第13話 シャーク、恐怖の惑星に居る環の許へ
環は欠伸をしながら本部に戻ると、丁度配給船がやって来ていた。
シャーク、乗って来たのかなと思いながら、出迎えに行くと、案の定、
「環、会いたかったよ」
と叫びながら、シャークが配給船から出て来た。環はやれやれと、
「久しぶりだね。裁判は何とか無罪になったそうだね」
と言うと、
「そうなんだよ。皆、随分好意的だったな。で、こっちに行って環の役に立てってさ。環って随分皆から期待されているんだね。何だか俺らと似通った能力があるらしいね。見かけの擬態じゃなく、能力だけを習得するんだな、要するに。特殊能力だってカイ総司令官が言っていたな」
「ホントか、それ」
環は、叔父さんからそんな話はされたことは無かった。だが、言われて見れば第20銀河人とは全く違う生物のはずの自分が、彼等と同じ能力の声を出せるのは、そう言う事だったのかと思える。
シャークは、
「だからさ、俺等と一緒に居たら、そういう能力が極まって、他の銀河人の能力をもっと習得できるんじゃあないかと思っているよ」
環は用心して、
「言っておくけど、お前らと関り合う前に、第20銀河人の声を真似出来たんだから、もどきと関わらなくても大丈夫だから」
と言ってやった。
シャークはへらっと笑って、
「そうなのかな」
と言った。全く油断も隙も無い奴である。環はシャークに懐かれる理由がイマイチ分からず、用心していた。
そして、シャークに言ってやった。
「この、第7班は人数が他よりふたり少ないから、シャークもこの班に入ってよね」
「え、圭たちと同じ班?ヤダね。彼奴は嫌いだ」
「そう言っても、圭が、こっちにシャークを寄越してくれって、総司令官に言っておいたそうだよ。正体が知れているから。他の任務には就けないだろ」
「そうかな、どっち道、誰が考えてもここに寄越すしかないだろ。圭は、そう言えば環の受けがいいから、そんな風に言ったのさ」
何とも言えないもどき達の環をめぐる事情である。
「ふうん」
そう言うしかない環だが、そもそも他の班の人数は足りているから、シャークは圭たちの班に入れるしかない。まさか一緒に居ても喧嘩とかにならないよねと思うと、
「環が言うんだったら、そこに入るけど」
意外と素直に承知したシャークである。
同類が居る班の方が、気楽とも言えるのかもしれないと、ほっとする環だが、はっきり言って、彼等は環に疎んじられることだけは避けたいのだった。
と言う事で、環は装甲車で圭の班が駐留している場所まで、シャークを連れて行くことにした。
道々、何だか気まずくなった環は、話題としてはどうかと思えることを、思わず口にしてしまった。言ってしまって、しまったと思ったが、口から出た言葉は引っ込めることは出来ない。
「どうしてもどきの皆は、私の事が気に入るんだろうな。圭や、死んだエリーもだし、シャークはどうしてなの」
「俺は碧色が好きだな。きっと昔、故郷では湖底が住処だったと思うな。碧い、碧い湖の底だよ。ずっと一族で湖底に居たんだろうな。懐かしくて大好きな色だな」
環はシャークに好きな色を聞いてはいないのにと思ったが、自分の訊ねた事が、この場でもっと気まずくなる事だと思い、色の話で良いかなと思った。
「ふうん、私は晴れた空のスカイブルーが好きかな」
「そうなの」
シャークとしては、『碧色が好きだから、環のオーラと同じ色だよ』と言いかけて、オーラの事は言えないと、誤魔化していた。環のオーラが好きだと言ってしまったら、後にもどきがオーラ食いだと言う事を環が知れば、きっと自分も環のオーラを食いたくて近寄ったと思うだろう。それだけは避けたかった。シャークは環のオーラを食わない。今までも、これからも。そう言う対象とは見ていなかった。圭とは違って。
環は、シャークも自分と同じような天然っぽい奴だと思った。それで気が合いそうだと思われたのかもしれないと解釈しておいた。皆が自分の事をどう言っているかは知っていたのだ。
その後、環はこの場に相応しい話題を思いついた。昨日のハイエナっぽい奴の事などを話しながら、楽しく圭の所へ行き、そこでシャークを下ろし、他の班の様子を見に行く事にした。
圭とシャークは、何も問題は無いように見え、近くにいる班から順に様子を見に行くことにした。
ところが様子を見に行く途中、本部から第2班がSOSを出してきたと連絡があった。事情は連絡できないようで、SOSだけだと言う。環は透視したが、砂埃が見えるばかりで良く分からない。
環は本部のカズンに、砂嵐の場合は計器類がやられては困るので、一旦その飛行艇は上空に逃れるように指示した。
第2班の方に様子見に近付くと、砂嵐のような状態の大きなビルほどの塊が環の方にやって来た。装甲車と言えども、まともに中に入れば崩れるかもしれない。困ったあげく、試しに向うへ行けの声を出してみると、砂嵐は環の装甲車を避け、両側に分かれて通り過ぎて行った。
『無機物にも聞くのかな』
環は一瞬思ったが、そんなはずはない。砂嵐の様であるが、生物だろう。砂に混じっているのかもしれない。
環は驚いて、砂嵐が何処へ行くか、追いかけようかと思ったが、2班の様子を見に行くのが先だと思い、急いで2班のテントに行ってみた。
テントの場所は、無残にも砂で埋まって何も無かった。近くによると砂だけの様であり、生物は居ない。砂を退かすと、テントの残骸が出て来た。もっと砂を奥まで退けると、2班の彼等が着ていた衣類だけあった。
「何かに食われたな。不味い事になった」
環は、本部に連絡してみると、砂嵐が来たから、上空に避難していると連絡が来た。ほっとして、
「砂の中に生物が混じっている。2班は全滅だ。砂嵐を避けて全班撤収させる。各班に指示しろ。撤収だ。上空から観察して安全を確かめてから居りて、乗船させろ。その船が動けなくなったら全滅になるからな、船の安全が第一だからな。私はやつらに避けられているから、ほっといて良い。砂嵐を追いかけて調査してみる。撤収が終わったら拾いに来てくれ」
何だか、環の言い方にカズンは呆れている様だが、実際環を避けているのだから、それで良い。
環は先ほど通り過ぎた砂嵐の立ち去った方向に、追いかけてみるが、影も形も無かった。
「居なくなったな」
見失うほどの時間だったろうか。地面に降りたのかもしれない。それはそれで、不味い気がして来た。そろそろと砂嵐の去って行った方行を走っていると、不意に砂が立ち上がった。驚いて向うへ行けと声を出すと、砂が持ち上がり環は砂嵐の中に居る事が分かった。自分たちが有利と思ったのか、襲って来る。このままでは装甲車が壊れると思い、焦った環はノックダウンの声に変えた。すると、驚いたことに囲んだ砂は燃え出した。ノックダウンで温度が上がったのだろうか。慌てて車の速度を上げて炎を突破した。
炎の中から直ぐに出られたので、それほど砂の中央まで入って居なかったらしい。振り返ると、かなりの大きさの炎が上がっていた。
そして中の何かが、燃え尽きたのだろう、炎は下火になった。
端の燃えカスの様なものを見てみると、羽の生えた、以外と大きな生物の死骸が所々に落ちていた。
「あんなのが中に居たとは。あいつら全く見えなかったな。どうして燃えたのかな」
燃えカスをいくら見ても埒が明かないので、一応燃えカスを回収し、カイに送りつける事にした。
環は、第3銀河本部にここはちっとも安全では無いと、文句たらたらの報告をすると、後に、その生物は数世紀前に絶滅したはずだったが、生き残りがいたらしいとかいう第20銀河からの連絡が来たそうだった。
もういない筈だから、と言われても環としてはどうだかなと言う感想である。もどきの圭に連絡して意見を聞いてみると、もう少しの数は存在しているだろうと言う事だった。そして、正体は知れているので、やって来たら殺すことは出来るが、絶滅種同士と言えるんだがと言う見解である。
環は、7班は平気なのだろうと分かったが、他の班を全滅させるわけにはいかないと思った。
そう言う訳で、環は第7班7人と他の奴4班32人プラス環と言う班分けにして、ふたつの班で行動する事にした。シャークを見かけると寂し気にしていたが、無視しておいた。
カズンにはやばいと思ったら、直ぐに上空に逃げるよう指示し、環は大勢さんでもあまり使い物にならない班員を率いて、引き続き探険及び調査を再開した。
今迄は陸地の一帯を調査していたが、これからは川から海へ向かって、偵察する事になる。第7班7人も別の地域の海岸一帯に向った。環はチラッと彼らの故郷の環境に似ているだろうと思えた。それがどういう意味になるかは、その時、環には分からないのだが。
第20銀河からの資料によると、海中には地球の海洋生物に似た大型の生物が居るとあった。生態系はほぼ海底で、そいつらは普通、人類とは分かれているので、危険は無いとなっている。小型の生物はタンパク源として食用に向いているらしく、そうなるとほぼ地球っぽい感じだ。
しかし、環はどうだかなと思う、用心に越したことは無い。危険が無い場合は、この辺が移住先としては適している。陸地は獰猛な生物が居るし、砂嵐の中の生物は危険だ。
川は海岸近くまで汚れてはいなくて、川底までよく見える。土砂がほとんど見当たらない。
普通、土も川の水と共に海岸まで流れて来て、堆積するのじゃあ無かったかなと、環は思ったが、たどり着いた先の海岸は、岩場だった。
この辺りはそういう地質なのかなと環は考えた。圭たちの方はどうだろうか。しばらくこの辺りの調査をするので、班員に住居を構えるように指示し、環は先日の配給船が運んで来た偵察用の小型飛行船で、圭達の班のいる所迄様子見に行く事にした。
陸地を飛ぶより、海の上を行く方が近かったので、飛びながら海を見ると、コバルトブルーで美しく、海中を泳ぐ魚に似た生物は綺麗な色で珍しく、割と低空飛行で飛んで下を眺めていた。
すると突然、大きな触手の様な物が海から飛び出してきて、環の飛行船をもう少しで捕まえそうになった。環は慌てて急上昇したが、透視能力で察することは出来ていなかった。
上に逃げた後、
「危なかったなあ」
と一人呟き、環はどうして分からなかったのかなと思った。
捕まえそこなったと思って、触手は海中に戻ると、見た感じ直ぐ存在は分からなくなった。
「透明なんだな」
環は思い至った。と言う事は、環が透視しても存在は分からないんだから、第20銀河の人達も知らない可能性がある。圭の所へいって様子を見よう。用心するように言わなければならない。
環ははっとした。まさかもう、海に入っていないよねと思う。
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