第10話 それからの事
シャークが牢に連れて行かれるのを見送った環は、被害状況を確かめに船内を確認しに行ってみると、乗員のほぼ3割の人数を失っていた。若いアメーバもどきは居住域でバスタブに放り込まれて始末されていたので、エリーに取り付いていた彼が、一人で殺戮していたのだ。ため息が出た。
環は船長室に報告に行った。圭は未だに船長と一緒に居た。
環は、
「大変な被害状況です。私がズーイ副船長と一緒に、始めから行くべきだったのではないですか」
と聞いた。こういう言い方は、部下としては良くないと分かっていたが、それでも言ってしまうのが、環である。
「いや、カイ総司令官に、環には危険な任務を任すなと言われている」
「本当ですか、そんな事を言っていましたかっ」
環は後の言葉は出て来なかった。すっかり、勢いの無くなった気分だが、船長に、
「とは言っても、君が居なくては今回も収拾が付かなくなっていただろうがな。居てもらわなきゃあ困るんだが」
「そうですか」
「しかし、乗務員が足りなくなってしまった。今回は、引き返すしかないな」
そう船長が言い出したので、今回も失敗に終わったと思う環だった。
「がっかりしないで、次は上手く行くよ、きっと。もう邪魔する者はいないから」
圭は環に、にっこりと言った。
環は、自分は何だかアメーバもどきの人に人気があるみたいだけど、どういう事かなと考えた。
再び、第3銀河の総司令官室に舞い戻った環である。
「叔父さん、何だか船長とかに、環を特別扱いにしろっていう感じの事を言ってない?困るんだよね、そういう特別待遇は。それはそうと、思いついたけど、ノックダウンの声とかの他に、言う事を利かせる声って言うのがあったよね。子分たちはそれを皆に言って有無を言わさず、ピンチの地球から素早く逃げたんだったよね。覚えているんだ。その時の事を。環も習得しておきたいな。子分は環に遠慮しているから、ノックダウンの声も習得に時間が係ったから。それで第20銀河に行って、本格的に教えてもらいたいけど、良いよね。出来るように成れば何かと便利だよ。緊急事態の時、もたつかずに素早く対処できるし、言う事を聞かない奴に聞かせれば、穏便に言う事を聞くようになる。絶対この技は必要だな。ちょっと、行って来ようと思う。良いよね」
環は、先にカイに痛い所を付いた後、要求を突きつけると言う技を出した。誰が教えた訳でもないが、交渉の仕方は心得ている。カイはそうはいくものかと思ったが、顔には出さず、
「おやおや、第20銀河にお勉強に行くって。アメーバもどきの圭との惑星探索は取り止めかな」
「いや、それは行くよ。でもそうだな、そっちの方が早くなるだろうな多分。その任務が終わったらの話。そこから第20銀河は近いでしょ。惑星の大体の様子が分かった後に、ちょちょっと、第20銀河に行って来るんだよ。近くまで行っているから良いでしょ。皆がそこに永住する事になれば、定期航路だってできるんじゃあない。行っても行ったきりとかにはならないよね。これからは」
「しかし、実際に行ってみないと、永住できる環境かはまだ分からないだろう」
「もどきの圭は、永住できると言っていたよ。彼は年食っているそうだから、もう其処の事は知っているんじゃあないかな」
「そうか、じゃあそう手配しておこうかな。しかし、これって、特別待遇じゃないか。良いのかこの待遇は」
「もう、特別にしているから、二つやっても同じと違う?同じやるなら、環の都合も聞いてくれない?」
「はいはい」
「じゃあよろしく」
カイは、この要求はとてもじゃないが聞けないと思った。『崋山の子供なんかが第20銀河に行けば、もう戻って来れはしないだろう。何せ、崋山は女王様のお気に入りだったから。崋山にも行かせて良いかとか、訊ねる気にもなれないな。言ったらあいつ、環を戻せと騒ぐだろう。環を今、崋山の所に戻す訳にはいかない、重要な人材だ。この要求は無視するしかあるまい』そいう結論に至った。
カイが環の要求をもみ消してしまった事を知らず、環は再び乗員を増やした船に圭と共に乗り、例の惑星へ出発となった。リー船長や、ズーイ副船長はアメーバもどき、もとい第22銀河人の協定違反についての裁判的な会議に証人として加わるため、任務を降りた。もどきの圭はどうして環について行けるとのかと言うと、本人が言っていた通り、傍観者、関係は無いとみなされた。敵のアメーバもどきの人名を船長達に教えた件は、この際、一協力者と言う位置付けで、会議自体には関係無しと言う事だった。シャークは証人として出席するが、
「もどきのエリーひとりの仕業、と言う結論になる事になっている。罪に問われはしないから、心配はいらない」
と、圭は言った。環がほっとしていると、
「次の船で、こっちに来るだろう。彼の居場所はあの基地には無いからな。俺がカイ総司令官に、こちらに来させてくれと言っておいた」
「そうなの、圭は随分皆に顔が聞くんだね」
「龍昂さんのお墨付きだからねえ。誰が言い出したんだっけ。環じゃあないのかな」
「そうだった」
環は思い出した。
圭は少し笑った。
「環は面白い奴だな。実際会う迄、こんなだとは想像もしていなかった」
どう面白いのか疑問だったが、こういう事は、聞いても圭は言ってくれない事は分かっていたので、環はその話はそれで打ち切った。ふと思い出して、第20銀河に声の練習に行く事は、圭に言っておいた方が良いだろうと話しておいた。圭は何故か、にやっとしたように思えたが、理由は分からないので、気のせいと思う事にした。
三度のワープの後、いよいよ惑星が見えて来た。事前準備として、兵士たちは辺りの偵察に余念がない。周りの様子を交代で偵察し出していた。異常が無ければ着陸となる。
この船の船長は、ソーヤと言う名のかなり年配の人だった。環としては面識は無かったが、崋山やイヴとは同じ船で任務に行った事があると、彼本人が環に話した。
惑星に着陸となる前に、船長は環を呼んだ。
「全員に話がある」
と船長は言い、
「乗員を二組に分けて聞かせる。時間を置かず話すから、乗務員を半分ずつに分けろ」
と言った。
時間はかけない、一時間ほどの話と言う事で、環は二組に分けた全乗務員にそう通達した。
環は何の話かなと思いながら通達したが、どうやら分かっているような様子の人も居る気がした。
「何を話す気なんだろうね、圭。圭は耳が良いから知っているんじゃあないかな」
環は圭に聞いてみると、
「ふふ、聞いてのお楽しみさ」
とにっこりした。
船長の話の後、環が泡を食う展開にまではそう時間はかからなかった。
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