも別れると言う。おまけにルイはこっそり環に、
「おい、アメーバもどきが仲間を増やしだしたんじゃあないか。サリーは急につれなくなって来たし、ジュディはひょっとしたら、そうなんじゃないか」
と耳打ちしてきた。
「根拠があるんですか」
と言っておいたが、環としては、サリーもとは、どうゆう事だろうか、と思っていた。するとしばらくして、環が一人になると、今度はサリーが、
「依田司令官、私のルイはあの海の事件の後、もどきに変わったと思います」
と言い出した。
「どうして、そう思うの」
と聞くと、
「彼、海の匂いがするんです。あの時の事を思い出します」
と言い出した。
「へえ」
環は首を傾げる。二人でお互いがもどきだと言い出すとは、おそらくどちらかが嘘を言って誤魔化していると思うのだが、環はどちらが人間でどちらがもどきかは、分からなかった。
はっきりさせるべきではないかと思い、一人で事務処理をしているジュディを見て、訊ねてみた。
「ねえ、ジュディ。あなた以外に現在此処に同類は要るの」
ジュディは、眉をひそめ口パクで、
「あの生物は、もどきだったよ。圭と争って圭にやられたから、分裂して他の班員になっている。あいつら耳が良いから気をつけてね。でも頭はあまり良くなさそう。年食っているから強いよ。圭はやつらが二人になって敵わないから逃げた。助けがもうすぐ来るんでしょ、助けが来たら戻るよ。環はあいつらを癒したから気に入られているけど、他の人間はやられるよ」
驚愕の情報を知らされた環である。どうりで、パパが来るはずだ。
と言う事は、水辺にいる訳にはいかなくなったと言う事だ。きっと水の中で襲って擬態するはずだ。環はそう判断し、どうせ撤収になると思い、
「そう言う事なら撤収だな。カズン達の班と合流しておこう」
と言うと、ジュディに化けたシャークは、・・・こういう言い方は変なのは分かっていたが、環としては、シャークとしての印象が強い、で、その元シャークは、環を見ながら立ち上がった。何事かと環が見つめると。
「あのね、環。あたしはゲーリーとはパートナーを解消してフリーになったでしょ。あのソーヤ船長の話の時言っていたこと、覚えてる?環は関心が無さそうだったけど。とにかく、船長は、このミッションが問題なのは女性がフリーになった時で、夜間女性を1人部屋にしないようにと言う話があったの。ほら、夜行生物に襲われたら対応できないかもしれないじゃない。だから、不味いでしょ。だから、環はあたしと表向きはパートナーになるって言うのはどうかしら。環はパートナーは欲しくない事は分かっているの。だから、普通に同室で過ごすって言う事だけよ。承知してもらえないかな」
と、言い出した。環も元シャークが、そんな事を言い出しかねないとは思っていた。とうとう来たかといった所である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます