第12話 何と言っても、もどきはもどき、環は天然
環の予想どおりズルをしたものの、見事に撃沈したミウと、年食って悟りを開いていると噂の〈もどきの圭〉。今日からミウの部屋で一緒に暮らす事となった。
ソーヤ船長のお別れパーティーからくすねて来たウイスキーの残りを、二人してちびちび飲んでいた。
「ふられちまったな、予想どおり」
「ふん、こればっかりは幾らリーダーが予想して居たって、挑戦するしかなかった。直にシャークが配給船に乗ってやってくるし。そしたら絶対アイツ、あぶれた者同士で同室にしてくれって環に提案するよ。そしたらひょっとすると環も良いって言う可能性があるよ。そんなの我慢できないね。今まで敵方でリーダーの言う事聞かなかったくせに。あんまりだ」
「そんな心配しているのか。環はノーマルだよ。同室は無いだろう」
「そりゃそうだよ。だけど、お友達同士って名目なら、良いって言う可能性がある」
「だが、私とは同室にはならない。聞くまでもなくね。シャークとも同室は有りえないな」
「そう思う、リーダー。だったらシャークはのこのこ、こっちにやって来たあげく振られるんだ。ざまあ見ろ」
「あははは、環も自覚無いから返って残酷だな。しかし、シャークはそこまで期待して居ないんじゃあないかな。ただ、側に居たいだけだ。あのオーラは第22銀河人にはたまらない。他の銀河の奴も色々食ったが、ああいうオーラは初めて感じる旨さだ。だが食って殺してしまったらそれでおしまい。彼を失ったら二度とは味わえない。皆、進化したな。それだけは、あいつ等でも利口になった事は認めてやるさ。側で少しずつオーラを味わうのが、一番だって事は分かっている。それに、嫌われないようにしないとね。味が落ちる。友人を装えば至福の時は続くよ」
「でも、あまり寄って集ると、元気無くならないかな」
「ミウは優しいね。心配はいらない。環のオーラは最強でもある。あの龍昂の血を受け継いでいるからね。生憎、龍昂は私達を内心拒否しているから、彼のオーラは不味いがね」
「そうなの。あたし達を嫌わなかったら、環の一族は皆オーラが美味しいのかな」
「おそらくね。とにかく、私たちは彼に寿命が来るまで生きながらえてくれるように、守り続けるし、ご機嫌はしっかり取って、嫌われないようにしないとね。他の奴に会ったら、これだけはくれぐれも、守るように言っておくんだよ」
「え、そういう言い方ってどういう意味」
「私も彼を守り通すには、年を取り過ぎている気がしてね。いや、心配しなくても良いよ。まだまだ、環の側に居るつもりだ」
そんな、アメーバもどきの思惑はつゆ知らず、環は自室でカイ叔父さんに一杯食わされた件を、父崋山に、切々と、出来るだけ傷ついた環と言う状態を同情してもらう文言を考えていた。
しかし、それなら家に戻って来いとは言われたくは無いので、そこの所がどう訴えかけるかの技が必要だ。第20銀河に配属されるように、父親の影響力を利用したいのだ。そもそも、家を飛び出してきたようなものなのに、自分でもお調子者だとは自覚していた。だが切羽詰まった場合は、背いた親だって利用しようと、割合ドライな感覚の環である。
「カイ叔父さんは全く当てにならないので、パパの口利きで第20銀河基地に配属させてほしい。子分の技を極めたいので・・・」
帰って来いと言われないように、あまり色々事情は言わない方が良いと思い、結局環は、事務的な短い文章で連絡した。さりげなく要求してみる。それで頼みを聞いてくれるかどうか、賭けるしかない。
ソーヤ船長の送別会の翌日、何とか一回目のパートナー選びの騒動が落ち着いたようなので計画通り、環は乗員たちをグループ分けして、調査隊を組織した。
前回の探険とは違って、第20銀河の透視能力の出来る人々が、あらかじめ危険が無いか、この惑星を調べてくれたそうで、環が居なくても何とかなる筈である。
それなのに環は司令官なんかに任命されてしまい、建前はこの惑星で任が解けるまでは過ごすしかない。
ため息交じりに、全員を集合させて、これからの方針を伝えるため壇上に立った。環は皆を眺めると、ほとんどのパートナーはすっかり新婚さん気分の様で、環の話を聞くよりも、パートナーどうして私語ばかりである。環は内心大丈夫かなこいつらと思う。頑丈な住居を立てるまでは、夜はこの惑星の夜行性生物が出て来るから油断はできない筈だ。
環は、
「これから少人数の班に分かれて、調査の必要な地域に行くんだからな。油断するなよ。私は何処かの班について行くとかは無いからな。危険が有る所に呼ばれれば行くが、身は一つだからな。自分らで対処するのが基本だから、気を引き締めろよ」
注意を言うだけは言ってみる。すると、環が振ったはずのミウが、気にしていないのか、
「司令官、一応あたし達の班に同行するのはどうですか。何か問題がおこる前は、どこかに混じって居るしかないでしょ」
と誘って来る。
「せっかくのお誘いだけれど、此処に残って居るよ。本部は必要だからね。この飛行艇で情報を取りまとめるカズンの班と居る。もうすぐ配給船が来るから、追加で必要なものがそれまでに取りまとめられれば、要求の連絡も必要だしね」
「いつ来るんですか」
「さあね、早く来いと要求すれば、ワープですぐ来るんじゃあないかな」
「わあ・・」
何故かミウは感嘆したような声を出した。
ミウはもどきの圭と並んでいたので、それで環はシャークが来るのを知っているのだなと思った。圭がシャークは正体が分かってしまえば、居場所は無いから、此処に寄越すようにカイ総司令官に頼んだのだった。環は、シャークがやけに自分に懐いているような感じだったのを、思い出した。
『ああいう風に、懐かれてもな。ちょっと重いんだけどな』
環は殺処分のエリーの事も思い出して、どうしてこう自分の周りに重い奴が集まるのかなと不思議に思った。
各班をさっさと送り出し、第3銀河本部からメッセージが来ていたので、読んでみた。環は思わず、
「なんだ、もう明日やって来るのか。こんなに早く来るなんて、2日前に来ておいて、早すぎやしないか。どういう事かな」
と呟いてしまった。側に居たカズンも、
「何か積み忘れがあったんですかね。こちとらはあの積み荷で気にして無かったんですがね」
と話しかけて来た。環は積み荷の一覧表を思い浮かべ、
「とりあえず積んである武器を班に振り分けたが、何があっても大丈夫と言う感じじゃあなかったな。ほら、敵の残党がやってきたら、迎撃しなけりゃ。迎撃ミサイルの設備が居る」
と思い至った。
「ですよね」
カズンも同意した。
日が暮れて「調査班の皆はどうしているかな」とカズンたちと話しながら過ごしていると、環の懸念通り三つもの班からSOSが入り、どう猛な夜行性猛獣にテントを壊されたなどと言って来た。
「ちぇっ、見張りは付けていなかったのかな。壊される前に何とかしろよ。保護生物にするかどうかだって、まだ決める前なんだから、殺処分もやむ負えない場合は許すって言ったよね。カズン、聞いていただろ。私の話を」
「私は聞いていましたよ。しかしながら、調査班の耳は、責任は負えません」
「うん、聞いている様には見えなかったな。じゃあぼちぼち近場から行ってみようかな。あ、一人で十分だから。君らは残って。他の班からの連絡があるかもしれないし」
そう言って、環はぼちぼち猛獣とやらを退治に行く事にした。余裕こいているのは、透視で、小型のハイエナっぽい生き物がほとんどだと知れていた所為だ。
皆、夜目で大げさに報告しているだけと分っていたからである。
ひとり装甲車両に乗り、面倒なので、向こうへ行けと声で指図すると、いろんな変わった種類ではあったが、すんなりどの生物も言う事を聞いた。
ノックダウンするまでもなく、これはおそらく第20銀河の人が来ていて、少し慣れているのだろうと思えた。
しかし、一番遠く迄行っていた班を襲っていた生物は、班の食料を夢中で食べていて、向こうへ行けが中々通じなかったが、環はノックダウンして、彼等が食い物をのどに詰まらせては可哀そうだと思った。
しつこく向うへ行けと叫んでいると、何を勘違いしたか、環の方へ十匹ぐらいやって来た。
「あれ、効かないのか。変だな」
と思い今度は睡眠の声にしてみると、これは効いて、皆眠ってしまった。やれやれである。
「きっと食い意地が張っていたんだろうな。なめられたな」
と思って、環は声が効かなかった事にがっかりしていると、暗闇のなかで、まだうろついている奴が居た。
「ちぇっ睡眠の声も聞いてないのか」
暗闇の中を何が居るのか見ていると、一回り小さい奴だ。子供の様である。
「チクショウ、ちびに馬鹿にされている」
仕方ないので、車から降りしっしっと追い散らした。しかし危害を加えないと思われたらしく、言う事を聞かないし、環の側から離れない。
木の上に逃げている班の面々が、上から叫び出した。
「環さーん、たいがいでどこかにやってくださいよ。それ、俺等にはさっき噛みつこうとしていたんですよ。狂暴だったんですよー。ちびだと思って油断しないで下さい」
「そんな事、お前らから言われる筋合いは無いね」
それならばと、近場から寝るように声を掛けると、やっと、うとうと眠り出した。夜明け近いし、夜行性なので実際眠かった可能性がある。環は、こいつらには声の効き目が無いかもしれないと思えた。
夜が明けて来て、眠って居る生物たちを見ると、泥だらけでおそらく住処は地面の穴だろう。観察すると、目らしきものが見当たらないし、耳はちびには見当たらない。大人は耳かも知れない感じの突起だけだ。ちょっと見た感じは口や鼻だけである。
「なるほど、夜行性で目は要らなくなったのかな。と言うより、地下で暮らして居たのかも。食い物の匂いできっと地上に出て来たんだな。耳は小さくて発達していないから、私の声が効きづらかったようだな。それにしても、明るくなっても外に居たら、他の肉食獣にやられるかもしれない。どうするかな」
環が思案していると、
「そんな事、俺等には、どうしようもないじゃあないですか。後は自然に任せるしかないでしょ」
この班の班長ギルが言い出すが、環は、
「私が寝かせたから、不自然な睡眠だよ。普通、今時は巣穴で眠る筈だ。どうしようかな」
と考え中、案の定、肉食獣達が辺りをうろつきだした。
環は、向こうへ行けと言ってみるが、効き目はない。
班の皆はうろたえて、銃など構えだしたが、
「自然に任せたいんだろ、さっさと片付けて、もう一度本部にテントを取りに戻れよ。此処は私が何とかするから。あの猛獣は耳があるから寝かせる。お前らここで眠りたくなければ早く退散しろ」
「わあ、皆早く行こうぜ」
そう言って班の皆は慌てて立ち去った。
環は睡眠の声を出したが、彼等は沢山の、餌である目の無いハイエナっぽいのを前にして、眠る気は無いようだ。
ノックダウンすれば、また別の食物連鎖の猛獣がやって来そうで、思案の環である。
仕方なく、一番大きいリーダーっぽい奴を蹴って覚醒させてみた。そいつは辺りに天敵の匂いでもしたのか、ピンチを知り、仲間を慌てて起こして、逃げ出した。
環はちょっと周りの猛獣たちを睨んで威嚇してみた。この技は子供の頃、爺さんに教えてもらっていた、いじめっ子撃退の裏技である。効き目は有った。猛獣たちは、たじろいて後ずさりを始めた。どうやら、声だけを頼りにするのではなく、爺さん直伝の技も使うべきらしい。
環は、『これから爺さんの曾孫としての能力が、開花するのかな』と思う所である。
威嚇で時間稼ぎをしてやり、目無しハイエナっぽいのを、ある程度遠くまで逃げさせ、そして威嚇を止めて、
「じゃ、もう行って良いよ。ごめんね、邪魔して」
等と言って、猛獣たちに追いかけさせた。やれやれと思って猛獣たちの喧騒を眺めていると、圭の班が側に来ていて、圭は、
「環は優しいねえ。だからあの子に懐かれてしまったね」
等と言い出した。
「まさかあ、あのちびが?懐くほど側に居なかったよ」
「いやいや、あいつらは見かけによらず、勘が鋭くて利口だよ。もしまた会うことがあったら、彼等が環の恩を忘れていない事が分かるだろう」
「まさかあ。そんな事、圭にもあったの」
環はそう言いながら、圭は自ら以前の経験を皆に披露していることに気付いた。
側のミウが年食っていると、既にばらしたのかもしれない。まあ、環が心配してやる必要も無さそうである。
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